東京オリンピック・パラリンピックは1年の延期を経て、2021年7月から開催される見通しのようだ。コロナ禍真っ只中に開催されるのだから、より健康には気を使っておかなくてはならない。消毒をすればいいというものでもなく、やはり免疫を上げ、密を避け、ついでいえば危険には近づかないことも重要かもしれない。この免疫を上げるという点で参加するアスリートたちに重要なのは、食事、そして食材だ。
食材調達の基準は2017年に畜産物の調達基準が策定され、東京五輪の会場や選手村で提供される畜産物は、世界のスタンダードには到底及ばない低いレベルのアニマルウェルフェアになることが決定した。例えばロンドン大会では放牧の卵が最低ラインになり、リオ大会では地鶏でかつケージフリー(平飼いか放牧)の鶏の卵であることが最低ラインになったが、東京大会はバタリーケージの卵でも問題ないことが決まった。
アニマルライツセンターではこの問題に2016年から取り組み続けており、2017年には国内外の団体の賛同を得た署名運動をし、2018年にはTHLJとOWAと協力して元オリンピック選手たちの声を東京都と組織委員会に届けた。組織委員会との話し合いでも、東京都との話し合いでも、内閣官房の推進本部との話し合いでも、残念な回答しか得られなかった。
元オリンピック選手たちの声は各所で取り上げられ、調達基準が国際的な要件をクリアしていないことは多くの国民が知るところとなった。
COVID-19パンデミックによって、大会が1年延期になったことは、より日本の畜産業の遅れを露呈させる結果になっている。この1年で、米国のケージフリー卵の流通量は5.8%も上昇したし、タイでは国によるケージフリー認証が始まり、EUではもはや流通する卵の52.2%がケージフリーになった。
豚の拘束飼育(妊娠ストール飼育)は、欧米やタイではやや終わった運動になり、中国も含め、大手企業が拘束飼育をやめるために急ぎ対策をうち、移行を終えた企業も出てきている。
そんな中で開かれる東京大会、バタリーケージの卵、拘束飼育を経た豚肉、超過密飼育の鶏肉、そんなものが提供される予定だ。つい先日も東京大会の調達基準の認証となったJGAP認証をとっている農場のあまりにも悲惨な実態が海外団体により暴露され、調達基準に書かれた”アニマルウェルフェア”が言葉だけで実態を伴わないものであることがわかったところである。
アニマルライツセンターは、東京オリンピック・パラリンピックが開催されることが確定したようであるため、6月16日付で公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部に対して「東京オリンピック・パラリンピックでの食材に、ケージ飼育の卵と拘束飼育を経た豚肉、過密飼育の畜産物を使わないことを求める要望書」を提出した。これが最後の提言になるのだろう。
コロナ禍をくぐり抜けている最中に開催される今大会は、その意義が世界中から強く問われている。そんな中で、もしも意義を見いだしたいのであれば、本当に持続可能な大会運営に変えることではないだろうか。世界中が認めるレガシーになるなにかを残さなければ、苦しさは払拭できないようにも思える。アニマ<ルウェルフェアの向上に寄与する東京オリンピック・パラリンピックになることを切に願う。
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会御中
2021年6月16日
東京オリンピック・パラリンピックでの食材に、ケージ飼育の卵と拘束飼育を経た豚肉、過密飼育の畜産物を使わないことを求める要望書
私達は畜産動物のアニマルウェルフェアの向上を目指し活動をする認定NPO法人です。
2017年より東京オリンピック・パラリンピックで調達される畜産物のアニマルウェルフェアを求めてきましたが、残念ながら市民の声、元オリンピック選手たちの声は反映されず、国際的なスタンダードに沿わない非常に低いアニマルウェルフェアの畜産物の調達基準になっています。
COVID-19の影響で大会が延期になり、観客は少なくると予測され、また観客向けの食事提供も少なくなることは必須となっています。つまり、当初想定していた量の食材が不要になり、より質を向上させるチャンスであると言えます。
アスリートにとっては食材の質は非常に重要であり、時にはパフォーマンスを左右することになります。
またCOVID-19は、人々の動物性食品への意識を大きく変えてきました。人獣共通感染症、薬剤耐性菌などの新たな疾病の多くは家畜動物から発生しています。アニマルウェルフェアの高い飼育は、密ではなく、自然の光が入り、自然な行動ができ、免疫が高まることにより、動物自身で病気を防ぐという考え方です。この数年でアニマルウェルフェアの重要性は更に高まり、世界中が急速にアニマルウェルフェア向上に向けて動いています。
どうか、日本の畜産が取り残されないよう、貴会が作った持続可能性に配慮した畜産物の調達基準に、下記一文を加えていただきたく、お願いいたします。
記
持続可能性に配慮した畜産物の調達基準 2の⑤として以下の一文を加えてください。
「⑤高いアニマルウェルフェアを実現するため、生産過程でケージ飼育、拘束飼育、過密飼育がされない措置が講じられていること。
※豚の場合、出産前1週間と出産後4週間を除く」
理由を以下に示します。
※影響を受ける食材
これは主に卵(鶏やうずらやアヒル)についてですが、一部肉用鶏についてもケージ飼育が見られるため、卵と鶏肉に影響をする項目です。鶏肉についてはケージ飼育はほとんどありませんので、影響は小さいものです。
※影響を受ける食材
生産過程で拘束飼育がなされているのは豚肉と牛乳です。母豚の妊娠ストール、母豚の分娩ストール、乳牛の繋ぎ飼い、繁殖用肉用牛の繋ぎ飼いです。ただし、分娩ストールが使われていない養豚場は日本では現状では供給量が不足するため除きます。
食肉加工会社ランキング | 妊娠ストール廃止の取り組み状況 |
1位 JBS(ブラジル) | 65%廃止済み。 グループ会社の養豚生産部門セアラは、2015年に妊娠ストールから群れ飼育へ切り替えることを発表。サプライチェーン含めて2025年までに群れ飼育へ切り替えると約束。 |
2位 タイソンフーズ(アメリカ) | 自社保有の養豚場は10%以下だが、2018年12月時点で、母豚の53%が廃止済み。 独立農家を含めると、21%が廃止済み。 |
3位 萬洲国際 WHグループ(中国) | 完全子会社であるスミスフィールドでは2017年末に100%廃止済み。 |
4位 CP Foods(タイ) | 妊娠ストールから群れ飼育へ移行することを公表。タイ国内は2025年までに、国外は2028年までに移行。 2019年時点でタイ国内で41%、国外で28%が廃止済み。 |
5位 日本ハム(日本) | 2農場がフリーストール、今後新築するものはフリーストールとする。 |
6位 ダニッシュクラウン(デンマーク) | チェーン全体で廃止済み。 |
7位 ホーメルフーズ(アメリカ) | 自社養豚場の妊娠ストール廃止済み。 |
8位 BRF(ブラジル) | 2026年までの廃止を目標 2016-2019年に29%達成 2019年末の時点で35%以上、2022年に100%廃止と予測 |
※影響を受ける食材
主には鶏肉ですが、その他の畜産物についても関係します。
このような中、東京大会は今、最後の岐路に立っています。このまま調達基準を変えずに日本の畜産の悪評を広めるか、それとも調達基準を変更して今後の日本の畜産の未来を明るくするかどうか、です。
なぜ東京大会が低いアニマルウェルフェアを採用したのか、私達はメディアや市民から聞かれることがよくあります。私達にはその理由が全くわかりません。アスリートのためにも、日本国民のためにも、日本のブランドのためにも、そして将来の生産者のためにもならないと考えられるためです。当然ながら、動物のためには負の影響しかありません。
以上、理由を記載いたしました。
何卒、ご検討いただき、2021年7月5日までに、下記連絡先までご回答をいただけますようお願いいたします。
なお、2017年から開始したケージフリー、ストールフリーを求める要望に対しては、国内20団体、海外31団体の賛同を頂いています。また、2018年から開始したオリンピアンによるケージフリー、ストールフリーを求める要望(同封)は10名のオリンピアンの連名でした。
認定NPO法人アニマルライツセンター
代表理事 岡田千尋
動物達に安らぎと穏やかな生活を送れるように人間は努力するべきです。同じ命なのですから。私も牛や豚の実態を知り、お肉を食べるのをやめました。今はお魚か代替肉で済ませています。お魚も嫌ですが…。卵はゼロにはできてませんが、半分くらいに減らしています。変わらなければ。