スーパーの鶏肉は、ほぼ100%が急激に成長するブロイラーです。「鶏肉」コーナーで、このような白い縞が入っている「胸肉」を見たことがないでしょうか?
スーパーの肉コーナーは、肉が新鮮できれいに見えるような照明管理がされているので、並んでいる状態では分かりにくいかもしれません。でも手元に持ってきてよく見たり、買って帰ってパックから取り出してみると、よく分かります。
筋線維の方向に平行に見られる白い縞模様この縞、ホワイトストライプ(WS)と呼ばれています。この縞は、脂肪の増加(脂肪症)と繊維症を伴う筋肉の変性を表しています1 2。軽度のホワイトストライプから強度のホワイトストライプまでさまざまなレベルがありますが、縞が増えるにつれて脂肪含有量が高く、タンパク質レベルが低くなっています3。
海外では、「鶏胸肉」のホワイトストライプは成長率の増加に関連する問題だと捉えられており、非難の声もあがっているほどです6。ある研究は、急激に太る育種「改良」がホワイトストライプに密接に関係していることを示しています4。
いくつかの研究は、今日の家禽肉が数年前に生産されたものと比較してより高い脂質含有量であることを示しています3。
42日齢で屠殺された鶏1349羽を調査した2016年の海外の研究では、このうちホワイトストライプの発生率は50.7%であり、36.7%が中程度のホワイトストイプ、14%が深刻なホワイトストライプであることがわかりました5。かなり高率で発生していることが分かります。さらに2021年10月に発表された米国のスーパーマーケット調査では鶏肉の70%に中程度から重度のホワイトストライプが見られたそうです。White striping widely prevalent in US supermarket chicken
日本では「白い縞」が何を意味するのか知る人は少ないと思います。スーパーで「この白い縞はなんなのか?」と精肉部門に聞いてみても「個体差があってこういう白いのが入ってることがある」「わからない」と、明確な回答が得られたことはありません。
日本では(海外でもそうですが)、白い縞が入っていても普通に市場で販売されています。全米鶏肉協議会は、ホワイトストライプが入っていても、人の健康や食品安全上の懸念を引き起こさない、と言っています7。日本の食肉衛生検査所も、軽度の変性があっても食べて問題はないといいます。健康に有害かどうかは疫学調査をまたねばならないと思いますが、ホワイトストライプが筋肉の変性という病変であるということは変わりはありません。
アニマルライツセンターは日本の「鶏胸肉」の縞の状況を調べることにしました。
ホワイトストライプが多いほど脂肪が多いという研究結果をふまえ、まず白い縞が見られる鶏肉を検査に出し、実際に脂肪が多いのかを確認しました。
写真は検査に出した「鶏胸肉」です。パックに入った状態ではどこに縞が入っているのか分かりづらいかもしれませんが、左の方をみると、縞が入っていることが分かります。
検査に出した「鶏胸肉」は
下はパックから出して、左の縞をアップで撮影したものです。
裏返して皮側を撮影したもの。縞がより分かりやすいと思います
さらに皮をはいだものが下のものになります(検査は、皮を取り除いて出しています)
この「鶏胸肉」検査の結果は次のとおりでした。
「鶏胸肉」一枚(395g)白い縞あり
100gあたりの脂質4.1g(皮を取り除いたもの)
検査報告日2020年10月30日
つぎに白い縞の見られない「鶏胸肉」を検査に出しました。この「鶏胸肉」はパックから出して全体をみても、白い縞は入っていませんでした。
検査の結果は次のとおりでした。
「鶏胸肉」一枚(355g)白い縞無し
100gあたりの脂質1.9g(皮を取り除いたもの)
検査報告日2020年12月18日
白い縞のある「鶏胸肉」は縞が無いものの2倍の脂質だということが分かりました。
検査後、2020年11月から12月にかけて、九州、関東、中国地方のスーパー19店の「鶏胸肉」の調査を行いました。その結果、次のことが分かりました。
706枚の「鶏胸肉」のうち354枚に白い縞有り。
つまり約半数です。
文科省のデータ(日本食品標準成分表2020年版(八訂))を見ると、「皮なしの鶏胸肉」の脂質は1.9g(100gあたり)となっています。アニマルライツセンターが調査した、白い縞の見られる「鶏胸肉」の脂質は4.1gでしたので、文科省の出しているデータの約二倍ということになります。
しかし文科省のデータに掲載されている1.9gというのは2005年ころの検査のままです。
いっぽう、ブロイラーの育種企業は日々育種「改良」に励んでおり、代表的なブロイラーの育種企業であるアビアジェン社が出している毎年のチャンキーの成長目標表をみると、年々増体していることが分かります。育種企業はブロイラーの増体が動物福祉を大きく損なっていることを知りながら増体を目指した「改良」を続けています。(育種企業による「改良」についての詳細はコチラの「品種改良はどのようにして行われているのか?」「とまらない「品種改良」」をご覧ください。)。
つまり、文部科学省の1.9g(100gあたり)とは過去のもので、現在のブロイラーの平均的な脂質率はもっと高くなっているということなのかもしれません。あるいは、当時調査した「鶏胸肉」がたまたま脂質の低かったものである可能性もあります。
さらに、アニマルライツセンターは鶏のササミも検査に出してみました。ササミを検査に出したのには理由があります。「鶏胸肉」の調査のためにスーパーに行ったところ、ササミに白い縞が散見されたためです。ササミは胸肉のように皮で隠れていない分、より分かりやすいということもあったかもしれません。
白い縞が目立った鶏肉を選んで(上写真)、検査に出したところ、次の結果でした。
「鶏ササミ」3本 白い縞あり
100gあたりの脂質1.2g
検査報告日2020年10月2日
「鶏胸肉」は「ヘルシー」の代表格ですが、ササミはさらにヘルシーと一般的に考えられています。webサイトをみると、鶏の脂質は0gなどと記述しているサイトもあります。文科省の食品成分表(日本食品標準成分表2020年版(八訂))は0.8g(100gあたり)ですので、検査に出した白い縞のあるササミは1.5倍の脂質ということになります。
ササミにおける白い縞のスーパー調査は行っていませんが、ざっと見た感じでは相当数の白い縞が見られるように感じます。
目視調査した白い縞の入っている「鶏胸肉」が、アニマルライツセンターが検査に出した白い縞ありの「鶏胸肉」と同じように脂質が高いと考えると、スーパーの「鶏胸肉」の約半分は、みなが思っているより脂質が高いうことになります。
少なくとも白い縞は、健康な鶏の肉、とは言えないだろうと思います。「食べても問題ない」「市場に出ても問題ない」としても、それは脂肪症、繊維症といった病変です。「鶏胸肉」=ヘルシーは、疑問です。
スーパーで調査していると「鶏胸肉」一枚(片胸肉)508gの商品がありました。508×2で1kgもの胸の重量を抱えて鶏は生きていたことになります。鶏の出荷時の体重は3kg程度ですので自分の体重の1/3が胸肉です。生産性を重視し信じられないくらい増加された肉を抱えてあえぎながらヨタヨタと歩く鶏の姿が目に浮かびます。これは想像ではありません。
アニマルライツセンターに情報提供のあった日本のブロイラー農場では、実際に生後たった50日足らずでブクブクに太らされたブロイラーがガニマタでヨタヨタ歩いては座り込み、ヨタヨタ歩いては座り込みしている様子が映像から確認できます。
ブロイラーたちは急激に体重が増え、屠殺のための出荷が近づくにつれて、自分にのしかかる重い体重を抱え、ただ毎日生きるだけで精いっぱいになります。
スーパーに行った時、ササミや「鶏胸肉」の白い縞を確認してみてください。もし「鶏胸肉」を購入した場合は、まな板の上でひっくり返し、皮を剥して全体を観察してみてください。白い縞は病変です。そしてそれは鶏たちの苦しみの証でもあります。
スーパーの肉の棚から、鶏の苦しみを想像してみてください。そして、鶏肉を食べない、減らすという選択を検討してみてください。
それでも、健康上や家族の都合などで食べなければならないことがあるかもしれません。その時はせめて地鶏を選択してください。地鶏であればブロイラーほどの過酷な育種「改良」は行われていません。半分の血はチャンキーのような急激に成長させられるブロイラー種ではなく在来種でならなければならないという決まりがあります。さらに1㎡あたり10羽という飼育密度の決まり(ブロイラーは1㎡あたり16羽です)もあります。
ただ忘れないでほしいのは、地鶏であっても育種「改良」は行われており、その結果、「出荷時に足の骨が湾曲して皮が破れる」というようなことが起こっています。そして彼らもまた本来の寿命よりはるかに短い期間で安楽死ではない「屠殺」という苦しみの多い殺し方をされます。
屠殺は肉にして食べるためのものなので、薬殺などは行われません。コストがかかるため一羽一羽安楽死などという手間がかけられることもありません(ブロイラー一羽当たりの取引価格はたった数百円です)。日本だけで一日220万もの鶏が屠殺されており、時間的にも安楽死は不可能です。大量生産大量消費される家禽たちは底辺であえぎ、苦しんでいます。ベターチキンに業界全体外交することは業界の責務であり、市民もこれを求めなくてはなりません。しかしあなたたこの苦しみに加担したくないなら、最も簡単な選択は「食べない」という選択です。
ブロイラーの一生について、より詳細なレポートはこちらからご覧ください。
6 Sep 7, 2020 UK stores criticised for selling white striping meat
参照