2019年4月17日、死んだ豚を無許可焼却した疑いで愛知県愛西市の養豚業者が書類送検された。
住民から「豚を燃やしてるとの通報をうけて署が調べたところ「豚コレラの可能性もあるので、先週から死んだ豚を数頭燃やした」と答えたという*1。
しかしその後の供述で、実は「10年ぐらい前から計約千頭を焼却した。(処理施設への持ち込みに必要な)獣医師の診断を受けるのが面倒だった」ことがわかった*2。
昨年2018年9月には、豚コレラが検出された岐阜の農場で、豚の死骸を混ぜた堆肥に混ぜていたと複数のメディアが報道した。
岐阜市の養豚場で3日以降に約80頭が死に、豚(とん)コレラウイルスが検出された問題で、うち約60頭は堆肥(たいひ)にするため発酵させていたとみられることが岐阜県への取材で分かった。
-豚コレラ 大量不審死報告せず堆肥化 岐阜の養豚場 毎日新聞2018年9月11日
岐阜県は11日、市の獣医師が豚の急死を県に報告した3日以降、養豚場が豚の死骸を混ぜた堆肥を市内にある「JAぎふ堆肥センター」に搬入していたと明らかにした。
-豚死骸混ぜた堆肥搬入 豚コレラ検出の農場 日本経済新聞2018年9月11日
(しかし、その後岐阜市は調査を実施し、法に抵触したとする事実は確認されなかったと報道機関に発表している)
自己の農場内であっても、畜産動物の死体を、勝手に焼却したり肥料化する行為は許されていない。畜産動物の死体を処理する際には、それに関わる「化製場等に関する法律」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」を遵守しなければならない。
化製場等に関する法律
第二条 獣畜の肉、皮、骨、臓器等を原料とする皮革、油脂、にかわ、肥料、飼料その他の物の製造は、化製場以外の施設で、これを行つてはならない。
2 死亡獣畜の解体、埋却又は焼却は、死亡獣畜取扱場以外の施設又は区域で、これを行つてはならない。ただし、食用に供する目的で解体する場合及び都道府県知事の許可を受けた場合は、この限りでない。
化製場の許可を受けた場所でなければ、畜産動物*を肥料化してはならないし、死亡獣畜取扱場の許可を受けた場所でなければ、牛、馬、豚、めん羊及び山羊**の死体は焼却してはならない。自社敷地内であっても許可が必要なのは変わらない。
*「獣畜」は牛、馬、豚、めん羊及び山羊と定義されるが、第二条第一項は同法第8条により鳥類にも準用される
** 第二条第二項は鳥類には準用されない
また畜産動物の死体は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律における「産業廃棄物」にあたる。
廃棄物の処理及び清掃に関する法律
第二条 4 この法律において「産業廃棄物」とは、次に掲げる廃棄物をいう。
一 事業活動に伴つて生じた廃棄物のうち、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令
第二条 法第二条第四項第一号の政令で定める廃棄物は、次のとおりとする。
十一 動物の死体(畜産農業に係るものに限る。)
「産業廃棄物」にあたる畜産動物の死体は、その処理にあたって同法の規定や基準を守らなければならない。産業廃棄物の収集、運搬、保管、処分については細かい基準が設けられており、自社敷地内かどうかにかかわらず野放図に死体を放置したり埋却したりすることは許されていない。
今回豚コレラで注目された豚の死体の違法な処理だが、これまでもたびたび畜産動物の死体の違法処理は行われてきた。
2012年6月、千葉県内において、死亡した家畜と家畜の糞尿を自己敷地内に不法投棄した畜産農家が、廃棄物処理法違反の疑いで逮捕*4
2016年7月、沖縄県国頭村の養豚業者を立ち入り調査。この業者は22年前に養豚業を始めて以降、豚舎から数百メートル離れた所有地に重機で溝を掘り、豚の死骸を廃棄してきたという。県と村の調べに業者側は投棄を認め「ほかの業者も同じように投棄している」と話したという*6。
2016年10月、秋田県横手市の農場で、敷地内の堆肥中に死亡豚を放置。「化製場法」に違反する疑いがあり、横手保健所が横手警察署と連携して調査*3
2017年4月、新潟県上越市の養豚業者が死亡豚を畑に埋却し、死体を不法投棄したことから逮捕*5
推測だが、表に出てきたこれらの違法処理は氷山の一角に過ぎないのではないだろうか。養豚場で死亡した子豚を堆肥に混入させるという話はたびたび耳にするし、そもそもそういった行為が違法だという認識がない場合もあった。さらには「農家の負担になるなどの理由から、こういった違法処理が見逃されているケースが多い。」という家畜保健衛生所のスタッフもいた。
写真は日本の養豚場の堆肥施設だ。豚の死体が積み上げられているのが分かるだろうか。
積み上げられた死んだ豚の一部は堆肥に埋まってしまっている。
ここで堆肥化するつもりなのではなく、この後化製場か死亡獣畜処理場へ搬出もしくは、産業廃棄物として搬出されるのかもしれない。それまでこの堆肥場で「一時保管」しているだけなのかもしれないが、写真を見る限りこの保管状況自体が問題あるように思える。
産業廃棄物を保管する場合は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」第十二条2に定められた「産業廃棄物保管基準」に従わなければならないが、その基準を逸脱しているようにみえる(「産業廃棄物保管基準」詳細については「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則」第八条)。
保管する場合は周囲を囲わなければならないが、これでは囲われているといえないだろう。そもそもここは堆肥の保管場所であって死体を保管する場所ではない。保管するのに必要な掲示板も見当たらないし、覆われてもおらず、ハエやねずみが発生しない対策もなされていない。
鶏の場合は、豚よりも違法なケースが多いかもしれない。農場内の堆肥の中にその死体が混ぜ入れられているの頻繁に見かけるからだ。それらは化製場の許可を得ずに堆肥に混ぜ込んでいるのならば違法となる。
法律を守るかどうかは結局は個々人のモラル、ここでは畜産業者のモラルに委ねられることになるが、普段畜産動物をどのように扱われているのかを考えると、かれらに法令遵守の精神があるのかどうかは疑問だ。
なぜなら、もう長い間、畜産場では「動物の愛護及び管理に関する法律」に違反する状態が続いているからだ。例えば同法の罰則規定は次のようになっている。
第六章 罰則
第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。
2 愛護動物に対し、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、又はその健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること、自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと、排せつ物の堆積した施設又は他の愛護動物の死体が放置された施設であつて自己の管理するものにおいて飼養し、又は保管することその他の虐待を行つた者は、百万円以下の罰金に処する。
しかし実際には鶏は強制換羽で給餌給水を止められ衰弱し、病気になっても治療は行われず、豚や牛は排泄物の堆積した施設に収容され、鶏は他の鶏の死体と一緒にケージの中に長期間閉じ込められているのだ。
「動物の愛護及び管理に関する法律」は畜産動物の扱いに関する唯一の法律だ。その法律が無効と化した畜産場で、死体が無許可で堆肥化されたり、焼却されたり、埋却されたりなどの違法行為は、今更驚くにあたらないのかもしれない。
しかし畜産業者であっても社会の一員である以上、法令遵守義務を負うのは当然のことだ。関係法令を把握し、畜産業界全体で法令遵守の意識を共有してほしいと思う。
*1 「豚コレラか」愛知の養豚業者、豚の死体焼却 県検査へ 2019年2月19日朝日新聞デジタル
*2 死んだ豚を無許可焼却疑い 養豚業者書類送検、愛知 2019年4月17日産経新聞
*3 県南の養豚場における肥育豚の死亡事案について 平成28年11月4日農林水産委員会提出資料
*4 死亡した家畜及び家畜のふん尿処理は適正に行いましょう。家畜衛生だより