アニマルウェルフェアの基本原則に【5つの自由】というものがある1。
「5つの自由」では苦痛から逃れる”自由”が強調されているが、近年はプラスの体験を重視した「5つの領域」というモデルがアニマルウェルフェアの議論で採用されることが増えてきている。特に、それぞれの動物が「生きる価値のある生涯」を送るべきだという考えだ。2
「5つの領域」モデルは、苦痛を減らすことだけでなく、精神状態に着目し、良い体験を促すことを重要視している。1994年に提唱されて以来、アニマルウェルフェアに関する科学的な発展を反映しながら定期的に更新されており、動物の総合的な福祉の評価の最良な基準と見なされている。その結果、世界中の動物園、研究所、農場、パートナー動物など、様々な動物や状況においてのアニマルウェルフェアを評価するために広く採用されている。
5つの自由と5つの領域をまとめてみた:
5 Freedoms 5つの自由 | 5 Domains 5つの領域 |
Freedom from hunger and thirst 飢えや渇きからの自由 | good Nutrition 良好な栄養 |
Freedom from discomfort 不快からの自由 | comfortable Physical Environment 快適な環境 |
Freedom from pain, injury, or disease 痛み、怪我、病気からの自由 | good Health & fitness 良好な健康とフィットネス |
Freedom to express normal behavior 自然な行動をすることの自由 | engaging Behavioral Interactions 積極的な行動(探索・交流・遊びなど) |
Freedom from fear or distress 恐怖や苦痛からの自由 | positive Mental state 良い精神状態 |
5つ目の領域である精神状態は、最初の4つの領域のプラスまたはマイナスの体験に左右されるという考えだ。
実際にアニマルライツセンターも参加している Aquatic Animal Alliance (水生動物連名)でも今年に入ってから、水産養殖に関する意見を例えばGlobalG.A.P.などの機関に届ける際に5つの領域の基準を用いている。80以上の動物保護団体が参加している Eurogroup for Animals も2021年10月の世界動物の日に発表した農用動物に関する報告書で、5つの領域をEUの法改正の枠組みとすることを促している。オーストラリアの有名なスーパーであるWoolsworthも同社のアニマルウェルフェアポリシーで5つの領域を掲げている。
日本では、特に畜産動物にはまだ5つの自由さえも与えられていない場合がほとんどと言える。日本に浸透している「命を感謝していただく」という考え方の中で、(肉食の野生動物が獲物を捕らえるのとは違い)他の動物たちの自由を奪い飼育するならば、その動物にせめて生きる価値のある生涯を与えることは最低限の責任ではないだろうか。
1. 【5つの自由】 は元々は1965年に英国政府が工場式になりつつある畜産においての動物福祉に関して委託した調査で提唱された。当初は動物は「立つ、横臥する、振り返る、毛づくろいする、手足を伸ばす」という5つの自由があるべき、というものだった。それが1979年には、英国政府により現在の形で発表され、世界中で採用されている。 2. https://www.mdpi.com/2076-2615/6/3/21