2021年1月21日付で環境省と農林水産省は、畜産動物たちにとって重要な通知を出した。
「農場における産業動物の適切な方法による殺処分の実施について」
この通知は、弱ったり淘汰する事になった鶏や豚、牛、ウズラを畜産場内で殺処分する際(日々行われている)に、法令を遵守していない方法がとられており、それを是正するために出されたものである。
内容はかなり厳しく書かれている。ぜひこの記事を読んだ方は周囲の畜産業者に注意喚起をしていただきたい。告発の可能性もありうるのだと。
長くはないので詳細は通知自体を読んでいただきたいが、いくつか抜き出して解説したい。
今般、ある畜産事業者において、首吊りにより時間をかけて豚を窒息死させる行為や、適切な治療や殺処分を行わずに放置することにより鶏に餓死や衰弱死を招く行為が行われているとの情報を環境省において確認しました。
アニマルライツセンターは昨年から環境省や農林水産省や政治家に、畜産場で不適切な殺処分が行われている複数の虐待的行為について相談をしてきた。その内容はおそらく誰をも驚かせる残酷な内容であり、アニマルウェルフェア以前の問題だった。豚を首吊りで殺している養豚場の事例など個別の内容は、交渉状況に応じ、後日記事にするが、私達が強調したい点は、それが1件だけの特殊な例というわけではないということだ。
首吊りほど明らかに違法性の高いものは多くはないがそれでも1件だけのことではない。
また鶏の餓死や衰弱死は実に多くの養鶏場が組織的に行っていることがわかっている。2019年~20年にかけては16万羽を餓死させた「うめどり」の事件が記憶に新しいが、1羽だったとしてもそれは同じようにだめなのだ。苦しむ動物を放置して死ぬに任せることは、それは違法なのだと改めて認識していただきたい。手を下したくないから、従業員にやらせるとやめてしまうから、かわいそうだと多く殺しすぎるから、様々な理由が聞かれる。しかし、そもそも畜産業は日々死ぬ動物が出る、そういう現場だし、最後はすべて殺す職業だ。綺麗事を言うことによって動物が苦しむということを自覚しなくてはならない職業だ。最低限の責任すら果たせないのだったら、今すぐ離職しなくてはならない。
動物愛護管理法では、動物のみだりな殺傷や暴行等を禁止しています。これ らは一般的に、不必要に強度の苦痛を与えるなどの残酷な取扱いをすることをいい、その具体的判断は、行為の目的、手段、態様等とその行為による動物の苦痛等を総合して、社会通念としての一般人の健全な常識により判別すべきものと解しています。
”社会通念としての一般人の健全な常識により判別すべきもの”であって、畜産業で動物の苦しみになれた感覚で判断してはならない。畜産業の周辺で動物の苦痛をなくす活動をしていると「家畜は痛みを感じない」「叩いても痛くない」「弱っているから焼いてもいい」そんな感覚を持った畜産業の関係者に度々出会うが、その感覚を正していかなくてはならないということだ。
また、上述のとおり、指針では殺処分を行う際には適切な殺処分方法によることと規定されており、「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」(略)においても、治療を行っても回復の見込みがない場合や、著しい生育不良や虚弱で正常な発育に回復する見込みのない場合など、家畜の殺処分を農場内で実施しなければならない場合には、直ちに死亡させるか、直ちに意識喪失状態に至るようにするなど、出来る限り苦痛の少ない方法により殺処分を行うこととしております。
ここで引用されたのは農水省の通知だ。所轄の省庁が明確に述べているにも関わらず、衰弱死をさせるような養鶏場が多数ある。小さな養鶏場だけでない。中には殺処分の方法を答えられない養鶏場もある。全く無意識に動物を苦しめているのだろう。しかしそれは許されないことだ。
個々の行為が虐待にあたるかを一律に判断することは困難であるものの、動物虐待は、人が社会の中で関わるあらゆる動物の取扱いにおいて、法的にも道義的にもあってはならないことです。
「動物虐待は、人が社会の中で関わるあらゆる動物の取扱いにおいて、法的にも道義的にもあってはならない」と書かれている。これは、単に生業という理由だけではみだりな動物虐待にあたることを示している。詳細は2020年11月の堀越啓仁議員の質問に対する環境省の回答と、アニマルライツセンターの解説を確認して欲しい。
これまで、環境省は畜産動物については重視していなかった。しかし、環境省の視点での指導は今後一層重要になる。アニマルウェルフェアは世界的な関心事であり、また市場を塗り替えていっている最中である。投資もこれについてきている。そしてワンヘルスという人と動物と環境の健康がつながっているという人や社会や環境の持続可能性につながる考え方が、コロナ禍の今重要性を増している。生産性や経済性よりも、命や倫理は先にくるものなのだということに人々は気づき始めている。
このため、令和元年度の法改正により、昨年6月から動物のみだりな殺傷や 虐待に関する罰則が大幅に強化されたことや、動物愛護管理部局と畜産部局等との連携強化が明示されたことも踏まえ、関係部局が連携して、日頃より、産業動物の適切な取扱いの確保及び虐待等の防止に係る事業者への指導助言や情報共有の徹底を図るとともに、適切な方法による殺処分が行われていない事態 や飼養保管が適切でないことに起因して産業動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態が認められたときは、速やかな改善を求め、改善の意志がない場合は、警察への告発を含めて厳正に対処するよう御対応願います。
この通知の中で重要な点は、「改善の意志がない場合は、警察への告発を含めて厳正に対処するよう」各自治体担当者に求めていることだ。法律違反であること、改善が必要であること、強い指導が必要であることを明確にしている。
ただ、驚くべきことに、地方行政の農政部局の担当者の中には、農場内で殺処分が行われていることすら知らないケースがある。そのため、行政の指導が機能するかは正直なところ不安がある。農林水産省は通知するとともに全国の課長会議のなかでも説明をしたと言う。あとは私達のようなNGOや、市民が、企業、農場、行政を監視していく必要がある。この監視が機能しなければ、社会は良くはならない。
この通知は、環境省自然環境局総務課長と農林水産省生産局畜産部畜産振興課長の連名で出されている。2020年6月に施行された改正動物愛護法の畜産部局との連携の強化の第一歩目である。また、改正時の付帯決議に入った「十二、畜産農業に係る動物に関して、本法及び本法の規定により定められた産業動物の飼養及び保管に関する基準を周知し、遵守を徹底するよう必要な措置を講ずること。」の第一歩目でもある。直接の所管が農水省や厚労省である畜産業であるが、虐待防止はその境界を超えなくてはならない。そのための法改正であったのだ。
国はやるべきことをやった。つまり、すべての責任は現場=地方行政と生産者に委ねられたということである。
ここまで強く行政が通知をしたとしても、私達は楽観的な気持ちにはなれない。これまで多くの虐待行為を目の当たりにし続け、言い訳をしながら一向に改善しない様子を見続けてきたからだ。そして、動物を多数飼育すれば必ず虐待が起きることも知っているからだ。動物は思った通りには動かない。機械じゃないからだ。扱いは乱暴にならざるを得ない。そして集約的畜産の中では、時間と生産性、効率、経済性などが重視され、人の労働環境もままならない状態にある。乱暴な扱いは必ず発生する。マニュアルに書いてあったとしても、時間が限られた中では扱いは乱暴にならざるを得ない。
だから海外では動物福祉のための監視カメラを導入しはじめている。そのような監視対策も取らずに、性善説にたった抑止力に期待してもなんの意味もない。
虐待は続くだろう。
行政は生産者に言い負かされて帰ってくるだろう。
それでも畜産業が続く限りは、動物たちの苦しみを見ないふりはしてはならず、こういった一歩一歩の努力をしていくしかない。
通知が参照させたのはOIEの「動物福祉規約7.6章疾病管理を目的とする動物の殺処分」だ。アニマルライツセンターの翻訳を参考にしてほしい。(国は翻訳をしていないため)