2021年6月3日、農林水産省から、アキタフーズ元代表者の贈収賄事件に関係した以下の報告書が出された。
「養鶏・鶏卵行政に関する検証委員会報告書」及び「追加の倫理調査の結果について」の公表について
報道機関は出された結論「鶏卵贈収賄「政策ゆがめず」」などと報じているが、報告書を読むと農水省の政策がいかにもともと歪んでいたのかがわかる内容だ。農林水産委員会でも質疑が行われたが、その中ではすべて回答は曖昧、調査も不十分であることが指摘されたが、それでもなお、「政策は歪められていない」と繰り返す。そりゃそうだ、もとから歪んでいたのであって、吉川元大臣が歪めたわけではないのだ・・・。このほうがよっぽど重症で、改善のしようもない。この報告書は、利害関係者との「ずぶずぶの関係」が変わらないということを示している。
汚いなぁ、としか市民からは言いようがない。
アキタフーズ元代表が鶏の苦しみを無視して、OIEのアニマルウェルフェア基準を引き下げようと画策した事件に関する報告、ポイントは以下の通りだった。
OIEでの検討が始まって以降、アキタフーズ元代表は1~2ヶ月1度、2~3時間づつ、農林水産省の部長を拘束し続けたとされている。国を動かすというお仕事中に、何やってるんですかね・・・農水省、さっさと切り上げなさいよ。としか呆れて言えない。農水省職員は接待も受けたようだが、逆に接待もしていたようだ。要するに、仲が良かったということか。
大臣に相談するまでもなく、OIE連絡協議会で有識者たちの意見を聞くまでもなく、もう最初から方針は官僚が決めている。
OIEからとまり木や巣箱が必須とされた2次案が提示された時点で、「伏見畜産振興課長と担当者が打合せをして、我が国として反対意見を出すべきという方針を固めていたことが確認されている。この方針を踏まえ、畜産振興課は、コメント提出に必要となる論文等の科学的知見の収集を始めた」というのである。
アニマルウェルフェアを担当する畜産振興課が、アニマルウェルフェアを引き下げるための画策をはじめた瞬間である。
ちなみにこの決定時、吉川元大臣はまだ大臣になっていない。
平成30年11月21日、堀越議員がアニマルウェルフェアについて農林水産委員会で質問をした日である。
答弁の内容を説明に来た官僚たちに対して、吉川元大臣はこう述べたという
自分のところに言ってくる生産者はアニマルウェルフェアについて理解していない、アニマルウェルフェアについては内部で議論しないといけない、大臣になる前と今は違うということを理解しておいてもらいたい
あれ?吉川さん、ちゃんと勉強してくれたんですね。そう、そしてまともに頭が働く人であれば世界基準のアニマルウェルフェアがエビデンスに基づいていて、動物だけでなく生産者にとっても人々の健康にとっても必要であることがわかるものなのだ。
堀越議員の訴えを聞いた後に、生産者に厳しい内容のことも言っていたことが伺える。
𠮷川大臣は、この日の衆議院農林水産委員会において、堀越啓仁議員からアニマルウェルフェアについて問われ、生産者の理解を得ながら、アニマルウェルフェアを推進していく旨答弁した。
また、𠮷川大臣からは、この国会質疑において、質疑者から食鳥処理場に運び込まれた鶏が長時間放置されている事例があるとの話を聞いていたため、同日夕方に別件で説明に入った熊谷動物衛生課長に対し、そのような話が事実であれば議論をするのはやめるか、生産者の理解を得ながらというスタンスではなく日本もやれることをやっていくべきではないかとの旨の発言があった。
上記発言をする9日前に「𠮷川大臣から、この場で、関係団体と相談しながら OIE に意見を提出 する、大きな課題なので良く連携をとって対応したい旨の発言があった」が、堀越議員の発言を聞いて思いを変えようとした吉川大臣の言葉は、農水省の官僚たちの動きによってかき消されたようだ。
それもそのはず、生産者の声は農水省の主張にとって都合が良かったのだ!世界のアニマルウェルフェアが上がってしまうことに反対したい農水省は、吉川元大臣から公正な意見がだされることは困ったことだったのだろう。
農水省の畜産振興課(AW担当)と動物衛生課(OIE担当)は、「日本養鶏協会副会長秋田正吾氏(秋田元代表の子息)を含む養鶏関係者等」との話し合いを行い、その場でこのように指示している。
OIE へは科学的根拠を示して意見を提出する必要があり、他国でやっていることを否定することは難しいことから、日本でやっていることを肯定する方針で整理すべき
こういう行為は、結論ありき、出来レース、イカサマと呼ばれる。日本の遅れた畜産方法(ケージ飼育)を正当化したいために、農研機構にも依頼をして、後付の科学的根拠を探し回った。
そのままの流れで、秋田正吾氏(アキタフーズ元代表の子息)と養鶏業者2名が、OIE連絡協議会の臨時メンバーになった。この就任の流れが曖昧であったと第三者委員会から指摘されている部分である。まさに、「日本でやっていることを肯定する」ために入れたのだと容易に推測できる流れである。
吉川元大臣は、これらの生産者がアニマルウェルフェアを理解していないと述べていたことを考えると、推薦したとは考えにくい。農水省自身が、自分たちの反対の主張を擁護するために生産者や養鶏コンサルをする業者の意見が欲しかったと思うのが自然だ。
その後、出来レースのOIE連絡協議会が開かれ、予定通り反対意見を述べる臨時メンバーたち。
ただ、秋田正吾氏(アキタフーズ元代表の子息)は明らかにアニマルウェルフェアを理解しておらず、「鶏は育種改変でとまり木に止まらない」などの迷言を残した人物であるし、その他の養鶏関係者も日本の始まったばかりの大規模平飼い養鶏場を見て2次案に反対するなど、経験不足と知識不足がいなめなかった。それでも、決まった結論に向かって体裁を整えて見せるのには十分。アニマルウェルフェアをもっと推進すべきだとする意見もあったにもかかわらず、その後、日本コメントは農水省が計画した2次案に反対する内容のみが書かれた。
西川元内閣官房参与はアキタフーズの顧問でもあるが、アキタフーズ元代表とともに再び吉川元大臣の元を訪れ、どんどんと主張を広げ特に西川氏は強く主張をしている。その主張を聞いているのは農水省職員たちである。この頃には吉川元大臣の公正さはすっかり消え失せたようだ。
コメントをOIEに提出する前に、ご丁寧にそして特別に日本養鶏協会にも送付しているが、この点も解せない。
このコメントを出した後、2019年6月、日本はOIEに再び念押しのコメントを出しているが、この点について、報告書は全く触れていない。いらぬタイミングでこれまでにない対応であるが、この点が抜けているのは調査が不完全であることを示している。
このような事が書かれ、政策を歪めなかったと結論づけた報告書。しかし、吉川元大臣ではなく、農水省への不信感が高まる内容であった。
ここでアキタフーズと仲良くして意見を取り入れ、または出来レースを仕込んだ農水省幹部は、今ではもっと上の地位について、権力を強めた。現場も変わってはいない。
衆議院農水委員会で串田誠一議員は、必要なことは、「将来的に長い時間をかけて対応するならともかく、今これ(とまり木や巣箱の設置が義務化とされた2次案)が国際基準になってしまうと日本で 9 割以上を占めているケージ飼いの方法が困難とな」るからと、反対していくことではなく、長い時間をかけながらもちゃんと日本の畜産の将来性を考えて、支援をしながらアニマルウェルフェアの対応をしていく必要があるのではないか、と野上農林水産大臣に問いかけた。しかし野上大臣はこの期に及んでも、「バタリーケージは苦痛や疾病からの自由がある」「エンリッチドケージや多段式平飼いは恐怖苦悩からの自由ですとか苦痛や疾病からの自由がない」などという偏った認識を披露した。
(※エンリッチドケージは全く推奨しておらず世界はケージ飼育を辞める方向であることもあえて無視しているようだ)
その上で、「農林水産省としてもアニマルウェルフェアの一層の普及を進めていくと、これは極めて重要だと考えています。家畜が少しでも望ましい形で飼育されるようにですね、専門家のご意見も伺いつつ、どのような技術的な対応が可能なのかも含めて、更に検討を進めてまいりたい。」とのことであるが、農水省の考えるアニマルウェルフェアは、世界スタンダードの、科学的なアニマルウェルフェアではないことを考えると、末恐ろしいじゃないか・・・。
バタリーケージは他の飼育方法と比較して、明らかに死亡率が高く、これ以上の改善の見込みがなく、一方で平飼いはバタリーケージより死亡率が低く、さらに農家が経験を積むほど改善していくことがわかっている。
平飼いはたしかに完璧ではない。放牧の飼育のほうがより良いことも明確だ。しかし、世界中の消費者はケージ飼育のあまりの悲惨さに、見て見ぬ振りができなくなっている。ケージに入れられた動物たちの姿は、人が行っていい範疇を超えた残酷な虐待だと、成熟した社会に向かうにつれ、市民の認識が変容したのだ。
日本だけが、残酷な飼育を続け、理解を得ようというのには無理がある。政府は金儲けをしているわけではないので気にならないだろうが、グローバル企業、上場企業、消費者のニーズに直面する飲食店やホテルなどは気にしないわけにはいかないのだ。
そして、これらの企業と話し合いをして、世界スタンダードのアニマルウェルフェアに進むことが嫌だという企業はないのだ。アニマルウェルフェアは必要で、そしてとても重要で、良い考え方であることを、誰もが認めることができている。
なぜ農水省はそうじゃないのか、それはケージ飼育の生産者の立場だけで物事を捉えているからだろう。だが、串田議員が言う通り、またこの日質問した野党議員が言う通り、生産者の将来のためにも、アニマルウェルフェアを推進し、動物が本来の行動ができず、動きが取れず、羽ばたきもできないような飼育を継続させず、より進んだ技術をいち早く取り入れていくことが必要なのだ。
この調査の目的はもはやどうでもいいことであるが、いずれにしても不十分で結論はその過程を反映していない。過程こそ重要であり、結論だけしか読まない人は重要なことを見逃すことになる。
なお、この記事ではOIEのアニマルウェルフェア基準についてのみを抜き出している。農水省がいかに業界と仲良しで日々一緒に御飯を食べているのか、アキタフーズのようにぐいぐいくる業者は農水省職員が紹介してくれるから補助金を受けられること、などとっても刺激的で面白い内容が書かれているので、ぜひご一読を。