ブロイラーとは、日本の肉用鶏のほぼ100%を占める、急速に成長する種のことだ。
一日でも早く太るよう品種改変された鶏たちは、自らの重い体重を支えることができず、一度ひっくり返ると自力で起き上がることができなくなってしまうことがある。
ひっくり返った鶏を起こすと、何度も起き上がろうともがいたのだろう、羽根の付け根が擦り切れてしまっているのがわかる。
誰にも気づかれず、ひっくり返ったままで死んでしまった鶏
現代のブロイラー養鶏はさまざまな問題をかかえている。
過密飼育、大腸菌だらけの不衛生な環境、劣悪な環境でも生き延びるよう行われている薬の多剤投与、趾蹠皮膚炎・・工場型のブロイラー養鶏が拡大するとともに、ブロイラー鶏の福祉は著しく低下していった。今回はその中でも人間による動物の搾取が端的に表れている「品種改良」についてとりあげたい。
初めに言っておきたいのだが、「品種改良」と言われるが、鶏の立場でいうなら「品種改悪」以外のなにものでもない。
これまで世界のブロイラー産業は「どれだけ短期間で鶏を成長させるか」ということを重視してきた。その結果、
50年前に比べて肉用の鶏の成長率は4~6倍も引き上げられた。
短期間で鶏を急成長させる
生産効率だけを考えると、この考えは理に適っているといえるだろう。短期間であればあるほど回転は上がり利益が出るからだ。
しかしこのやり方は、鶏の福祉を考えた時きわめて有害だ。
Figure 1. Age-related changes in size (mixed-sex bodyweight and front view photos) of University of Alberta Meat Control strains unselected since 1957 and 1978, and Ross 308 broilers (2005). Within each strain, images are of the same bird at 0, 28 and 56 days of age.
短期間で急激に成長するよう品種改変されてきた肉用のブロイラー鶏たちは、骨格構造が成熟するよりも速い速度で体重が増加するため、腰や膝の関節骨格が体を支えることができなくなり、脚弱、さらには歩行困難に陥ることも珍しくない。
異常な体重増加に心肺機能が追いつかなくなり腹水がたまり死に至ることもあれば、急激な増体で心臓に負担がかかり心不全で突然死することも知られている。
畜産動物のアニマルウェルフェアの一つとしてよく言われるのが「飼育環境の改善」だが、最近の研究( Farms have bred chickens so large that they’re in constant pain Why humanely raising animals is more complicated than just a good living environment. By Kelsey Piper Sep 23, 2020 )は、ブロイラー種に福祉的な環境を用意して理想的な飼育をしても、多くの苦しみを経験するという結果を導き出している。つまり、それほどまでに過酷な「品種改良」が行われているということだ。かれらは産まれながらに苦しむことを運命づけられている。
生理機能の限界にまで体重がひきあげられたブロイラーは死亡率も高く、採卵鶏の7倍とも言われている。
Turner, J.; Garcés L. and Smith, W. (2005). “The Welfare of Broiler Chickens in the European Union” (PDF). Compassion in World Farming Trust. Retrieved November 16, 2014.
これらの疾患が鶏に与えている苦痛は計り知れない。
慢性的な痛みの中で、ブロイラーたちはただじっと、産まれてから屠殺されまでの1カ月半ほどの期間を密閉された鶏舎の中で耐えているのだ。
この上の写真の研究を行ったカナダ アルベルト州の研究者は次のように言う。
「ブロイラーが42日間で殺されなかった場合、さらに2週間生存することはないだろう」*1
鶏自身が自然繁殖するのならば、このように短期間で急激に増体する個体は自然淘汰されるだろう。生き延びる能力がないからだ。
2020-2021年にかけて日本では鳥インフルエンザが猛威を振るい何百万もの鶏が殺処分されたが、鹿児島ニュースは次のように報道している「3キロから10キロ圏の農場は防疫措置終了から最低でも10日間、ニワトリを区域外に搬出できません。半径10キロ圏の養鶏場スタッフ:
「(ひよこを)入れてから出荷するまでの日齢が決まっているが、それができないと心臓が持たない。死んでしまったら出荷できない」鳥インフルエンザの発生 10キロ圏内の養鶏場、さつま町長の反応は2021年1/13(水)鹿児島ニュース
ブロイラーが出荷されるのは生後40-50日だ。それからたった10日で心臓が持たなくなり死んでしまう。どれだけ過酷な品種「改良」なのだろうか。
だがブロイラー産業界はこのような生き延びる能力のない鶏を作りだしてきた。これ以上鶏の命が体重増加に耐えられないというところで屠殺して肉にできればそれで構わないのだ。
立てなくなり衰弱した鶏
足をハの字に広げたまま起き上がれなくなった鶏
Webster(1995)は養鶏産業における疼痛こそ、「感覚を持つ他種に対する人間の非人道性を表す代表的なものであり、最もひどいものだ」と述べている。
重量種の血統のニワトリの場合、と畜されるまでに脚の虚弱化と運動障害の発生が25%になることから(Kestin et al..1992)、Websterは「およそ1/4の肥満系ブロイラーと七面鳥は生涯の1/3の期間、慢性的疼痛にさらされている」と述べている*2。
跛行や歩行困難、足のねじれ(詳細後述)、脛骨形成不全症(急速な成長に関連する足の骨格異常。詳細後述)といった足の障害は、ブロイラーでは一般的な疾患だ。
原因には飼育環境も無関係ではないが、急激に太るよう改変された種であることが主な要因だというのが多くの研究の一致した結論である。
すべてのブロイラーの群れには骨格異常のある鶏が含まれており*6、急成長させられる鶏はゆっくり成長する鶏に比べて脚弱の割合が高い*7*8*16ものとなっている。
チャンキーやコブといった急激に成長するよう改変された鶏種における脚弱の割合については、さまざまな研究がある。
上記のとおり25%というものもあれば、14%から50%が脚弱に苦しんでいるというものもあるし*3、ヨーロッパのブロイラーの10%から30%は、関節感染や骨格異常に起因する痛みを伴う肢障害に苦しんでいるかもしれないというものもある*4。
チャンキー(Ross 308)、コブ(Cobb 500))ともに脛骨形成不全症(詳細後述)が24.22%で観察された*5というものもあれば、チャンキー(Ross 308)の40.8%に明確な歩行異常が認められたというものもある*7。
ブロイラーの骨の障害
足のねじれ(捻転脚:Twisted Leg)
足関節が変形、膨張し、時に骨折する病気。発生状況・症状
1週齢から発生し、淘汰しても出荷時まで次々と発生する。雄鶏において発生が多い。発生率は銘柄や鶏群において異なるが、0.5-2.5%が通常である。しかし、ときには5%を超えることもある。片側あるいは両側の脚の足関節以下が外側あるいは内側に曲がり、脚弱や起立不能になる。そのため食欲は旺盛であるが採食困難となり、発育が遅れる。治癒することはない。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P126-128から引用)
発病要因
ブロイラーの発育に関連する遺伝的素因に基づく病気である。そのほかに飼育床面の性状(床面素材、敷料)、飼料組成(リンやカルシウム)が、ときには発生率を高めることが知られている。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P126-128から引用)脛骨形成不全症(脛骨異軟骨形成症:Tibial dyschondroplasia)
成長段階で軟骨の構造に異常が起こり、脛骨および中足骨の関節がはれ、ときに骨折する病気。発生状況・症状
特定の銘柄あるいは鶏群では1-10%の多発をみることもあるが、わが国のブロイラーでは0.1%以下のことが多い。雄鶏での発生率が高い。4-6週齢で発生が急に多くなる。病変を持つが発症しない潜在病鶏も多い。多くは両側性に膝関節がはれ、O脚あるいはX脚を呈し歩行を嫌う。あるいは起立不能となり削痩する。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P126-128から引用)
発病要因
ブロイラーの旺盛な発育に関連して特定の系統鶏で高い発生率を示し、遺伝的素因が病因である。飼育床面の性状も発病率を高める。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P126-128から引用)脊椎すべり症(Kinky BackあるいはSpondylolisthesis)
脊椎骨の変形・ずれにより、脊髄圧迫と後部麻痺を引き起こす病気発生状況・症状
発生率はそれほど高くなく0.1-2%であることが多い。鶏銘柄により発生率に差がある。1週齢から発生するが、4-6週齢が発生のピークである。歩行を嫌いいずくまっているもの、足関節で体を支え犬座姿勢をとるもの、後肢が麻痺して翼で移動しようとするものなどがある。最終的には削痩および脱水症状に至る。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P126-128から引用)
発病要因・防除
ブロイラーの発育訴因に関連した遺伝的な疾病である。(中略)防除は基本的には育種の問題であるが、孵卵環境や幼雛の育成環境を清浄に保つことが発病率を減らすために重要である。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P126-128から引用)
滑った腱SLIPPED TENDON (PEROSIS)
足の関節とアキレス腱のすべりが生じ、足とすねが体から横方向に伸びるマンガン、コリン、亜鉛などの栄養素不足が要因で、他のひよこがその上に積み重なったとき、または孵化直後にひよこが滑らかな床に置かれたときに受けた負傷によって引き起こされると言われる1。また、雛が急速に成長し、体重の増加の要求を満たすのに十分な速さで、強力な腱の構築や軟骨の骨への変換が行われる代わりに、エネルギー消費が肉生産に使用されることも要因となる可能性がある2。ブロイラーに多い足のねじれなどの変形は、体重の増加と共に、滑った腱を引き起こすことにつながる3。
1 Leg and skeletal problems
2 Farm to Plate Poultry leg deformities: More than a ‘growing’ problem
3 An HSUS Report: Welfare Issues with Selective Breeding for Rapid Growth in Broiler Chickens and Turkeys
鶏は痛みを感じないという虚説をいまだ信じている人もいるかもしれないので、一応言っておくが、これらの脚弱は鶏に痛みを与えて苦しめる。
研究では、足の不自由なブロイラーは鎮痛剤を含む食物を好むこと、また、足の不自由なブロイラーに鎮痛剤を投与すると活動が活発になることが示されている*3。
脚弱になれば鶏は餌皿や給水器に届かなくなり、体は衰弱し、死に至ることもある。
だが早めに死んだほうが鶏にとっては苦しみが少ないかもしれない。糞だらけの不潔な環境で過密飼育されて餌を満足に食べることができず生き残り、出荷時の荒い補鳥作業で弱っていた大腿骨が破壊され出血し、食鳥処理場につく頃にはカゴの中で死んでいた*6というような過酷な一生を送ることに比べれば。
ブロイラーの群れの中には時々頸椎異常のある鶏がいる。原因は特定できないが、伝染病による神経症状、栄養不足などとともに、遺伝による産まれつきの頚椎の変形も考えられている。最近の研究では商業用ブロイラーでこの頸椎側わん症、斜頸の雛が増加傾向にあり*、遺伝との関連の調査が必要だといわれている。この症状のある雛は、餌と水を得ることがむずかしくなり死んでしまうこともある。
* 11 October 2019 Cervical scoliosis and torticollis: a novel skeletal anomaly in broiler chickens
ブロイラーの育種改良は目覚ましいものがあり、毎年増体重で50g以上の改良がなされている。その結果、体内の酸素要求量が増加するため、心肺機能への負担が増し、寒冷感作などの影響で心臓機能不全が起こりやすい。それによって動脈圧の低下、静脈圧の上昇が起こり、漏出液が肝腹膜嚢に貯留されると推察される。食鳥検査では年間を通じて腹水症が認められ、廃棄処分全体の15-18%となっている。
(「鶏の病気」1995年 鶏病研究会 P122-125から引用)
国内ブロイラーの食鳥検査における腹水症による全廃棄率は、2006年から2014年にかけて2.5倍に増加している*18。
「突然死(SDS)」も腹水症と類似した機序でおこる代謝異常である。突然死もブロイラーの集中飼育では一般的な病気で、鶏は突然、首を伸ばしてあえぎ、泣き叫ぶこともあります。翼を羽ばたかせひっくり返ってもがき続け、死に至ります。成長の早いブロイラーでは発生率が通常1%-4%(0.5-9.62%とも言われる*20)。成長率を低下させると突然死の発生率はかなり低くなる*19。
ブロイラー業界が取り組むべきは、チャンキーやコブのような急激に成長するよう改変された種を使わない、ということだ。
近年では動物福祉の観点から「ゆっくり成長する鶏種」が出てきているのだから、そちらを選択すれば鶏の苦痛は減るだろう。
だが一日でも早くブロイラーを出荷して一円でも多く利益を上げたい会社にとって、「ゆっくり成長する鶏種」などはおそらく眼中にないだろう。
別の方法として初期の段階でブロイラーの制限給餌を行うという方法もある。
研究では、生後2週間にカロリーを制限すれば足の異常が半減することが分かっている*9。だがこれも初期の給餌制限がのちの増体を妨げる可能性は大きい。それに、たくさん食べてたくさん太るよう育種されたブロイラーの餌を制限するということ自体に動物福祉の問題がある。
結局のところ、ブロイラー養鶏業界には、ガリガリの強欲さを少し抑えて、鶏の福祉に目を向けるという余裕を持ってもらうしかない。いずれにせよ、自分さえ良ければいいという考えで動物福祉を無視し続けるならば、今後企業として生き残るのは難しくなるだろう。
あまり知られていないが、世界中のほとんどのブロイラーは、アビアジェン社とコブ社が育種したものだ。
この2社で作られた「原種鶏」あるいは「種鶏」が世界中に輸送されている。流れとしては「原鶏種」に卵を産ませて「種鶏」を増やし、その「種鶏」からさらに卵を産ませて孵化した雛が、ブロイラーの肥育農場に運ばれていき、肥育農場で太らされた鶏が屠殺されて「食肉」にされる、という形だ。この過程で鶏の数は実に6750倍に増える*17。少数の鶏を閉鎖した施設で増殖させ、少数の遺伝子を何千何万も産みだすという果てしない近親交配が続いている状態にある。遺伝的多様性がないということはつまり、環境への適応能力を欠き、病気や環境変化への耐性が低下することを意味する。鳥インフルエンザに終わりがみえないのも近親交配がつづいていることと無関係ではあるまい。だがここではその話はこれくらいにしよう。人間の利益のために行われる動物の「品種改良」が自然の摂理に反するもので、動物に益するところは何もないことだけ知ってもらえればよい。
日本において、この2社以外の鶏種は1-2%程度に過ぎない*10という。
日本のブロイラー種の90%を占める*11といわれている「チャンキー」を育種するアビアジェン社の「品種改良」とはどのようなものなのだろうか?その資料*12を読むと恐ろしい事実が明らかになる。
そこには「劣悪環境下でも良成績を残せる家系を見つける」と書かれており、鶏を、ぎりぎりの栄養・光線不足・高収容密度・高温・ぎりぎりの換気・過度のワクチン接種・古床使用・細菌やコクシの攻撃などの状況下におき、生き残る種を選抜しているというのだ。
古床使用とかいてあるので、通常鶏の出荷時に排出する汚れた敷料を次の雛の導入時にまた使用し続けるのだろう。地獄のような環境でも生き残れる種を選抜するのが「品種改良」なのだ。この「品種改良」の過程でどれだけの鶏が苦しみ死んでいったのだろうか。
アビアジェン社のサイトでは動物福祉に言及されているが、このような虐待飼育をしながら何が動物福祉なのか全く理解できない。
アヴィアジェン社のチャンキー種(Ross308)の成績目標をみてみると、2007年に50日齢のオスで3,634g*13であった体重が2014年には3,851g*14、さらに2019年には3,989g*15に増体していることが分かる。
ブロイラーが50年でどれだけ太らされてきたか、上の図をもう一度みてほしい。2005年の時点でもう十分すぎるほど自然の摂理に反する増体がおこなわれてしまっている。
それでも信じがたいことに、いまもなお「品種改良」という名の増体が続けられているのだ。
鶏の苦痛に目を向け理性を働かせることはできないのだろうか?
これからも、強欲に鶏からの搾取を続けるのが正しいことなのだろうか?
忘れてはならないのは、責任の一半が私たち消費者にあるということだ。
私たちがスーパーやレストラン、コンビニで購入する鶏肉製品のほぼ100%がこの「品種改良」された鶏なのだ。
私たちがこの鶏肉製品を購入し続ける限り、鶏の苦しみに終止符が打たれることはないだろう。
*2 動物への配慮の科学 2009 P83より引用
*3 Lameness and its relationship with health and production measures in broiler chickens
*4 Preventing Lameness in Broiler Chickens Welfare Quality®
*6 Leg Problems In Broilers – the poultry site
*9 Twisted legs in broilers. Haye U, Simons PC.
*10 家畜改良センター 国産鶏種の概要
*11 日本チャンキー50周年 日本のブロイラー産業の発展支える 鶏鳴新聞
*12 日本チャンキー「飼養管理の基本」
*13 BROILER Performance Objectives June 2007
*14 308 Performance Objectives 2014
*15 Ross308 Ross308FF Performance Objectives 2019
*16 The expanding market for slow-growing broilers BY GARY THORNTON ON SEPTEMBER 13, 2016
*18 動薬研究 2016.6月 No72「最近のブロイラー産業における病気」橋本信一郎
*19 Sudden Death Syndrome in Poultry May 05, 2015 Dr. Jacquie Jacob, University of Kentucky
*20 May 1, 2020 Controlling Sudden Death Syndrome via feed strategies