コロナ禍で閉塞状況にあった国際会議が、以前のように華やかに開催されるようになりました。各国要人をもてなしたり、関係者の交流やメディアの往来が盛んになる国際イベントは、アニマルウェルフェアが進捗する大きなチャンスであることは間違いありません。
2019年に端を発したコロナ感染により、2020年開催予定だった東京オリンピックは、翌年に無観客で行われるなど、アニマルウェルフェアにとってはコロナ前に想定したとおりの飛躍を望めない結果となりました。それ以来初めて期待されるのが、今回のG7サミットです。首脳会談は5月に広島で行われるそうですが、それ以外の関係閣僚会合も、日本中さまざまな地域で開かれる予定です。これに関しアニマルライツセンターは、各ホテルや会場のアニマルウェルフェア対応状況の調査をしています。調査は継続中ですが、このたび途中経過として、判明している二つの傾向、喜ばしい傾向とそうでないものを報告します。
マリオットホテルチェーンは、『Marriott Internationalは、2025年末までに、所有、管理、フランチャイズ展開しているすべての施設について、グローバル事業全体で、すべて平飼いの鶏から卵(卵殻、液卵、卵製品)を調達するよう取り組んでいます 』と、すでに国際的なケージフリーコミットメントを出しています。今回そのマリオットホテルチェーンは、アニマルライツセンターの問い合わせに対し、国際会議が予定されている栃木県(男女共同参画・女性活躍担当大臣会合)と宮崎県(農業大臣会合)の各ホテルで、サミット期間に提供する食事についてケージフリーの卵を調達すると、お答えくださいました。これがホテルチェーン全体の日常的な調達に広がるためにはさらなる努力が必要とは思われます。マリオットホテルに関しては、他の畜産物のアニマルウェルフェアについても前向きな取り組みをしていくとのお話を伺いました。私たちもマリオットホテルの英断を応援していきたいと思います。
多くの外資系企業、とくに外資系ホテルチェーンが2025年をケージフリー移行の年限としています。日本で流通している平飼い卵が1%程度であること(再調査予定)を考慮すると、水面下ではかなり熾烈な平飼い卵の奪い合いになっていることが想像されます。2025年をすぎると平飼い卵の卸値(市販価格ではない)は上昇することが予想されるので、いまのうちに契約しておこうと各社が急ぐことはビジネスでは当然の動きと思われます。ホテルにとってはとても大変な競争ですが、動物たちにとってはホテルが買い付けを急ぐことによって、平飼い卵市場が活性化されるメリットがあります。さらにホテルはオムレツなどに液卵を使うので、パック卵にならないB級品の流通も活性化され、平飼い卵事業自体が安定化する効果もあります。
返すがえすも東京オリンピック→今回のG7という流れであれば、移行は順調であったはずです。しかし東京オリンピックの停滞があるために、今回のG7ではどうなることかと心配する向きもありました。しかし、マリオットホテルチェーンのように、ケージフリー宣言という消費者との約束をしっかり守ってくださる企業があることは、日本のアニマルウェルフェアとても心強いです。
現時点ではマリオット系列以外のホテルにおけるケージフリー、アニマルウェルフェア調達について、各ホテルの対応の確認はできていません。特筆すべきこととしては、今回の調査に関し、国内においてはまだ、ケージフリー、アニマルウェルフェアという言葉を知らないホテルがあることに驚きました。「サミット当局からアニマルウェルフェアやケージフリーに関して通達がない」、「日本人が泊まるだけだからアニマルウェルフェアはやらなくていい」「警備の人が泊まるだけだからケージフリーは関係ない」というチンプンカンプンな回答も多くありました。少なくとEUではケージフリー卵が普通の卵となってきており、少なくとも10年単位で日常的にケージフリー卵を食べている人たちが訪日する前提での安心安全基準とは何か?を、国内ホテルは考え直すべきときが来ていると思います。さらにこれはインバウンド、外国人の食事の問題でもありません。日本人だから、要人ではないから…という問題でもなく、ホテルという誰にでも非日常のおもてなしを提供するビジネスにおいては、アニマルウェルフェアは最低限の価値基準ではないでしょうか。