鳥インフルエンザが猛威を振るっています。今冬、殺された家禽(鶏、アヒル)の数は600万羽を超えます(2021年1月27時点)。これほどまでに鳥が殺されると、普段動物問題に関心を持たない人からも「かわいそう」という声が聞こえてきます。でも、鳥インフルエンザが発生するたびに、私たちの税金がたくさん使われていることを知っている人は、どれくらいいるでしょうか?
鳥インフルエンザが発生した場合、家畜伝染病予防法第16条に基づき、家禽の所有者は「直ちに当該家畜を殺さなければならない」と義務付けられています。
国の方針で殺す、ということから、これにかかわる費用は都道府県や国が負担します。
鳥インフルエンザに使われる私たちのお金
概要 | 内容 | 備考 | |
農場への手当金 | 鳥インフルエンザにかかり、殺処分された患畜一羽ごとに金が支払われる | その家禽の評価額が、国から農場へ全額支払われる 1羽あたりの上限: | 患畜=遺伝子検査を行い、り患が証明された家禽のこと。一つの発生農場で数羽程度 家畜伝染病予防法58条一、58条の2の一に基づく手当金 |
鳥インフルエンザにかかり、殺処分された疑似患畜一羽ごとに金が支払われる | その家禽の評価額が、国から農場へ全額支払われる 上限なし | 疑似患畜=患畜と同じ農場にいた家禽はすべて「感染している可能性がある」とみなされ、検査は行わず殺処分される 家畜伝染病予防法58条の三、58条の2の二に基づく手当金 | |
病原体により汚染し、又は汚染したおそれがあり、焼却・埋却した物品(飼料や卵)に対して金が支払われる | 当該物品の評価額が、国から農場へ全額支払われる | 家畜伝染病予防法58条の五、58条の2の三に基づく手当金 | |
死体・物品の焼却・埋却に要した費用 | 所有者が負担した場合は、国が1/2を所有者に支払い、残りは都道府県が支払う。都道府県の支払い分は国が負担する | ややこしいが、国と都道府県が折半するということ | 家畜伝染病予防法59条、60条の九に基づく費用 |
以下については全額都道府県が負担するが、それに対して国が都道府県に全額あるいは1/2支払う | |||
家畜防疫員の旅費 |
| 国から都道府県へ、全額支払われる | 家畜伝染病予防法60条の一に基づく費用 |
評価額を決めるための評価人の手当て・旅費 | 殺処分した家禽に支払われる評価額を決めるために選定された3人以上の評価人の手当と旅費 | 国から都道府県へ、全額支払われる | 家畜伝染病予防法60条の二に基づく費用 |
雇い入れた獣医師の手当 |
| 国から都道府県へ、1/2が支払われる | 家畜伝染病予防法60条の三に基づく費用 |
薬品の購入費 | 農林水産大臣の指定する薬品(消毒薬など)の購入費 | 国から都道府県へ、全額支払われる | 家畜伝染病予防法60条の六に基づく費用 |
衛生資材の購入費又は賃借料 | 農林水産大臣の指定する衛生資材(保護衣や注射針等)の購入費又は賃借料 | 国から都道府県へ、1/2が支払われる | 家畜伝染病予防法60条の七に基づく費用 |
消毒に要した費用 | 農林水産大臣の指定する(上記二つの薬品、衛生資材をのぞいた)消毒に要した費用 | 国から都道府県へ、1/2が支払われる | 家畜伝染病予防法60条の八に基づく費用 |
鳥インフルエンザ発生農場の、近隣の農場などへの手当金
| 病原体の拡散を防ぐために家禽などが移動禁止・制限された場合 | 家禽、その死体又は物品の所有者が、左記の禁止、停止又は制限をすることにより生じた、下記の費用について、国から都道府県へ、1/2が支払われる
| 家畜伝染病予防法60条2に基づく手当金 |
化製場の事業を停止・制限された場合 *化製場 鳥類の肉、皮、骨、臓器等を貯蔵したり、これらを原料として油脂、肥料などを製造する施設 | |||
放牧、種付、又はふ卵が停止・制限された場合 | |||
消毒ポイントの設置 | 都道府県が支払うが国の1/2負担が認められる | 都道府県が独自に設置したもの | |
その他 | |||
他にも、都道府県は、家畜防疫員(専門員)以外の作業員への旅費、鳥インフルエンザの発生状況確認検査、清浄性確認検査などにも費用を出しています |
上記以外で使われる、私たちのお金(全額負担ではない)
緊急時の鶏肉処理体制整備等 | 鳥インフルエンザが発生し、食鳥処理場が移動制限区域に入ると稼働が停止する可能性がある。その場合の対策費 | 食鳥処理業者が、ウイルスを不活化できるような「消毒噴霧器」や鶏肉が動かせなくなってしまった時の緊急的な保管のための冷凍庫や冷蔵庫のリースをするときに、国が1/2を補助 | 国産畜産物安心確保等支援事業のうち緊急時の鶏肉処理体制整備等 |
鳥インフルエンザ予防のために、地域ぐるみで農場の防鳥ネットや消毒機器の整備等をおこなうときの費用 | 都道府県、市町村、農協、生産者団体等に対して、国が1/2を補助 | 消費・安全対策交付金 | |
鳥インフルエンザが発生した場合に、農場が経営を維持・継続することができるように補助する | 発生農場が経営再開までに必要な経費等を支援する | 生産者が積み立てを行い、国((独)農畜産業振興機構)が1/2を補助 | 家畜防疫互助基金支援事業* |
鳥インフルエンザにより深刻な影響を受けた農場に対し、経営の再開、継続及び維持に必要な低利資金制度 | 貸付利率低いが、利率を下げた分(半分)を国が補償 | 家畜疾病経営維持資金融通事業 |
鳥インフルエンザに関して私たちが払っているお金はこれだけではありません。鳥インフルエンザ防止のために家畜保健衛生所が農場をまわって飼養衛生管理指導をするのも、鳥インフルエンザ予察のために行われている野鳥の調査も、私たちのお金です。
鳥インフルエンザが発生した時に、都道府県の農政部局だけでは人員が足りない場合、自衛隊も派遣されます。「鳥インフルエンザ対策」としての費用の支払いがあるわけではありませんが、彼らもまた、国のお金で動いています。
表では「鳥インフルエンザ」と書いていますが、豚熱や口蹄疫でも同じように私たちのお金が使われています。
これほどまに畜産業が手厚く保護されているのは、それが国の基幹であり無くてはならない産業だという考えに基づくものです。
しかし本当にそうでしょうか?
畜産には、動物虐待、温室効果ガス排出、水の大量消費(水不足)、水質汚染、抗生物質の乱用(耐性菌)、人獣共通感染症、大量の水と穀物を少量の畜産物に変換(間接消費が多すぎる)、森林破壊、食品安全、畜産労働者からの搾取、人殺しなど数えきれないリスクが指摘されています。
1950年代に鳥インフルエンザがA型インフルエンザとして分類されて以降、当初は数年おきだった発生が、2000年以降は毎年各地で発生が報告されています。日本でも2004年以降、ほぼ毎年(2008年、2012年、2013年、2019年をのぞき)発生していて、いまだ終息の気配はありません。
これまでにもすでに鳥インフルエンザによる膨大な経済損失が生じています。これからもこの、補助金で成り立つ脆弱で、リスクの多い産業に私たちはお金を使い続けるのでしょうか?。
鶏肉や卵がなくても美味しい料理を楽しめます。代替肉市場は史上空前の勢いで広まっています。動物を食べるのを止める、減らすという選択で、終わりのない大量殺処分と縁を切ることができます。