2021年、卵の相場が高騰した。昨年同時期と比べれば春~夏には1.6倍にまでなり、過去5年で最高を記録。夏場としてはこれまでにないほど高くなった。
この理由として鳥インフルエンザを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、じつは鳥インフルエンザはほんの一部に過ぎない。鳥インフルエンザで価格高騰が予見されていたにもかかわらず、さらなる価格高騰を招いた行為があったのだ。
それは”成鶏更新・空舎延長事業”。この税金が使われている悪名高き補助金事業である。
成鶏更新・空舎延長事業は、卵の相場が一定価格以下に下がった時に発動し、市場に出回る卵の数を減らすというものだ。
卵を減らすために、どうするかというと、産卵中の鶏を殺す。
成鶏”更新”っていうのはつまりさっさと殺してちょっと期間を開けてまた新たな鶏を入れるってこと
養鶏場は補助金を受け取り、また屠殺を担当した屠殺場(食鳥処理場)も補助金を受け取る。
つまり、鶏を殺して生産調整をした挙げ句、補助金を得るという仕組み。
2020年5月~9月、まさにコロナ禍がはじまってすぐにこの事業が発動し、鶏が殺され始めた。
その直後の2020年11月から2021年の3月までの間に、約885万7千羽の採卵鶏が鳥インフルエンザ発生によって殺された。この数は過去最大であり、大きな打撃を受けたかに見えた。しかし、この数の殺処分では、卵の供給過多は解消されなかったようだ。
鳥インフルエンザの真っ只中、まさに100万羽規模の養鶏場の鶏が殺処分されている最中に、再び成鶏更新・空舎延長事業が発動し、2021年2月まで鶏の殺処分が続いた。
最終的に、2020年度はこの事業によって1425万羽が生産調整のために殺された。この数は過去最多だった。
鳥インフルエンザで殺された産卵鶏は全体の6.3%だったが、この成鶏更新・空舎延長事業で殺された産卵鶏は全体の10.1%だ。
鳥インフルエンザでの殺処分数と合わせると、2310万羽で全体飼育羽数の16.4%。これだけ多くの採卵鶏が突如殺処分されたことによって、今年の卵の価格が高くなったのだ。
この対策は多額の税金が投入されるが、しかし一時的な効果しか生まない。
今年の春~夏にかけて一気に高騰した卵の相場、しかし効果は長く続かず、今年11月の卵の価格は再び低下して通常に戻っている。そしてまた、今年も鳥インフルエンザは発生し、殺処分が開始された。そしてこの鶏を殺す事業は、2018年度から3年連続で行われている。
これは何を意味するのか?
そもそも羽数が多すぎて常に供給過多なのではないだろうか。
また、この事業を含め、補助金を当てにした鶏卵生産を行っていないだろうか。
卵は安くてなんぼ、みたいなイメージが有り、「価格の優等生」なんておだてられて、卵の価値はどんどん下がっていった。消費者物価指数を見てみると、1970年と比べて、物価は平均して3.3倍に上がっているが、卵は上がったり下がったりで結局1.6倍(2020年)にしか上がっていない。その理由は常に供給過多の状態で生産量を上げ続け、健全な価格上昇ができなかったからだ。業界のコストカットによる努力の賜物だなんていうが、そのしわ寄せを全てかぶったのは鶏たちだ。業界ではない。
貧困に苦しむ人々にとって安い卵が必要だから、アニマルウェルフェアを高めて価格が上がることは許されないと言う人が一定数いるが、果たしてそうだろうか。
実際には、今年、卵の価格が上がり、安い卵の供給がなくても特に貧困問題の一部として語られることはなかった。
そして、コロナ禍で多くの人が困っている中で、税金を使って価格を上げたのは他ならぬ鶏卵業界だった。
今年、卵の価格が上がっても人々が許容することが証明されたといえる。
もちろん、改めて意識調査などを行えば、多くの人は、物価を上げないでほしいと答えるだろう。人間の心理として当然の結果だ。しかし、それはあくまでも希望であって、現実に価格が上がった時に許容するかどうかは、また別の問題なのだ。
成鶏更新・空舎延長事業という恐ろしく非人道的で、もはや人としての一線を越えた事業を、一刻も早く終わらせなくてはならない。
なぜこの事業があるかといえば、卵の価格を養鶏業者が上げたいからだ。上げればいいのだ。まともな方法で。そして、価値をあげたらいいじゃないか。そして短期的な施策に終止するのではなく、長期的視野で鶏卵需給をちゃんと予測して、生み出される鶏の数の方を調整すべきだ。
卵は不当に安い。誰に不当かといえば、その卵を生んでいる鶏にとって著しく不当なのだ。(しつこいようだが、業者にとって不当なわけではない。税金で補助までしているのだから・・・)
ケージフリーの運動は、この不当な扱いを是正する運動だ。もちろん鶏にとってはケージフリーになっても不当だ。殺されるのだから。だが、人が動物を利用する上での最低限の倫理適正人を果たすことくらいは、もう国際的なスタンダードになってきているのだ。いつまでも不当に安い卵を得ようというのは、日本社会の成熟度が低いことを示している。
なんでこんなにケージフリーの運動が世界で高まり、実際に消費者も生産者も国も変わってきているのか、それはあまりにも残酷だからだ。世界中の人がこれに賛同している。人として、鶏をあの残酷なバタリーケージに閉じ込めることは受け入れがたいと直感的に感じている。
腸大量生産をもうやめて、適切な飼育でほどほどの生産量に変えるときがきている。価格を上げたいというのは卵業界、養鶏業者自身もそう願っているのだから・・・。
なお、鶏卵相場の決め方に問題があるという話も聞くが、これは業界と政府でさっさと解決すればいい。そんなまともな方法があるのに鶏を殺して価格調整しようとする業界を国民はどう思うのだろうか。
アキタが働きかけていた鶏卵生産者経営安定対策事業とは。2018-2019年には鶏1941万羽を殺し国庫から32億の奨励金