日本では、多くの屠殺場で飲水設備が設置されていません(詳しくはコチラ)。飲水設備がない屠殺場では、どんなに暑い日でも、畜産動物はのどの渇きに耐えなければなりません。前日搬入で翌日屠殺の場合、その苦しみは長時間続きます。
動物の最後の日に与えるこのような苦痛は無意味で動物福祉上大きな問題です。日本も加盟するOIEの屠殺基準は屠殺場への飲水設備の設置を求めています。しかし2005年にこの基準が作られてからも、日本ではこの基準が守られない状況が続いています。
アニマルライツセンターは2015年から屠殺場の飲水設置を求めて取り組みを始めました。屠殺場では水が飲めないだけでなく動物を扱う時に暴力が使われているという問題もあるため、屠殺場での動物の扱いを改善するための署名をたちあげ省庁へ提出し、問題のあると畜場へは直接改善要望を行い、国会議員への働きかけを開始しました。
2017年2月27日に、小川勝也参議院議員が「畜産業におけるアニマルウェルフェアに関する質問主意書」において食肉処理施設への飲用水設備の整備についての質問を行ったのを契機に、同年年3月8日、厚生労働省からと畜場へ飲水設備の設置を促す通知が出されました。その後も国会で屠殺場における動物福祉の質問が続き、少しずつ関心が高くなってきているのではないかと思います。
国が実施している交付事業に「強い農業・担い手づくり総合支援交付金*」がありますが、2018年からは、この交付金を使って産地食肉センター(屠殺場)を整備する場合は、次の二つが求められるようになりました。
畜産物処理加工施設のうち産地食肉センターの整備を実施する場合にあっては、と畜残さ等の再資源化等の有効活用及びアニマルウェルフェアに配慮した獣畜の取扱いに努めるものとする。
けい留施設生体検査場所を含むものとし、同施設には、獣畜の飲水設備を設置するものとする。(特段の事由がある場合は、この限りでない。)
*2018年までの名称は「強い農業づくり交付金」
飲水設置とともに、具体性はないものの「アニマルウェルフェアに配慮した獣畜の取扱い」が求められるようにもなりました。少しずつ、「屠殺場の動物福祉」という考えは浸透しつつあるのかもしれません。
なお、けい留施設に飲水設備を設置しなくてよい「特段の事由」については、農林水産省に問い合わせたところ「家畜の搬入後、直ちにと殺を行う施設を想定しています」とのことでした。
しかし屠殺場は全国で191施設あり、これらすべてが交付を受けて飲水設備を設置するわけではありません。
屠殺場のアニマルウェルフェアに関して実行力のある規制も日本にはありません。
日本も批准するOIEの屠殺の動物福祉基準も周知されていません。この福祉基準は、ただ「してはいけない」ことを記載しているだけではなく、動物の習性や行動に言及しどのように扱えば穏やかに移動させることができるのかなども記載しています。もしこの基準が作られた2005年に国内で広く周知されていたなら、いまのような惨い状況は回避できていたかもしれません。しかしいまだにこの基準は、国内で翻訳すら公開されていない状況です。
鶏の屠殺場(食鳥処理場)はさらに惨い状況にあります。飲水設備は設置されていないのが普通で、鶏たちは首も伸ばせない狭いカゴに長時間拘束されます。屠殺は気絶なしで首を切られたり、生きたまま茹でられることもあります。これらの問題もまだ解決していません。
屠殺場で動物たちが味わう恐怖と苦悩は私たちの想像を絶します。
動物の気持ちをかき乱すものに「臭い」があります。特に今まで嗅いだことの無い臭いや、初めて会う豚や牛の臭いも動物を不安におとしいれます。
血の臭いもそうです。血の臭いを嗅ぐと牛は前に進むのを拒否することがあります。
恐怖を味わった動物の尿や唾液が、ほかの動物の心をかき乱すこともあります。豚や牛は、ストレスを受けた動物の尿が排出された場所を避ける傾向があります。牛や豚のストレスホルモンは唾液や尿中に分泌されているからです。
屠殺される時、動物が恐怖で取り乱してしまうと、あとに続く動物も激しく動揺し、次々とその動揺が連鎖して、その日一日が恐怖と混乱に支配されてしまうこともあります*。
危険を察知する能力が高い動物は、人よりも恐怖を感じやすい生き物といえます。見知らぬ動物とともに収容され、血の臭いを嗅ぎ、叫び声を聞き、恐怖の混じった唾液と尿の臭いに怖気づいて、動物がどのように苦しむのかは想像に難くありません。
さらにその上、水を与えない、蹴る、スタンガンを執拗に押し当てる、係留所に長時間留置するなどの積極的な虐待を加えるのは許されることではありません。このような暴力は一日も早く無くしていかなければなりません。
*参照:FAOとNGO Humane Society International(HSI)との共同で策定された「家畜の輸送と屠殺における人道的扱いのガイドライン」
Guidelines for Humane Handling, Transport and Slaughter of Livestock
写真は日本の屠殺場で屠殺を待つ動物たち
どうせ死ぬんだから。。。というような安易な考えはやめて下さい。牛も豚も生き物です。感情はあります。せめて死ぬときは恐怖のない様、苦しみのない様にして下さい。
同じ人間なら!!!