2023年6月、島根県にある大田原農場で乳牛へ暴行を加える動画がSNSで拡散され、県警による捜査が行われた。報道では暴行の内容について大まかな説明しかされていないが、相当回数、乳牛を執拗に痛めつけている。
動画1と動画2をあわせた2分40秒中で一人の従業員(以下従業員A)によって以下の暴行が行われている。
”牛に暴行するなどすることは、牛乳の品質に関わるとして通常はありえない” ”家族のように愛情を持って接しているんだ”という主張があるが、実際には乳牛への暴行は他の農場でもたびたび目撃されている。牛は大きいため、より力を込めた暴行が行われがちである。この動画の中では別の従業員が奥の搾乳エリアに現れるが、これらの行為を問題視する素振りは見せておらず、このことから、当該農場では乳牛に対する暴行が珍しくないことを示している。2人で作業をするから注意をするのだという言い分を信じることは難しい。
これらの暴行は動物愛護管理法第44条2項を構成するものと考えられ、さらにその管理責任を負う法人(農場)は第48条第2項を構成するものと考えられる。動物愛護管理法の罰則には当たるが、同じ動物を扱うペットショップなどのように業としての処罰対象にはならないのは、まったくもって理不尽なことだ。畜産業が動物愛護法における動物取扱業に含まれないことにより、畜産業は動物虐待に対する抑止力が働きにくい業界だ。ペットショップなどは罰金刑以上になれば業務が停止されるのだからより慎重になる。そういった意識が働かず、ましてやつい数年前までは畜産業が動物愛護管理法の罰則に当たることを知らない人のほうが多かったというそんな状態にあるのだ。動物愛護管理法ではこれまでずっと、畜産業に関する固有の条項がなく、さらに動物取扱業から畜産を除外してきたが、その態度を正す必要がある。
誰でもが従業員Aのような執拗で無意味な暴行をするわけではないが、一定数、暴力的な行為、虐待を行う従業員は、思うように動かない動物を扱う畜産の現場ではいる。
0:11 従業員Aがもくし(牛を拘束したり引いたりする際に結ぶ縄の結び方)の縄を手に持った状態で、乳牛の目から口元までの範囲に右足で蹴り(靴底全面型の蹴り)
0:21 従業員Aが、薄手のビニール手袋をした右手の指を乳牛の左目に入れ目潰しする
乳牛の脚が右にずれて痛みに反応している
約2秒間
0:42 従業員Aが、乳牛の左目を二度目の目潰し
乳牛の脚が右にばたつき、痛みに大きく反応している
約2秒間
※この時右側の乳牛の顔も映っており右目が負傷しているように見える
0:56 従業員Aが、乳牛の左目を三度目の目潰し
乳牛が左前脚を上げて痛みに反応している
約1秒間
※1:06 乳牛の顔の動きが完全に封じられる
1:09 従業員Aが、乳牛の左側首付根辺りへ右足で蹴りあげる(靴底全面型で蹴る)
この時、乳牛の反対側の首の後ろと鼻の先にはストールのパイプが通っており、蹴りの衝撃で乳牛の右側の首と鼻にもダメージがある可能性あり
1:11 従業員Aが、同じ場所に二度目の蹴り(靴底全面型の蹴り)
この時、乳牛の顔のブレは少なく、鼻はパイプに当たっていないものと思われるが、右首後ろはダメージの可能性あり
1:12 従業員Aが、同じ場所に三度目の蹴り(同じ場所だがやや下にずれた位置につま先から土踏まずの間くらいの範囲で靴底が当たっている蹴り)
この時も乳牛の顔のブレが少なく、鼻はパイプに当たっていないが、右首後ろはダメージの可能性あり
1:14 従業員Aが、同じ場所に四度目の蹴りを入れようとするところで動画1は終わった
0:24 従業員Aが、薄手のビニール手袋をした左手の指で乳牛の右目を目潰し
乳牛は顔を右に振る
約1秒間
0:27 従業員Aが、右手の人差し指と中指の二本で乳牛の右目を二回目の目潰し
乳牛が痛みで顔を後ろに振るように反応している
約1秒間
0:28 従業員Aが、目潰しによって顔をよけた乳牛の右目に三度目の目潰し
乳牛は顔を動かし嫌がる仕草をする
約1秒間
0:29 従業員Aが、乳牛の顎に右手で平手打ち(下から上へ振り上げ平手打ち)
0:31 従業員Aが、薄手のビニール手袋をした右手の指で乳牛の右目を四度目の目潰し
乳牛は顔を振り上げる
約3秒間
0:38 被告発人Aの右手の指が乳牛の左目に入っている可能性あり
0:39 被告発人Aが、右手で、乳牛の左頰の下から顔を押し上げる
0:46 被告発人Aが、右手で乳牛の右目を五度目の目潰し
乳牛は顔を振り上げて左横を向き嫌がりその後脚をばたつかせる
約1秒間
※0:49に後ろからシャワーをかける別の従業員が現れ、乳牛は更に後ろを向く。
0:55 被告発人Aが、乳牛の右首を右手で殴る
0:58 被告発人Aが、乳牛の右首を右足で蹴る(靴底全面もしくはつま先から土踏まずの間の範囲で蹴り)
1:11 被告発人Aが、縄を持った状態で、乳牛の左頰を右足で蹴る(つま先の靴底部分で蹴る)
1:21 被告発人Aが、右手で乳牛の左目を六度目の目潰し
乳牛の脚が右側にずれて痛みに反応している
約3秒間
今回の乳牛への暴行は島根県で起きた事件だが、自分には関係ないと思っている消費者も多いのではないだろうか。
しかしそれは誤りだ。実際には牛乳・乳製品を購入する全ての消費者に関係している。
農場で搾乳された生乳はバルククーラー(冷却貯乳槽)に貯乳され、その後集乳にやってくるタンクローリーに移される。集乳車は各農場を回るのでこの時点で複数の農場の生乳と混ざることになる(※酪農家による自己販売を除く)。混ざった生乳は最終的に全国10の指定生産者団体(農協)が共同販売し、これを購入する乳業メーカーが各ブランドをつけて商品化、牛乳パックに入ったりヨーグルトやチーズになった商品を一般の人々が日々買っているという仕組みになっている。
だれもが、この暴行を受けた乳牛がいる農場の牛乳を飲んでいる可能性があるということだ。あなたはこの暴力に、この乳牛の苦しみに、お金を払ったかもしれないということだ。
これまでに他の農場でも暴力は多々報告されているし、実際に行われている。しかし、酪農業界はいつもそれらの指摘を否定し、かばい合い、自浄作用は全く働いてこなかった。このかばい合いにも、上記の共同販売する仕組み(一元集荷多元販売)が悪影響を及ぼしている。また、酪農は離農の数が少なくても年間200、多ければ400件などにもなる業界だ。潰れて乳量が減っては困るというのも見て見ぬふりをする一つの要因になっていることがある。
一つの農場で置きたことが別の農場で搾乳された牛乳の販売先にも影響を及ぼすのだから、否定したり隠蔽したりしやすくなってしまう。隣の農場のことは見て見ぬふり、という状態に陥っている。少なくとも、アニマルライツセンターで把握しているエリアではそのようなことが起きていた。補助金を出す側の団体に訴えても逆ギレされたりしたこともあるし、御存知の通り、実際のエピソードをアニマルライツセンターが漫画にしてみたところ大炎上してしまったこともある。今回も、酪農関係者が動画のアップは気をつけようと呼びかけるなどしているのをみかけたが、暴力については他人事である。
なぜか酪農家だけでなく、一般の人々も、まさか暴力なんてそんな酷いことはしないと信じているのだが、何度も繰り返すが、残念ながら現実には動物を多数飼育する現場では暴力は常に隣り合わせだ。
「家族のように愛情をもって接している」「丁寧に扱っています」「ストレスフリー」などのエビデンスのない形容詞はアニマルウェルフェアウォッシュであり、畜産物を仕入れる食品企業は「法令を遵守」することは極めて難しいということを知っておかねばならない。酪農は私たちの税金から破格の補助金を得て営まれているわけだが、実際には消費者への裏切りとも言える実態が潜んでいる。
そろそろ牛乳・乳製品から離れよう。カフェで飲むカフェラテも、チーズも、ヨーグルトも、料理に使うミルクも、全て植物性に変えることができる時代なのだ。
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