世界には多くの問題があり、その問題を解決する為に様々な方法があるが、資金は限られている。
効果的利他主義とは、限られた資金のあらゆる使い道を公平に考慮し、どの使い道が一番良い結果を生み出すのかを見出そうと試みるものだ1。
どの分野に資金を費やすか優先順位を付けるために、効果的利他主義は次の「INT」という基準を採用する。
Importance(重要性): (知覚力のある生き物)何人が、どれだけの影響を受けているのか?
例えば日本では、豚は900万頭、肉牛は170万頭、乳牛は77万頭飼養されているのに対して、採卵鶏は1億8千万羽余り、肉養鶏も1億4千万羽近く飼養されている2,3。
この数多い鶏を、例えば檻の中に閉じ込めておくなど、動物から基本的な必要条件を奪うことは計り知れない苦痛を引き起こすと想像できるだろう。工場畜産においての動物の苦しみの度合を推測する研究はいくつかある4,5。
Neglectedness(どれだけ無視されているか): 問題解決に今のところどの程度の資金が注がれているか?
工場畜産での苦しみの規模は計り知れないのにも関わらず、それを減らすための資金は比較的少ない。動物の慈善団体を評価する Animal Charity Evaluators によると、米国で利用され殺される動物の99.6%は家畜動物であるが、動物のための寄付のほんの0.8%しか家畜動物に取り組む慈善団体に与えられていない6。
利用され殺される動物の数 動物慈善団体への寄付金
■家畜 ■実験動物 ■衣類 ■パートナー動物 ■その他
Tractability(取り組み易さ):問題の解決を進めるのはどれだけ容易か?
ケージフリー運動などは海外で既に企業キャンペーンやロビー活動などで成功が見られ、効果を出せる方法がいくつかある。
地球上には61億羽~76億羽の採卵鶏がいる7。人間の数と同じくらいだ。
日本では約1億8千万羽以上の採卵鶏が飼育されており、卵を産む成鶏の99%以上がバタリーケージに閉じ込められていると推測されている8。
バタリーケージの中での一生は極端に劣悪であろう。雌鶏たちは狭い場所に閉じ込められ、針金の上で過ごし、身動きが取れず、土をつついたり砂浴びをしたり仲間と交流するなどの自然な行動を取れない9。日本の畜産技術協会の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した 採卵鶏の飼養管理指針」では1羽当たりの飼養面積は 430~555 cm2とすることが推奨されているが、これは一番良くてもわずか 21㎝~23㎝ 平方の面積に一生閉じ込められるということだ10。
バタリーケージ内での採卵鶏の福祉を推測する研究がなされてきた。
畜産動物の 福祉指数 (-10 ~ +10) | Nor wood 2011 | Shi elds | War ren 2018 | Noro witz | Savoie et al 201811 (人間+3.2~8.1) | Tomasik 2018 苦しみの倍率 |
肉牛 | +6 | +2 | +6 | +6 | -2.0 | ×1 |
乳牛 | +4 | 0 | 0 | -4 | -3.4 | ×2 |
平飼い採卵鶏 | +2 | -7 | -7 | |||
養殖の魚 | -7 | -5 | -7 | -4.4 | ×1.5 | |
肉豚 | -2 | -5 | -5 | -10 | ×2.5 | |
七面鳥 | -8 | -6 | -11 | -5.7 | ×3 | |
肉用鶏のブロイラー | +3 | -8 | -6 | -13 | -5.6 | ×3 |
バタリーケージ 採卵鶏 | -8 | -7 | -8 | -25 | -5.7 (エンリッチド-4.6) | ×4 |
マイナスの値は、生きていない方がましだということだ。
動物の状況を改善するための手段の中には、動物の利用は不当であり、完全に放棄されるべきであるという廃止論の主義がある。
個人としては廃止論の立場をとること(つまりヴィーガンになること)ができるが、この立場を社会としてとること(つまり動物利用を完全に禁止すること)は現状を考えると非常に難しい。
一方、動物福祉の改善や畜産物の使用量を段々減らするなど漸進主義的な手段は社会レベルでも適用できる(個人的にもフレクシタリアンとして容易である)。漸進主義は、道徳的には完全に正当化されないということを認めなければならないが、成功の可能性が高いということは、結果がはるかに良くなる可能性がある。
The Humane League(THL)をはじめとする動物福祉団体は企業に対して、ある期限までに全ての卵をケージ飼育されていない採卵鶏から調達することを約束するよう求める運動を行っている。
このようなキャンペーンは歴史的に非常に成功しており、下のグラフは、米国内(青)および国際的(赤)にケージフリーへの移行を約束した企業の数を示す14。
THLは欧米の企業がケージフリーを約束する大きな原動力となっており、現在 Animal Charity Evaluators によって最も効果の高い慈善団体として推奨されている。
ケージフリー宣言によって影響を受けた動物の数について、効果的利他主義に基づいた研究団体 Rethink Priorities は大雑把だが主観的に90%確信できる数値を出している15:
Open Philanthropy Project(OPP)は、米国の卵生産者がバタリーケージから移行した場合、ほとんどが屋内の多層エイビアリーシステムに切り替えると予測している。バタリーケージとエイビアリーシステムの福祉の違いを調査した結果、OPPは次の理由から採卵鶏にとってエイビアリーシステムの方が好ましいと予想している16。
この質問に関連して、効果的利他主義フォーラムには、2つの読むべき記事がある。
Rethink Priorities の記事は、企業キャンペーン(及びそれを支援する活動)に費やされた資金は、1ドル(約100円)あたり9羽~120羽の採卵鶏の生涯に影響を与えると言えると提示している。
もう一つはTHLとアゲインストマラリア基金(AMF)を比べた記事だ。AMFは最も効率的だと評価されている慈善団体の一つだ17。
人間の福祉と他の動物の福祉に取り組んでいる団体の効率を比較するのは難しく、大きな不確定性を伴うことを認識する必要があるが、この記事の結論は:
このモデルでは、最も妥当なシナリオのほとんどで、THLはAMFよりも優れているように見える。金銭的な効率の違いは大抵10倍から100倍以内である。
効果的利他主義を基に慈善団体を評価する Animal Charity Evaluators は、THLは収穫逓減に達する前に2021年には66万ドル(6900万円、2020年11月時点)追加する余地があると推定しており、資金が追加されれば日本のチームを拡大するのに使われると考えている18。
これは日本でのケージフリー運動がいかに重要なものなのかを示している。
企業への働きかけの為の追加資金は、より多くのケージフリー宣言を確保し、約束が確実に実行されるようにするのに役立つ。
資金だけではない。このケージフリー運動にボランティアとして、或いは一消費者として声を上げ支援することも動物たちの苦しみを減らすのに最も効果的な行動と言える。
この記事は Effective Altruism Japan の Luis Costigan 氏の協力により書かれた投稿をもとにまとめました。