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無麻酔で去勢される鶏たち、なぜ残酷なことをあえて行うの?

畜産では雄臭の除去、肉質の改善、肥育性の向上、集団飼育を容易にすることを目的に牛や豚に去勢が行われる。豚では94.6%、牛では86.7%が農場で去勢されている。(H27年畜産技術協会飼養実態アンケート調査報告書)豚の去勢はカミソリで切り込みを入れ押し出した精巣を引きちぎり、牛も外科手術や無血去勢法(ゴムリングや器具で精索を挟み血管を挫滅することで精巣を壊死させる方法)などで行われる。

鶏の場合は採卵鶏だと雄は不要とされるので雛の段階で処分され、ブロイラーだと50日前後で出荷されるため去勢の必要がない。

しかし一部の鶏は去勢されている。

フランスやスペインではクリスマスなどの特別な鶏肉として去勢鶏が定着しており、シャポンと呼ばれている。本場フランスではブレスどりの雄だけがシャポンと名乗ることができ、肥育期間は220日以上、高級品として扱われている。生きているブレスどりは輸入できないが、日本には肉の状態のシャポンが月に10羽程度輸入されているらしい。フランスで買うよりも当然値段は高くなる。(シャポンではないブレスどりの肉は多く輸入されている)そのため日本のレストランからは国内産の去勢鶏で安く良品質のものが欲しいという声もある。

日本でも鹿児島でシャポーンを生産している農場や、新潟で平飼い卵を作る傍ら様々な種の鶏の肉を生産する農場、秋田の地鶏のオスを去勢する農場(この場合最終的にケージ飼育になるようなので地鶏ではない)が去勢鶏を生産していることがわかっており、主に軍鶏の品種で行われている。なんのためか、といえば一部の人々の”味”への満足を満たすためにこのような蛮行が行われている。

恐ろしいことに、将来的には採卵鶏の雄の資源化が目指される動きもあるが、現時点では肉質が劣るため商品化はされていない。

遡れば卵肉兼用種が使われていた時期も雄鶏を去勢し実用化していた。

肉を柔らかくし、肉の歩留りを高め、闘争性を少なくして飼育しやすくすることが目的であったが、その後ブロイラーの普及・卵肉兼用種の衰退によってしばらくの間鶏の去勢は行われなくなった。

また地鶏分野でもおおいた冠地どりや鳥取地どりピヨでは発育や肉質に及ぼす影響として、豊のしゃもや比内地鶏では固い肉は好まれないという消費者嗜好から淘汰している雄の有効利用を目的に去勢試験が行われてきた。

麻酔なし、鶏の去勢の方法

以下はそれらの試験の去勢方法の説明である。

術式:去勢器具
①保定台に翼の根元と脚を固定し、切開部周辺をアルコールスプレーで消毒。
②指で第7肋骨を確認、第6肋骨との間をメスで腹膜まで切開し、開腹器を肋骨にかけて開き保持。 
③腸をよけると奥に精巣が確認でき、睾丸鉗子で挟み、取り残しがないように除去。 
④反対側も同様に実施。 

なお切開部位は保定を外して立たせると脚で腹腔の切開部位は塞がれるので、縫合は実施しなかった。

鶏は睾丸が体内(膵臓下部)にあるため去勢の難易度が高い、以下のテグス式の説明ではその難しさが伝わってくるので参考のため記載しておく。

術式:テグス糸
ゴムバンドで羽と両足を保定。
最後肋骨部付近の術野を脱毛し、この部位をイソジン液で消毒。 
切開は最後肋骨と第6肋骨の問、中央より上部脊椎側に約 2-3cmを切開。
切開時には皮膚を後方に引っ張りながら、一度にメスで皮膚や筋肉を切開せずに、浅く何度かにわたって切開すると出血が少なくて済んだ。
この時期の精巣の重量は個体差も大きいが大部分の精巣は容易に検出できた。
もし、精巣が見つからないときは第5-4肋骨聞を切開するか、無理をせずに次回に延したほうが良い。 
しかし、肋骨前方を切開時は肺を傷つける恐れがあり注意が必要である。
開創器を挿入し、腹腔内をみると8週齢頃までは比較的薄い腹膜がこの時期には肥厚して血管もよく発達し、不用意に切ると意外に出血が激しく注意が必要である。
絶食をきちんとしていれば刀尻などで腸管をずらすと腎臓先端部に白黄色の精巣がみえてくる。 
この時期の精巣は比較的大きく容易に緊切管の先端部のテグス糸 No.14のループを精巣に懸けることが出来る。
精巣へのループの装着を確認後、反対側のテグスにセロテープを巻くか適当な金属棒にテグスを巻きつけて保持器として精巣を強く引っ張る。
意外と抵抗があるがループがきちんと精巣に懸っていれば精巣部位からの出血も少なく精巣実質の破壊のない精巣を引き抜くことができる。 
しかし、精巣をねじりながら引いたり、比較的小さい精巣に太めの14号のテグスを懸けると精巣が破壊さ れてこれが残存精巣の再生の一因となり注意が必 要である。
また、18-20週齢まで去勢を試みたがこの時期の精巣はウズラ卵あるいは小鶏卵大となり、精巣に緊切管のループを懸けるために皮膚を大きく切開する必要があることと切除部位からの出血 が激しくこの時期以降の手術は精巣吸引あるいはエタノール注入による去勢手術を考慮する必要がある。 
欧米などで産業的に去勢鶏を作出する場合は切開した皮膚、筋肉を縫合していないようである が、創傷の早期治癒および細菌感染防止として 2-3 か所縫合し、切口をイソジン液で消毒した。
反対側の精巣も同様に切開して除去した。
習熟すると片側の手術で約10分、両側でも20分もあれば終了できる。
術後鶏は隔離ケージで 2-3日置き、傷口の皮膚下が風船様にふくれていないか確認し鶏舎に戻した。
今回の術例中2例にこの症状が見られ、消毒後メスで切開した。

説明にもあったが精巣の取り残しがあると再生してしまうため、習熟していなければ鶏を無駄に苦しめる。高い技術がなくては術後に死んでしまう鶏も多い。

また海外では切開部は縫合しないのが一般的のようだが、日本でも上記比内地鶏試験時の縫合以外、知る限りでは麻酔や縫合は行われていない。

読んでいるだけで痛々しい鶏の去勢だが、比内地鶏の試験の説明にはこのように書いてある。

「鶏の去勢については外科的処置以外に、ホルモン剤の冠部皮下へのベレット埋没法や胸部筋肉への注射などによる化学的去勢法も知られているが、消費者のこれらの処置鶏への反応を考慮し今回は検討を加えなかった。」

豚にもインプロバックという免疫学的去勢製剤があるが、鶏にもあるようだ。その難易度の高さから鶏への去勢が広く普及するとは今はまだ考えにくいが、熟練すれば1羽につき3分で行うこともできるようだ。雄の採卵鶏への研究や地鶏分野での動きが活発になれば鶏の苦しみは総体的に増し、技術習得までに多くの鶏が技術不足により苦痛を与えられ死んでいくことが考えられる。

鶏冠を切ることで去勢と同じ作用を起こすやり方もあるためこれにも注意が必要だ。

雄鶏の資源化や有効利用、差別化やブランド化といった動きを注視していくと同時に、私たちは企業や生産者、行政に意見を届けることでこのような動物への行為を抑止していかなくてはならない。

市民は動物のあらゆる苦しみを望んでなどいないのだから。

なお、OIEコードでは鶏の去勢や断冠についてこのように規定している。

外科的な去勢は、適切な鎮痛及び感染を抑える手段を取らずに実施すべきではなく、かつ獣医又は獣医の監督の下、訓練を受け熟練した職員のみが実施するものとする。
断嘴、爪切り、断冠のような苦痛を伴う措置は、肉用鶏に対して日常的に行われないものとする。
https://arcj.org/issues/farm-animals/broiler/oie-7-10-animal-welfare-and-broiler-chicken-production-systems/

つまり、アウトである。鶏に対する去勢、とさかを切ることは廃絶されなければならない。

鶏たちのためにできること

シャポンを購入しない、注文しないことがまずは一番に重要なことだ。そして企業は鶏の去勢をする農場からの仕入れも避けることも重要だろう。

 
脚注

https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000166556.pdf
https://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/199725.pdf
https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/prefectural_results/files/30_3_16.pdf
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1241741/06H25-kyoseishiken.pdf
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030762718.pdf
http://nature.cc.hirosaki-u.ac.jp/lab/3/animsci/061109_poultry.html
https://www.seisensha.jp/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%B3%E9%B9%BF%E5%85%90%E5%B3%B6%E9%B6%8F/
http://www.hiyokoro.co.jp/hpgen/HPB/entries/9.html



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