バタリーケージから保護した鶏を終生お家で育てたい、そんな人が増えてきた。そんな人のための人道的な鶏飼育の心得。
まず、鶏を食べたり、卵のために飼育したい人、孵化させて増やす人は、鶏を飼育しないでほしい。最も苦しみの大きい動物である鶏を利用したり、年間800億羽が犠牲になる鶏を増やすなんてことは、絶対に許されない。ペットショップから購入する、繁殖業者から購入する、など搾取に加担しないことも当然のこと。アニマルウェルフェアを軽視する人も、できるだけ簡単に飼いたい、餌や掃除も大変だと感じる、ほとんど留守にしている、泊りがけで家に誰もいないことがある、などの人も飼育してはいけない人だ。
犬や猫はある程度人間のライフスタイルに合わせた行動を取れる動物だしペットホテルやシッターさんもいるが、鶏はそうではない。それでいてお金もたいそうかかる。庭がないといけないし、意外にもメスも結構騒ぐので街なかに住む人は引っ越しも必要になるかもしれない。野生動物に襲われる危険性はどの動物よりも高く、とても神経を使う。
つまり、私達はけっして、飼育を勧めたりはしないということ。
鶏は1日1万回以上地面を突き、色んな場所を移動しながら足で地面を掘って餌を探し、砂浴びをし、日光浴をし、羽繕いをし、巣に隠れて卵を産み、夕方は家に自分で戻ってきて高い場所に登って止まり木で眠る。つまり・・・
広い庭:土があり、草が生え、木陰がたくさんあって、虫も十分に生息できる広さ=広ければ広いほどいいが、アニマルライツセンターの里親基準では2羽5m×5m程度を最低条件としている。
野生動物に最も襲われやすい動物が鶏。アニマルライツセンターでも3羽殺されており、重たい教訓になっている。
鶏を襲う動物は、イタチ(ひし形の大きなフェンスはすり抜ける)、ハクビシン、たぬき、アライグマ、そして空からは鷹や鳶が襲ってくる。カラスや猫も弱っていたりひよこであったりすれば襲う可能性がある。野良犬がいることは多くはないが、犬も当然鶏を襲う。飼い犬であったとしても逃げ出したりしている可能性があるので要警戒。
日の出後に扉を開け、日の入直前には扉を閉める。つまり外出は制限される。もしくは誰か頼める人が必要だ。
最低限、2重柵にする必要がある。一つは電柵にすることをおすすめする。常にメンテナンスが必要だ。
簡易な自作の鳥小屋はやめたほうがいい。野生動物に壊される可能性があり、また隙間から侵入することもある。イタチは相当小さな穴から侵入して血を吸って出ていく。
周りに人がいる環境づくりも重要で、山に面していたり、ぽつんと一軒家などである場合はより頑丈な策が必要で、周囲の草刈りを欠かしてはいけない。
鶏を守ることのできる草食の大きな動物やガチョウ(アヒルはだめ)を飼育することも推奨されることがあるが、衛生面がむずかしいし守ってくれるとは限らない。オスの鶏はよく働くし見守ってもくれるが、桜サンクチュアリのオスはいざという時はいち早く逃げる姿を何度か目撃されている。
1羽で保護してしまうこともあるだろうが、1羽である場合は別の鶏の里親になったり、または里親に出すなどして一人にしないことが必要。社会性のある動物を一人きりで飼育することはネグレクトにもなりうる。もし一時的に、または最後の1羽を看取るなどで1羽になる場合は、人間ができる限り寄り添ってあげ、鶏の行動につきそってあげる必要がある。
採卵鶏は卵を産みすぎることが彼女たちの内部疾患を作り出すため、卵を温め始めて産卵が止まることはいいこととも言えるが、実際にはそうではない。彼女たちの巣ごもりは激しい。餌は朝ほんの少しついばむだけで、熱くなった体でずっと卵の上に座り続けるため、衰弱してしまう。本来、卵から雛が孵れば巣ごもりは自然と解除されるが、ひよこが増えることは絶対に避けなければいけないため、巣箱に卵ははいっていない。そうするとずっと巣ごもりし続けてしまう可能性がある。そうすると弱っていくため寄生虫にやられやすくなったり、死んでしまうこともあるとか。実際桜サンクチュアリでも数日の巣ごもりで既にぐったりしていた。
できる限り早くに巣ごもり状態を解除させる必要がある。これが結構やっかい。
当然だが、卵を孵化させて増やそう なんて考えている人は飼育しないでほしい。それは保護でも動物のためでもない。
放牧を条件にしているので、外部寄生虫のトリサシダニに悩まされることは必然。養鶏場から来た場合はワクモがついてくる可能性もあり、要注意だ。これらは駆虫薬でしっかり駆虫し、発生するたびに何度も大掃除。
内部寄生虫が発生する場合もある。うんちを常に観察してくことは必要で、もしもうようよと動く寄生虫が発生した場合は、よもぎを食べさせておくと多くの場合いなくなる。それでは太刀打ちできない場合は動物病院へ。
鶏はうんちの場所を固定することはない。外敵に襲われることが多い鶏のような動物は、うんちの場所を固定すると狙われやすくなるため、いつでもどこでもうんちをするのが習性なのだ。ただ、絶対にしない場所もあって、巣箱の中ではうんちはしないし、十分な広さがあると次第にご飯の周囲を避けたり、踏まなくなったりする。
畜産との違いは、毎日ちゃんとうんちを取り除くというところ。放牧場で土に帰っていくもの以外、屋内、コンクリートの上などはすべてせっせと掃除。掃除。掃除。毎日掃除は面倒、という人は動物飼育は向いていない。
桜サンクチュアリは昔ながらの集落に有り、鶏飼育をする家が多いことから鶏の鳴き声は蛙の声程度の生活音であり、カバーできるコミュニケーションがあるので問題になっていないという稀有な立地だ。だが、どんなに田舎でも、もちろん都会ならなおのこと、鶏の声を許容してくれる地域社会はあまりないようだ。
オスはもちろん、夜中の3時から全力でコケコッコー。しかも止まらない。
メスは卵を産みおわったり、群れからはぐれたりすると緊急警報のような声を出し、オスがそれに呼応し大騒ぎする。メスだからと侮ってはいけない。メスの場合、大声を出すかどうかは個体差による。
採卵鶏は過酷な品種改変をされている。養鶏場は鶏がまだ1~2歳の内に使い捨てにするということをしており、その後の寿命まで生きることを考えてない。そのため、養鶏場から出たあと、予想外の障害や死に直面するだろう。もちろん普通の鶏の疾病もかかる。
もっとも顕著なのは卵管、子宮、卵巣まわりの疾病。卵詰まりなどはよく起きるし、卵管が飛び出してきたこともある。水も溜まりやすい。突然死することもある。ブロイラーだった場合は大抵早々に死んでしまうし、歩けなくなったり、心臓発作に襲われたり、暑さでへばりやすいし、ほとんど介護。
鳥をちゃんと診れる病院の確保が必要なのだが、ほとんどないし、鶏はあまり治療法がわかっていないことも多い。養鶏場では治療という考え方がなく元気がなくなれば殺すからだ。畜産出身の鶏自身も治療に慣れておらず、抗生物質を投与して突然死ぬこともあったし、たいてい弱るので慎重に考えなくてはならない。
犬猫の病院に連れて行っても下手な治療をされて弱ることも多いので気をつけてほしい。鳥やエキゾチックペット専用でチャボあたりもちゃんと専門的に診れる専門病院を確保しよう。
いろんなやばい感染症は本当に気をつけなくてはならない。
だれでもかれでも敷地内に立ち入らせてはいけないし、人間と同じように3密をさけ、運動させ、清潔にし、何らかできるだけ自然な方法で消毒をする必要がある。ちなみによく養鶏場が使う石灰や消毒薬は正しく使わないと(一瞬足を消毒につけるとかではだめ)ウイルスも菌も死なないのだがこのあたりの話はまた今度。
とにかく間違いがないのは、敷地に対して数が一定数オーバーするとあっという間に感染症にかかる。なので、広い敷地にとっても少ない羽数を維持するべきだし、一人の人間が適正に世話をできる数も超えてはない。保護が必要な動物は無限にいるわけなので、飼育し始めると動物を増やす人が多いが、それは全く動物のためにならない。
また感染症にかかったときのための隔離場所も確保しておく必要がある。
鶏はまさに”太陽の子”。夜明けとともに活動を始め、日暮れとともに眠る。このライフスタイルをしっかり尊重して、夏は人間も5時に起き(冬は7時頃まで寝られる)、夕方は冬は5時頃に家にいて、さんざん遊び回ってきた鶏たちが帰って来るのを待って戸締まりをする。ちなみに海外ではリモートで操作可能な自動ドアがある。これとペットカメラ(桜サンクチュアリもいたるところについていて防犯バッチリ)を組み合わせると、もう少し自由にはなるかも。
いずれにしても、ちゃんと朝から晩まで、好きなこと(基本的に外が好き)をさせてあげよう。
ポジティブで、コミカルで、それぞれに個性があり、見ていて本当に楽しいし飽きない。一緒に暮らすと彼女たちの賢さに感嘆せずにはいられないし、心の通い合いも関わり方次第で可能だし、どの動物よりもひどい目にあっていたのにトラウマを克服する強さを持っている。
とはいえ、どの動物でも共通だが、本当に自分が責任を持って、適正に(これが維持できないなら飼育するべきではない!)飼育できるのかをもう一度見直してほしい。
ライフサイクルの変化が訪れることが予想されるなら、今は飼育すべきときではないのでは?学校、結婚、離婚、介護、転職、リストラ、出産、引っ越し、入院、、、色々予見されるはずだが、本当に飼育を続けられる?
それでももし保護して飼育してもいい、という人がいたら、動物愛護センターに鶏の保護が無いか聞いてみる、養鶏場にお願いをしてみる、廃鶏にされる鶏を買い取る、など保護を試みてほしいと思う。