鶏卵大手のアキタフーズ元代表が吉川元農林水産大臣に賄賂を渡し、アニマルウェルフェアを下げるように依頼した事件の判決が両名とも確定した。もちろん両名ともに有罪となった。事件の概要などの関連する記事はこちらから。 (判決の内容については報道記事を検索してください。)
事件はこれで終わりだろうか。
この事件が明らかになる前の2018年ごろから養鶏業界と農林水産省の異常を目の当たりにしてきた私達には、これで終わっていいものとはとても思えない。
鶏卵業界は社会の持続可能性にとって重要で、SDGsのターゲット達成にも欠かせないアニマルウェルフェアをひたすら下げろと要望し、農林水産省はまるで当たり前かのようにアニマルウェルフェアを下げるための画策をしつづけた。たまたま吉川元農林水産大臣はこの時期に大臣だったに過ぎない。第三者委員会が出した「養鶏・鶏卵行政に関する検証委員会報告書」で明らかにされたように、この事件の根っこは農林水産省のアニマルウェルフェアを向上させないという意志と養鶏業界の言い分しか聞かない体質、そして透明性のなさなのだと私たちは考えている。
それが表れているのが、今年の1月からこの報告書を受けて設置されたアニマルウェルフェアに関する意見交換会と、突然プレスリリースもなく出された畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針(案)のパブコメだろう。
アニマルウェルフェアに関する意見交換会は”非公開”である。この意見交換会の内容は議事録でのみ知れるが議事概要というのはあくまで概要、しかもどの立場の人が発言したかも不明なものであまり意味はない。委員はその発言に責任を持つ必要はないため、誤った意見や誇大な発言をしたりなんならミスリードさせるための悪意のある意見を言っても問題はないしだれも指摘できない。つまり意見交換会で出された意見は国民がアニマルウェルフェアを理解したり、状況を理解する助けにはならないし、議事概要も信頼はできない。
5月23日に、報道発表もなくメルマガにも流れずに畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針(案)のパブコメが開始された。お知らせをもらったので私たちは気が付いたが、一体社会の中の誰が気がつくというのだろうか・・・
この指針はOIEの動物福祉規約を反映(採卵鶏は規約がまだないため除外)されるはずだが、サラッと見た感じでは(詳細は今後記事にする)畜産技術協会のアニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針との整合性に配慮してしまった様子だ。それならOIEの動物福祉規約を翻訳して出してくれるだけのほうが信頼性も、技術的な精度も高いのにと思わずにいられない。
この2つのことが農林水産省の中で進むアニマルウェルフェアに関することのようだが、残念ながらこの不透明で、雑な進行が目にあまり、消費者団体からは見放されつつある。
アニマルウェルフェアに関する意見交換会のメンバーでもあり、OIE連絡協議会のメンバーでもある日本消費者連盟からは、5月16日付で農林水産省に公開質問状が出された。
【質問状】「アニマルウェルフェアに関する意見交換会」に関する公開質問状
市民団体は透明性のない行政や企業を信頼できないものとして考える。私達も同じであるし、一般市民も同じだろう。せっかく参加してくれる各業界を代表した方々も疑わしく見られるため、気の毒だ。しかも、アニマルウェルフェアのトピックスは冒頭の事件から派生したものであり、農林水産省の汚名を挽回するべき舞台だったのに・・・
アニマルライツセンターは動物保護団体なので、守るべき優先順位の一番高いところに動物たちが来る。そのため、心配する立場にはないかもしれないが、アニマルウェルフェアを高めていかなければ日本の食品を扱う企業、とくに上場するような大手企業の将来性は暗くなっていく可能性が高い。アニマルウェルフェアを向上させれば企業や国の価値になるが、向上させることに後ろ向きで現状維持を誇示し続ければアニマルウェルフェアはリスクになる。
そんなに難しい話ではないはずだ。
日本へのイメージが下がり、企業は海外からの信頼を失い、それは国内外の投資を失っていくことにつながる。
企業だけではなく、日本で生活するすべての人も同じだ。アニマルウェルフェアが低い地域で薬剤耐性菌の被害は拡大すると見込まれるのだ。また過密な飼育があれば新たな人獣共通感染症の発生にもつながる。実際に日本の鶏肉は他国よりも高い割合で薬剤耐性菌が検出されるようになってしまっているのだ。近い未来に、私たちは動物たちへの配慮を怠ったことを後悔する時が来るのだろう。それは自分たちの次の世代、その次の世代が苦しむ姿を見てはじめて気がつくのかもしれない。
日本型のアニマルウェルフェアだとごまかしの誤ったアニマルウェルフェアの知識をどんなに拡散しても、徐々に市民も機関投資家も正しい知識を得ることになり、見極めることができるようになるだろう。
だからこそ、エビデンスにもとづき、嘘を言わず、遅れを認め、努力をしなくてはならないのだ。
企業や市民は、自分の頭で考えなくてはならない。本当に現状維持のままでいいのかを。