World Animal Protectionのブラジルの畜産動物の福祉の格付けはB判定、一方の日本はD判定(=日本のほうが2段階低い)をもらっており、リオ2016オリンピック・パラリンピック(リオ大会)と、東京2020オリンピック・パラリンピックで鶏肉においてもアニマルウェルフェアレベルが大幅に下がることが懸念されている。
ではブラジルではどのような飼育がされているのか、1つの論文から日本との明らかな違いが判明した。
ブラジルのパラナ連邦大学動物福祉研究所のJF Federici、ECO Sans、APO Souza、CFM Molento、ベルギーの農業水産研究所 アニマルサイエンスユニットR Vanderhasselt 、同じくベルギーのゲント大学獣医学部 FAM Tuyttensによって2011年に11の農場で調査が行われた。
鶏肉の主要産地である1つであるリオグランデ・ド・スル州のと畜場に運ばれる農場を無作為に抽出したもので、査読者も3名つけているため、論文としての精度は高いと考えられる。
ブラジルは世界第3位の鶏肉生産国で4分の1ほどは輸出されている。なお日本は生産量は10位に入らず輸入国。
これらを踏まえて、内容を見てみる。
the Welfare Quality(r) protocolを用いて評価。
中央値(最小 – 最大) | |
---|---|
鶏舎面積(m 2) | 1,200(600~1,820) |
鳥の数/家禽の家 | 13,550(6,500~19,939) |
評価中の鳥/家禽の数 | 12,928(6,216 – 18,527) |
評価中の鳥の日齢(d) | 40(35~44) |
屠殺時の鳥の日齢(d) | 42(38~45) |
評価中の生体重(g) | 2,600(2,160~2,960) |
飼育密度(kg / m 2) | 28.5(22.4~31.3) |
飼育密度(鳥/ m 2) | 10.5(10.2-11.7) |
屠殺時の日齢が42日間ということで日本よりも短く、体重も平均値で0.3㎏少ない。
飼育密度は28.5 kg/㎡が平均、最大でも31.3Kg/㎡であり、EUやEU各国の上限値の基準よりも低い。これはブラジルの従来の農法である開放鶏舎であるためと分析されている。別のレポートでもブラジルの飼育密度がEUレベルであることが示唆されている。
*ブラジルではブロイラーの福祉を保証できる具体的な法規制がない。ただしブラジルは、ブラジル家禽連合(UBA)と共同で、2008年に鶏、七面鳥、産卵鳥の福祉プロトコルを制定している。このプロトコルのなかで、飼育密度の上限として39kg/㎡を推奨している。
BEM-ESTAR ANIMAL NA AVICULTURA DE CORTE Fale conosco Ferramentas de compartilhamento ) 08 de jan de 2015
29 SET 2014 Bem estar na avicultura
Tecnologia e Manejo 07/10 Bem Estar na Avicultura
日本は、46.68 kg/㎡。最大で58.99kg/㎡であることが農林水産省の補助金を用いた畜産技術協会のアンケート調査(2014年)でわかっている。土地がないという言い訳をよく聞くが、土地がないことは過密飼育をし福祉をないがしろにして良い理由にはならない。適切な頭数しか本来は飼育するべきではないのだが、入るから、生きているからと詰め込むのが日本式なのだろう。
測定 | 中央値 | 最小値 | 最大値 |
衰弱(%)2 | 0.13 | 0.03 | 0.66 |
淘汰(%)1 | 0.6 | 0.2 | 1.7 |
死亡率(%)1 | 5.2 | 2.9 | 6.9 |
淘汰:死亡率(%)1 | 11.0 | 5.0 | 41.0 |
膿瘍(%)2 | 0.03 | 0.01 | 0.05 |
腹水(%)2 | 0.17 | 0.00 | 0.54 |
跛行(スコア4又は5の割合)1 | 14.0 | 4.0 | 27.0 |
1:農場内/2:屠殺場内
悪い点も指摘されている。
ホックバーンという膝(関節部分)などの熱傷率や、足蹠(足の裏)の皮膚炎の割合が高かったと言う。皮膚炎と言われると赤くなったりというものを想像するかもしれないが、真っ黒に焼けただれたようになる。「潰蕩を伴った化膿性皮膚炎」(わが国のブロイラー鶏における趾蹠皮膚炎の発生実態に関する研究 橋本信一郎 2012)だそうだ。
通常この原因は糞の体積状況であるが、調査した農場の糞の体積状況、深い木屑が敷き詰められた地面の状況は良かったため、遺伝的な要因もあるのではないかと疑われている。
糞の体積状況や地面の状況は、飼育密度や換気、敷料の厚み、そして途中で敷料を適宜追加しているかによってくるが、日本がどうなっているか、気になるところである。
わが国のブロイラー鶏における趾蹠皮膚炎の発生実態に関する研究 橋本信一郎 2012で足蹠皮膚炎(FPD)の国内での発生率が4段階(0が良、3が悪)調査されている。「スコア Oが 1,181例 (13.1%)に、スコア 1は 2,992例 (33.3%)、スコア 2は 3,000例 (33.4%)、スコア 3は 1,812例 (20.2%)」(8,985羽中)と発症率が高いことがわかっている。調査では、オスのほうが発生率が高いこと、季節では冬のほうが発生率が高いこと、また「既に7日齢から発生し、日齢と共に重度になっていく ことが判った。」という。さらにその病変した鶏を調べると「18%の個体には多核巨細胞の出現も認められ、肉芽腫性炎へ」変化しているなど、かなりの苦痛を伴っているように読める。なお病理学的、細胞学的検査は行われているが、環境、鶏舎の状況などは調査結果には書かれておらず、不明であり、また発生原因などには言及されていない。
アニマルウェルフェアの観点からの国際的に認められたプロトコルによる国内農場の研究が望まれる。
EUと日本の写真を比べてみよう。
日本の方は画質が悪いが、新しい敷料を追加していないと思われることと、EUの方は乾燥した木くずの原型が見えるが日本は糞が踏み固められているようにみえる。
この調査内では、淘汰対死亡率の割合に、大きなばらつきがあったという。
Welfare Quality (r) プロトコルは、この死亡率中の淘汰の割合は50%を超えるほうが理想的であるとされているとしているという。苦しみを長引かせることは福祉的ではないためである。たしかにその通りだ。
「生命あること」を重視にする日本において「淘汰による殺害」が「長く苦しんで死んでいく」よりもひどいものに見えるかも知れないが、大きな間違いであろう。少なくとも、最終的に必ず殺される畜産動物や実験動物に関して、その考えは通用しない。苦しみを長引かせることは動物虐待であると認識し、できる限り早急に、適切な訓練された方法で殺すことが、畜産業を営む者の義務である。
もう一つ、ブロイラーたちは光を照らされ続けるという虐待環境下に置かれていることが多い。ブラジルのこれらの農家では、自然日光と人口照明(5ルクス)により最大16時間の光にさらされている、つまり暗期は最低でも8時間設けられていた。
日本を見てみよう。
2014年の畜産技術協会のアンケートより引用
件数 | 割合 | |
A 4 時間以上 | 273 | 27.4% |
B 3~4 時間 | 15 | 1.5% |
C 2~3 時間 | 11 | 1.1% |
D 1~2 時間 | 19 | 1.9% |
E 設定していない | 677 | 68.1% |
合計 995 | 100.0% |
68.1%の養鶏場が、鶏たちに休まる暗くなる時間を与えていないという*。
そもそもアンケート自体4時間以上からしか集計してないことにも意識の低さが現れている。
なお、EUのディレクティブでは、24時間のうち最低6時間は暗期を設定することとされている。
しかも、農林水産省によるブロイラーにおける一般的衛生管理マニュアル(平成14年)のなかのブロイラーの出荷マニュアルには「照明は出荷前7日前から24時間点灯とすること。」と書かれている。アニマルウェルフェアに反することをマニュアルとして提示し続けている国の姿勢には疑問を感じる。
明るくし続けることで鶏は休めずに餌を食べ続け太り続ける。急速に成長させられるという遺伝的にすでに異常を持つブロイラーたちにとって、さらなる苦痛を味わう原因の一つである。また、明るい中で目をつむっても、体や脳は光を感知し、24時間のリズムが狂っていくため、心身の健康を保つことができなくなる。
でも、これも50日で殺される鶏にとって、安らぐときがなく苦しみ疲れ続けるということはあれど、人間への不利益、つまり健康被害が表に出ることは少ないのかもしれない。再び、生きているからと言って、なにをしてもよいのか、という問いかけをしなくてはならない。
これらの差は日本人にとって衝撃的な差ではないだろうか。
BとDのレイティングの差は歴然である。
なお、評価はWelfare Quality (r)プロトコルの訓練を受けた経験豊富な専門家による評価だそうなので、国ごとに異なるようなオルタナ・ファクトなどではなく、信頼性は高い。
論文は他にも多くの情報がかかれている。一度読むと勉強になるだろう。
http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S1516-635X2016000100133
参考
Assessment of Broiler Chicken Welfare in Southern Brazil
*『日本のブロイラー生産における 福祉的飼育法の提案』小原 愛
畜産技術協会 アンケート