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母豚の一生-振り返ることもできない檻「妊娠ストール」に収容され続ける

母豚の一生

子どもを産むために飼育される母豚は、生後8カ月程度で初めての種付け(人工授精か、オスとの交配)が行われます。
種付け後、メスの豚たちは1頭1頭が別々の檻(妊娠ストール)へ入れられます。

写真/日本の妊娠ストール

このストールはとても狭く、方向転換すらできないサイズです。ここで115日間の妊娠期間を過ごし、出産前には別の檻(分娩ストール)へ移動されます。そこも狭く方向転換ができません。子供を踏み潰さないように母豚と子豚は柵で分けられています。子豚は柵の間から入り、母豚の乳を吸います。この授乳期間が21日間。
その後、母豚は次の種付けのために、ほかの母豚とともにフリーストール(何頭かの豚を群飼いする囲い)に一時入れられます。フリーストールもせいぜい4-8畳程度しかありませんが方向転換や歩くことはできます。「妊娠ストール」よりはマシでしょう。しかしそこにいられるのはほんのわずかの期間で、発情して種付けが行われるとすぐにまた妊娠ストールへ戻されます。

母豚たちはこのようなサイクルで平均して1年に2.2産させられ、生後4-5年で屠殺されます。その一生のほとんどを方向転換の出来ないストールの中で過ごすことになります。

子供を生み続けた母豚の肉は食肉格付で「等級外」となり、安い値段で取引され、スーパーの肉売り場にパッキングされて並べられるようなことはなく、主に加工食品や味付用の豚肉などに使われます。

豚の妊娠ストールとは?

母豚は一生のほとんどの時間を「ストール」あるいは「クレート」と呼ばれるものに閉じ込められて過ごします。母豚たちの受胎・流産の確認や給餌管理がしやすいという理由で用いられるこのストールですが。ここで豚たちはすべての自由を奪われます。一頭一頭が別々閉じ込められ、方向転換すらできません。
諸外国では使用が禁止されていますが、日本における使用率は91.6%にものぼります。
 

アニマルウェルフェアの考え方に対応した 豚の飼養管理指針では、広さが60cm(幅)180㎝(奥行き)以上を推奨されていますが、この「推奨」されている面積は、豚の大きさそのものであり、豚たちは座る・寝る・立つ以外はできず、体をひねったり転回することはできません。寝ることはできますが、自分の好きな形で体を横たえることはできません。

個別の檻での単飼いのため、ほかの豚と親和関係を結ぶこともできません。
豚たちは自然界であるなら母豚を中心に群れを作って仲間とともに生活する生き物です。しかし1頭1頭別々に檻に閉じ込められた豚たちに、それはかないません。

養豚農家の中には、「豚は食っちゃ寝食っちゃ寝してれば幸せなんだ」そんな風に言う人もいます。でもそれは違います。
イリノイ大学では、方向転換が可能なサイズの単飼の囲いで豚を飼育した研究が行われています。餌を食べるのに方向転換する必要がある豚房と、必要がない豚房が用意されましたが、どちらで飼育された豚も方向転換する回数は同じだったそうです。食べて寝るだけで豚は満足できる生き物ではありません。豚は動きたいのです。

妊娠ストールに閉じ込められてた母豚は分娩が近づくと今度は分娩ストールへ移動させられます。分娩ストールもまた妊娠ストールと同じく個別の檻で方向転換もできない拘束檻です。

ストールの中では「巣作り」もできません。
屋外で飼育されている豚は、分娩のすぐ前に枝や草を使って精巧な巣を作ります。ストール飼育で巣作りができない母豚も「巣作りの真似事」をします。分娩前には非常に活動的になり巣作りやルーティング(鼻で地面を掘る行動)のような巣作り動作に何時間も費やします。そのような行動により顔に擦り傷を作ったりもします。しかしストールの中で巣が完成することは決してありません。

巣作りも方向転換も、仲間と親和関係を結ぶことも、何もすることもできないこの檻の中で、メスの豚たちは、口の中に食べ物が入っていないのに口を動かし続けたり、水を飲み続けたり、目の前の柵をかじり続けたりという異常行動を起こすことが知られています。

妊娠ストールに反対する理由

妊娠ストールにいれられている豚たちは、跛行、足の怪我、切り傷や褥瘡に苦しむだけでなく、運動不足による筋肉や骨の弱体化に苦しんでいます。
運動不足のため、起立不能になることは非常に多く、そのたびに治療されるのではなく、淘汰=殺されます。

通常の集団飼育時には見られる社会的行動も抑制され、仲間に触れ合うこともません。
豚は本、犬と同等またはそれ以上に来好奇心旺盛で知的で社交性のある動物です。彼らのストレスは相当なものであることは、容易に想像がつきます。

妊娠ストールに拘束されず、集団飼育(群飼)をされている母豚たちは、人が近づいても、静かです。でも興味深々な目をして人によってきます。しかし、ストールに閉じ込められている母豚の反応は違います。人が近づくと、豚たちは一斉に「キーキー」とおびえたようになきます。何が近づいてきたのか振り向いて後ろを確認したくてもできないことは豚にとって恐怖となります。

効率と利益を重視し、動物の福祉が無視されているもの、それが妊娠ストールです。

適切な環境を用意すれば、群れ飼育に切り替えても闘争を防ぐことができる

ストール飼育を止めて、群れ飼育に切り替えた場合、闘争が起こる、「だから群れ飼育に切り替えることはできない」という話をよく耳にします。しかしそれは言い訳にすぎません。

豚本来の習性を満たすことができる環境を用意すれば闘争を防ぐことは可能だからです。

たとえば藁を用意することがその一つです。藁があれば豚の本能に強く動機づけられているルーティング(鼻堀り)の欲求を満たすことができます。
マットを敷くという方法もあります。豚はコンクリート床よりもマットの上を好むということが研究*が報告されており、また快適なマットの上で横たわる時間が増え、そのことが互いの干渉を減らしケガの割合が減ったという研究**もあります。
繊維質の食べ物を多く与えるというのも重要です。そもそも母豚は「食べ過ぎ」を防ぐために給餌制限されています。食べ過ぎると出産に差しさわりが出るというのがその理由です。しかしたくさん食べてたくさん太るよう品種改変されてきた豚にとって思うようにたくさん食べられないのは相当のストレスになります。繊維質の食べ物を豊富に与えることで、豚の満腹感を満たし、ストレス行動である偽租借を減らし横たわる時間が増えたという複数の研究***があります。
豚を群れにする時期も重要です。繁殖の危険時期は妊娠2~3週のあいだであり、この時期よりも前に群れをつくることが推奨されます。妊娠前あるいは着床前後に豚同士を混ぜ合わせても豚の生殖能力を害することはないと言われています****。一方、妊娠後期にほかの豚と群れにされた母豚へは悪影響を与えます。分娩時に落ち着きがなくなったり産まれてきた子豚に噛みつきの傾向がでることが報告されています*****。
群れ飼育を始めるときにはいきなり一緒のスペースに放り込むのではなく段階を踏むことも大事です。例えばまず柵越しにお互いを接触させるなども有効です。
群れにしたときにおこる闘争は一時的なものです。この一時的な闘争の対応として豚に十分なスペースと、餌が奪われることを防ぎ逃げ場にもなる囲いを与えることも欠かせません******。
また、攻撃性には遺伝も関係するため,攻撃性の少ない種を選択的繁殖することも有効と言われています*******。

すでに欧米では、妊娠ストールを廃止しても経営的にも技術的にも成り立つということは証明されています。養豚業者は妊娠ストール廃止に踏み出すべきなのです。

*”Applied Animal Behaviour Science”Volume 114, Issues 1–2, November 2008, Pages 76-85 Applied Animal Behaviour Science[Synthetic lying mats may improve lying comfort of gestating sows Author links open overlay panelFrank André MauriceTuyttens]
**”Applied Animal Behaviour Science”Volume 123, Issues 1–2, February 2010, Pages 7-15 Applied Animal Behaviour Science[A flooring comparison: The impact of rubber mats on the health, behavior, and welfare of group-housed sows at breeding Author links open overlay panelMonica R.P.Elmore]
***”Applied Animal Behaviour Science”Volume 107, Issues 1–2, October 2007, Pages 45-57 Applied Animal Behaviour Science[Influence of access to grass silage on the welfare of sows introduced to a large dynamic group Author links open overlay panelNiamh ElizabethO’Connell]
“The effect of increasing dietary fibre and the provision of straw racks on the welfare of sows housed in small static groups CL Stewart” LA Boyle§ and NE O’Connell
****”Applied Animal Behaviour Science”Volume 130, Issues 1–2, February 2011, Pages 20-27 Applied [Animal Behaviour Science Dry sows in dynamic groups: An investigation of social behaviour when introducing new sows]Author links open overlay panelVerenaKrauss
*****Biol Lett. 2009 Aug 23; 5(4): 452–454. Published online 2009 May 1. doi:  10.1098/rsbl.2009.0175
PMCID: PMC2781921 Pre-natal stress amplifies the immediate behavioural responses to acute pain in piglets
******”Livestock Science Volume 125, Issue 1, October 2009, Pages 1-14 [Livestock Science Review article
Group housing of sows in early pregnancy: A review of success and risk factors Author links open overlay panel]H.A.M.Spoolder
*******J Anim Sci. 2009 Oct;87(10):3076-82. doi: 10.2527/jas.2008-1558. Epub 2009 Jul 2.Genetic validation of postmixing skin injuries in pigs as an indicator of aggressiveness and the relationship with injuries under more stable social conditions.Turner SP

海外の妊娠ストール規制状況

欧米をはじめとして諸外国ではこの妊娠ストールが禁止されています。また、妊娠ストールが使用された豚肉をあつかわないと発表している企業も増加しています。
詳細はこちら

日本では規制されていないのか?

一方日本では、畜産動物のアニマルウェルフェアを担保する法的枠組みがない状況です。畜産動物に関する基準に「産業動物の飼養及び保管に関する基準」がありますが、「虐待防止に努めること」という程度しか書かれていません。

さらに、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した豚の飼育管理指針」が国の補助事業で作られていますが、これも指針であり強制力はありません。さらに指針の中で、麻酔なしでの尾の切断、去勢、歯の切断は容認されており、「できればしないほうがよい」という方向性すら示されていません。妊娠ストールについても同様です。

妊娠ストールの廃止を目指す

2014年の農林水産省統計によると、日本には9,530,000頭の豚がいます。そのうち繁殖用に飼育されているメスの豚は885,000頭。
このうちの91.6%に妊娠ストールが使用されているので、約810,660頭の母豚が、拷問と言ってもよいレベルの著しい拘束飼育に耐えているということになります。

豚をこの監獄から解放するために最も重要なのは消費者の意識です。アニマルウェルフェアに配慮されていない肉にはお金を払わないという状況を、私たちは作り上げなくてはなりません。

私たちにできること

スーパーで売られている豚肉、ファミレスやコンビニ、ファーストフード店などで使われている豚肉のほとんどは、飼育過程で妊娠ストールが使用されています。

最良の選択は、肉を食べないという選択です。
動物性食品に含まれていて、植物性食品から十分に摂取できない栄養素はありません。

「適切に準備されたベジタリアン食は、健康に有益であり、必要な栄養素を満たしており、 いくつかの疾患の予防や治療にも利点がある」

アメリカとカナダの栄養士会の出しているこのガイドラインは、すでに国際的な同意が得られています。
「肉を食べない」という選択が難しければ、「ミートフリーデー(週に一日肉なしの日)」を試してみることもできます。ミートフリーデーは世界中の都市や学校で取り組みが進んでいます。

妊娠ストールを使用していない豚肉を購入することもできます。ぶぅふぅうぅ農園、鹿児島県のえこふぁーむなどそのようなストールを使用しておらず、放牧養豚の豚肉を扱っています。

私たちには、母豚に許されていない様々な選択肢が許されています。母豚に優しい選択をすることが、苦しみを減らすことにつながります。

妊娠ストール廃止キャンペーンサイト

 
 
 
 
 
 
 
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4 コメント

  1. 通りすがり 2022/01/12

    家畜とペットを混同している
    畜産家の負担が増えるだけ
    廃止にしたいなら畜産家に経済的メリットがあると訴求すべき
    人間に害が及ぶ訳でもないのに、一部の人間のブーイングで他人の生業を妨害すべきでない

    返信
    1. certhil 2023/05/27

      全然通りすがってないなwww

      返信
    2. Ravnen 2024/11/08

      畜産家の負担が増える…ですか。
      むしろその負担が覚悟できなければ畜産家などやるべきではないという考えに至らないのが残念です。
      我々は生き物の命をいただいて生かしてもらっています。
      そのことに感謝すべきです。感謝の気持ちが本当にあるのなら畜産であっても最低限の動物福祉は義務とされるべきでしょう。
      経済効率はただの言い訳にすぎません。

      返信
  2. wam 2022/02/24

    家畜とペットの何が違うのでしょうか。家畜であれペットであれ、痛がったり、苦しんだりすることに変わりありませんよね。負担が増えるからペットを運動や散歩もさせず狭い檻に放置している人がいたら、ペットが満たすべき欲求を満たせず、また健康も害すために非難されるはずです。この記事に書いてある通り、豚もペットと変わらず、拘束されれば様々な形で苦しみます。そうである以上、負担が増えるという理由で豚を拘束することは、正当化できないのではないでしょうか。

    返信

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