前回、畜産物のJGAPについて「JGAP農場用 管理点と適合基準 家畜・畜産物」のパブリックコメントが行われましたが(2017年1月17日にパブコメ終了)、この畜産物のJGAPの総合規則についてのパブリックコメントが募集され、アニマルライツセンターからも提出しました。
※2017年3月6日(月)17:00 締め切り
「JGAP 総合規則【家畜・畜産物】」のパブリックコメント募集
http://jgap.jp/LB_05/public_comment-GR2017katiku.html*終了しました。策定された総合規則が、動物福祉を保証できるものになったのかどうかは、このページの最下段をご覧ください。
この総合規則は、畜産物JGAPの審査・認証などの運営全体について規定されるものです。
前回パブリックコメントが行われた「JGAP農場用 管理点と適合基準 家畜・畜産物」ではアニマルウェルフェアが必須項目として挙げられており、JGAP認証を取得するためには、下記の基準に適合することが求められています。
「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」に基づいた対応が行われているかについてチェックリスト(附属書Ⅰ)を 活用して、飼養環境の改善に取り組んでいる。
このチェックリストとは、2011年に公開された畜種ごとの「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」の後ろに2016年6月に追加されたものです。
畜産物のJGAPを取得するためには、このチェックリストを利用して飼養環境の改善に取り組んでいなければならない、とされてはいますが、今回パブリックコメントが行われる「JGAP 総合規則 家畜・畜産物」(案)では、この基準に適合しているか否かを、どのようにして審査するのかが明確になっていないように見えます。
忘れないでほしいのですが、JGAPではアニマルウェルフェアが必須項目になっていると書きましたが、JGAPのアニマルウェルフェアは、GLOBALG.A.P. (グローバルギャップ:欧州を中心に世界 100 カ国以上で実践されているGAPの世界標準)と比較して、アニマルウェルフェアの基準がとてもゆるいのです。
GLOBALG.A.P. で、たとえば豚について見てみると、スペース条件については次のような基準があります。
1)自由に振り返ることができる
2)乾いた寝床がある
3)同時に全てのブタが横になれる
母豚については「分娩ストールと種付け後4週間を除いてストールを使わない」とされており、妊娠ストールの常時使用が禁止されています。さらに「掘る、噛む、気を紛らわせる、新しいものといったエンリッチメントが行われているか」「飼育密度」「輸送時の動物福祉」「尾・歯の切断、去勢」などアニマルウェルフェアに関する項目は具体的で多岐にわたりこれら一つ一つが審査されます。
いっぽうのJGAPのアニマルウェルフェア項目は上述したように
「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」に基づいた対応が行われているかについてチェックリスト(附属書Ⅰ)を 活用して、飼養環境の改善に取り組んでいる。
というような曖昧なもので具体性がなく、諸外国で禁止が進むバタリーケージや妊娠ストールでも認証がとれるものになっています。
ただでさえ緩い基準が、現在の「JGAP 総合規則 家畜・畜産物」(案)のままだと、審査の方法でさえも簡易で恣意的なものになってしまう可能性があります。正確性を有する論理的な方法で審査が行われるよう、ぜひ皆様からも意見を届けてください。
■問題点等
「JGAP 農場用 管理点と適合基準 家畜・畜産物」の「5.アニマルウェルフェア」の適合基準のチェックリストは50項目にもわたるため、審査を一日数時間で行うことは難しいと思われる。また、アニマルウェルフェアの改善に取り組んでいるか否かの確認は単日で行うことは不可能と考えられる。
■意見・改善案
「5.アニマルウェルフェア」の適合基準については、そのチェックリストの項目を一つずつ、まず一日審査をし、その後抜き打ちでもう一度項目ごとに審査を行い、改善されたか否かで、適合・不適合を判断することを提案する。あるいは審査前の自己点検もしくは内部監査の段階でこれらのチェックリストの項目を一つずつ確認し、審査段階で改善されたか否を判断することを提案する。
■問題点等
「JGAP 農場用 管理点と適合基準 家畜・畜産物」の「5.アニマルウェルフェア」の適合基準は『「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」に基づいた対応が行われているかについてチェックリスト(附属書Ⅰ)を活用して、飼養環境の改善に取り組んでいる。』となっているが、これについての適合・不適合の審査方法が明らかになっていない。申請者が提出したチェックリストを審査員が見る、あるいはヒアリングするなどの方法では、論理性を欠く審査となってしまう。
■意見・改善案
「JGAP 農場用 管理点と適合基準 家畜・畜産物」の「5.アニマルウェルフェア」の審査方法を、下記のように明確に記載することを提案する。
・チェックリスト項目ごとに、農場の記録台帳で審査する。
・記録台帳では確認できない動物の扱いにチェックリスト項目は、農場の視察で審査する。
■問題点等
「家畜・畜産物の生産は、ある一定の時期にしか行われない生産工程が存在する」ため、初回審査後の認証有効期間内に「維持審査」が行われるということであるが、初回審査時に確認できない生産工程があるにもかかわらず認証を与えるのは正しい審査と言えるだろうか。維持審査とは、認証された仕組みがちゃんと維持されているかを確認するものであり、初回審査で行われなかった審査を行うものではないと考える。
■意見・改善案
初回審査ですべての生産工程を審査する、あるいは審査前の自己点検あるいは内部監査の段階ですべての生産工程を確認しておくことを提案する。
また、アニマルウェルフェアはJGAPにおいて重要な管理点と位置付けられているため、この生産工程には『「アニマルウエルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」チェックリスト』の各項目を含めるものとし、それぞれの項目について審査を行うことを提案する。
■問題点等
審査のタイミングが明確にされていない。
■意見・改善案
生産工程に合わせて初回審査日時を設定するほうが効率がよいと考えられる。審査のタイミングは、その実施時期が限定される「新生子豚の管理時(歯切り、断尾、去勢、個体識別)」「離乳時」「出荷時」を提案する。
*出荷時は豚の取り扱いがもっとも問題となるタイミングのため、チェックリスト項目「豚の取り扱い」を審査するのに最適であると同時に、チェックリスト項目「豚舎等の清掃・消毒」をも審査できる時である。
■問題点等
「JGAP 農場用 管理点と適合基準 家畜・畜産物」の中で重要な管理点として挙げられている「アニマルウェルフェア」に関する書類が含まれていない。
■意見・改善案
申し込み内容に『「アニマルウエルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」チェックリスト』を追加することを提案する。この時点で「はい」のチェックが何%以下ならば不適合とし、審査前に農場・団体に是正を求めれば現地審査の無駄が省ける。
また、国内の畜産場では、「水死」「窒息死」「焼却死」「放置死」などの「動物の殺処分方法に関する指針』(平成7年総理府告示第 40 号)に反する方法を殺処分方法として採用している農場があることが明らかになっている。そのため、チェックリスト項目『病気、事故等の措置』については、動物の殺処分方法を明記させ、同指針や動物の愛護及び管理に関する法律に抵触する殺処分方法を採用している農場は、その時点で不適合とするのが妥当と考えられる。
■問題点等
JGAP 指導員基礎研修、JGAP 審査員研修の研修カリキュラムをこれから作成するにあたって、アニマルウエルフェアに関する事項も含まれるものと思うが、その内容について明らかになっていない。
■意見・改善案
研修カリキュラムについて、アニマルウェルフェアを含むすべての内容を公開することを提案する。そうすることでJGAP認証がより客観的で信頼性の高いものになると考えられる。
■問題点等
JGAP 内部監査員研修の研修カリキュラムをこれから作成するにあたって、アニマルウエルフェアに関する事項も含まれるものと思うが、その内容について明らかになっていない。
■意見・改善案研修カリキュラムについて、アニマルウェルフェアを含むすべての内容を公開することを提案する。そうすることでJGAP認証がより客観的で信頼性の高いものになると考えられる。
■問題点等
アニマルウェルフェアは科学的なものであり、判断指標には観察とともに専門知識が必要であるため、「基本的な知識」という一般知識では判断することは難しい。
その他の項目と分けて記載するべき。
■意見・改善案
c) 当該動物についての習性や生態、及びアニマルウェルフェアに関する知識を保有していること
d) 家畜衛生、動物用医薬品、飼料、農薬、肥料、労働安全、及び環境保全に関する基本的な知識を保有していること
とすること
パブリックコメントをへて2017年3月31日に「JGAP 総合規則 家畜・畜産物」が決定しました。
アニマルライツセンターから送った意見で反映されたのは、残念ながら申し込み内容に『「アニマルウエルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」チェックリスト』を追加するという部分のみでした。
寄せられたパブリックコメントへの対応について、詳細はこちらをご覧ください↓