2022年3月2日、国連環境計画(UNEP)が主催する第5回国連環境総会(UNEA)で、「アニマルウェルフェア・環境・持続可能な開発の繋がり」という決議が採択された。1
国連環境総会とは約2年に一度開かれる会議で、今回のテーマは「持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための自然のための行動の強化」であった。
それに向けて、ガーナ政府は他の6つの国連加盟国と共に、このアニマルウェルフェアの決議案を提出しており、世界中の動物保護団体が各国に賛同を求めていた。
アニマルライツセンターも、23の動物保護団体からなる Asia for Animals という連盟と共に、日本の環境大臣へ手紙を送った。
結果的に日本を含めた193ヵ国すべてが賛成した。アニマルウェルフェアに焦点を当てた決議案が国連で採択されるのは、これが初めてだ。
決議案の主な内容は以下の通りだ。2
この決議案の概念についてのコンセプトノートには、「動物の搾取と非人道的な利用が、生物多様性の喪失、気候変動、汚染という3つの環境危機、および現在の世界的な新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックの出現の主要要因であること」が概説されている。
「動物の福祉に悪影響を与える人間の行動」がこのような危機の主な要因に含まれるため、「更に、アニマルウェルフェアの改善が自然環境に直接的に貢献し、SDGsを達成するための私たち全員の取り組みを強化できることは、増えつつある科学と経験によって示されている」と指摘されている。
決議案
Animal Welfare – Environment – Sustainable Development Nexus
アニマルウェルフェア・環境・持続可能な開発の繋がり
国連環境総会は、
国連総会決議70/1(2015年9月25日)「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」を想起し、
自然との調和に関する国連事務総長の報告書1に注目し、
環境と持続可能な開発は国連環境計画の指示の芯にあることを想起し、
国連持続可能な開発会議の成果文書である「我々が望む未来」2、特にその第88段落を想起し、
アニマルウェルフェアが環境問題に対処し、「ワンヘルス」アプローチを促進し、また、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することを認識し、
動物の健康と福祉、持続可能な開発と環境は、人間の健康とウェルビーイングに繋がることに注目し、
「ワンヘルス」アプローチと、その他のホリスティックなアプローチを通じて、これらの関係性に対処する必要性の高まりを認識し、
アニマルウェルフェアを裏付ける科学的な強い基盤が存在することも認識して、
1 A/75/266.
2 General Assembly resolution 66/288, annex.
Translation help thanks to K. Furuse.
コンセプトノート2
アニマルウェルフェア・環境・持続可能な開発の繋がり
1.0. 前書き
この決議案の概念についてのコンセプトノートには、動物の搾取と非人道的な利用が、生物多様性の喪失、気候変動、汚染という3つの環境危機、および現在の世界的な新型コロナウイルス感染症のようなパンデミックの出現の主要要因であること、また、国連環境計画(UNEP)の業務にアニマルウェルフェアを統合することで、中期戦略と事業計画の実施、持続可能な開発目標の達成にどのように役立つか、そしてこの点での国連環境総会(UNEA)による、「アニマルウェルフェア・環境・持続可能な開発の繋がり」に関する決議採択の検討緊急性が概説されている。
2.0. なぜ決議が必要なのか?
国連総会決議70/1に定められた持続可能な開発アジェンダは、「人類は自然と調和して生き、野生動物や他の生物種が保護されている」世界を想像している。しかし、国連の政策プロセスにおいて動物とその福祉を保護することに特化した行動はこれまで不十分であり、生物多様性の喪失、気候変動、汚染、世界の公衆衛生と環境衛生に壊滅的な結果をもたらしている。動物とその福祉を保護する緊急性は、アニマルウェルフェアは国連システムはによって明示的に取り組まれるべき重要な問題として強調した2019年の持続可能な開発に関するグローバル持続可能な開発報告書(GSDR)、および国連加盟国が「野生動物や他の生物を保護するための行動の熱意と緊急性の高まり」を求めた2021年のハイレベル政治フォーラム(HLPF) 閣僚宣言にて、明確に示された。
3.0. 持続可能な開発目標と第5回UNEAのテーマとの連携
生物多様性の喪失、気候変動、汚染という3つの環境危機による自然、動物、人間の存続への脅威は、COVID-19の壊滅的な経済的および社会的影響によって悪化し、またアニマルウェルフェアに悪影響を与える人間の行動がこれらの地球/環境危機の主な要因に含まれると理解し、動物との関係を搾取から福祉の促進へと根本的に方向転換する緊急の必要性が求められる。
動物の健康と福祉に悪影響を与える人間の行動が生物多様性の喪失と人獣共通感染症の出現の主要要因であり、気候変動と環境汚染に大きく寄与するという世界的な科学的および政策的コンセンサスが高まっている。更に、アニマルウェルフェアの改善が自然環境に直接的に貢献し、SDGsを達成するための私たち全員の取り組みを強化できることは、増えつつある科学と経験によって示されている。
4.0. 決議の目的
動物の健康と福祉に悪影響を与える人間の行動が生物多様性の喪失と人獣共通感染症の出現の主要要因として特定され、気候変動と環境汚染に大きく寄与することを考えると、アニマルウェルフェアの改善は統合された方法でUNEP事業計画に完全に組み込み、持続可能性に向けて消費と生産のパターンを再形成するために必要な行動を提供しなければならい。そのためには、第一歩として、UNEPは、アニマルウェルフェア・環境・持続可能な開発の繋がりを徹底的に分析し、アニマルウェルフェアの改善がUNEPの使命と「持続可能な開発目標の達成に向けた自然環境のための行動強化」への取り組みを合理化するのにどのように役立つかをより深く理解するための行動を取る必要がある。このような分析には、アニマルウェルフェアの改善と、生物多様性の喪失、気候変動、汚染、パンデミック病の発生の要因を軽減することとの因果関係の調査を含める必要がある。
5.0. 既存のUNEA決議との連携
提案された決議は、既存のUNEA決議および運営評議会の決定次項の多くと関連付けることができ、その実施は、UNEPの中期戦略の3つの戦略目標に関連する不可欠かつ肝要な政策上の関心事としてアニマルウェルフェアを促進することによって円滑に進められる。このリストには、とりわけ以下が含まれる。Res. 2/6 . パリ協定の支持、Res.2/8. 持続可能な消費と生産、Res.2/9. 食品廃棄物の防止、削減、再利用、Res.2/10. 大洋と海、Res.2/14. 野生動物および野生動物製品の違法取引、Res.2/15. 幸福のための生物多様性の主流化、 Res. 2/17. 生物多様性関連の条約間の連携、協力、相乗効果を促進するためのUNEPの活動の強化、Res. 2/24. 砂漠化、土地劣化、干ばつへの対処、持続可能な牧畜と放牧地を促進する、Res. 3/2. 生物多様性を主要セクターに主流化することによる汚染の緩和、Res. 3/4. 環境と健康、Res. 3/6. 持続可能な開発を達成するための土壌汚染の管理、Res. 3/8. 世界的に大気の質を改善するための大気汚染の防止と削減、Res. 4/1. 持続可能な消費と生産の達成に向けた革新的な筋道、Res. 4/2. 食品ロスと廃棄を抑制するための持続的な慣習と革新的な解決策の推進、Res. 4/10. 生物多様性及び土地劣化に関するイノベーション、 Res. 4/11. 陸域の活動からの海洋環境の保護、Res. 4/18. 貧困と環境の関連性、Res. 4/21. 「汚染のない地球へ向けて」計画の実施。
6.0. イニチアチブの付加価値
UNEPの方針内でアニマルウェルフェアを検討することは、その科学政策の基盤を広げ、充実させるのに役立ち、より多くの情報に基づいた、より効果的な政策立案とプログラム開発につながる。また、多くのSDGsの達成と将来のパンデミックの防止にも役立つだろう。
7.0. 想定されるコスト
UNEP中期戦略および持続可能な開発目標の達成に向けた自然環境のための行動強化実現に貢献する手段としてアニマルウェルフェアを含めることは、経済的、社会的、環境的に大きな利益をもたらすだろう。UNEPは、アニマルウェルフェアの専門家の採用、また、アニマルウェルフェア・環境・持続可能な開発の繋がりを分析する人材の人件費に関連して、いくらかの費用を負担することになるだろう。UNEPには、報告書の作成および検証のために必要な追加の資金を、有志の寄付から募ることが強く推奨される。
Translation help thanks to Misaki T.
1. https://www.unep.org/news-and-stories/press-release/un-environment-assembly-concludes-14-resolutions-curb-pollution 2. Ghana - draft resolution and concept note on Animal Welfare-Environment-SD 3. Animal welfare–environment–sustainable development nexus Cover photo: Marcello Casal JR/ABr