2018年に登録された「End the Cage Age(ケージ時代を終わらせよう)」というEUの市民イニシアチブ、EU議会では圧倒的多数で可決され、ケージを禁止する立法案を作成するようEU委員会は要請されていた。そして2021年6月30日、EU委員会は畜産動物のケージを最終的に禁止するための立法案を提示することを決定した1。
3億頭以上の畜産動物がケージに拘束されているEUで、これは歴史的な発表だ。
European Citizens’ Initiative (ECI) とは、EUが権限を持つ政策分野について、加盟国7ヵ国以上から計100万人以上の署名を集めれば、EU委員会に立法を提案できる参加型民主主義の制度だ。この仕組みの中で国際動物保護団体 Compassion in World Farming (CIWF) が率先し発足したものが「End the Cage Age」というイニチアチブだ。18ヵ国からの1,397,113人が署名し、170以上のNGOが支えているこの提案2、内容は次の通りだ:
何億ものEUの畜産動物が生涯のほとんどの間ケージに入れられており、大きな苦痛を引き起こしています。 私たちは、EU委員会に畜産動物のこの非人道的な扱いをやめるよう呼びかけます。
ケージは毎年膨大な数の畜産動物に苦しみを与えています。より福祉の高いケージフリーシステムが実行可能であるため、これらは残酷で不必要です。
したがって、以下の使用を禁止する法律を提案するよう委員会に求めます:
ECI “End the Cage Age”
・採卵鶏、兎、若雌鶏、ブロイラー繁殖用鶏、採卵鶏繁殖用鶏、うずら、あひる、がちょうのケージ
・雌豚の分娩ストール
・妊娠ストール(まだ禁止されていない場合)
・子牛の個別の檻(まだ禁止されていない場合)
この提案は市民がより倫理的で持続可能な農業システムへの移行を求めていることを反映している。これに対し、EU委員会は、上記のすべての動物にケージを使用することを段階的に廃止し、最終的に禁止するという立法案を2023年末までに提出することを約束した。
EU委員会は、このような対策の社会経済的および環境への影響を2022年末までに判断する予定で、そのためにも2022年初頭までには一般の意見を求める期間を開始する予定だ。
これと並行して、立法案作成のためにEU委員会は既に European Food Safety Authority(EFSA、欧州食品安全機関)に科学的意見を求めており、これらは2022年から2023年初頭にかけて発表される予定だ。
この「End the Cage Age」の提案には特に期限は特定されていなかったのにも関わらず、EU委員会は2027年からこのケージ廃止法に拘束力を持たせることが実現可能か検討する意思を表明した。
EUにおけるケージに関する歴史と今後の計画をまとめてみた3:
現時点でも既に多くのEU諸国がケージ禁止法を持っている3:
EU委員会は、「”End the Cage Age” イニシアチブは、特定された畜産動物種のケージを禁止する必要性について、科学的証拠に裏付けられた社会的懸念を反映している」と結論付けた。
更に、過去20年に渡りEFSA(欧州食品安全機関)から科学的見解を受けてきたEU委員会は次のように述べている:
動物福祉の向上は倫理的な問題であるだけでなく、動物の健康を改善し投薬の必要性を減らし、抗菌剤耐性微生物の発生を遅らせ、食品の品質を向上させる。 更に、例えば採卵鶏のストレスを減らすと、群れのサルモネラ菌の蔓延が減る。人間の福祉と動物の福祉は密接に関連している。
European Commission on “End the Cage Age”
EU委員会は、畜産動物は主に経済的な理由からケージ飼育されていると断言している。ケージの廃止に伴う社会経済的な懸念を認識し、次のように述べている:
より高い動物福祉基準を備えた農業システムへの切り替えは、多くの場合、社会における農家の評判を向上させ、彼らの仕事への確信を高める。EUの高い動物福祉基準は、その農産物の良い評判にも貢献しており、その高い需要の理由の一つでもあるため、農家により高い収入を保証する。現在の農業システムの改新は、食料システムが頼る資源を保護するのにも役立ち、それにより生物多様性の喪失が減少する。
European Commission on “End the Cage Age”
実際に農場のケージからの移行を支援するために、EUの Common Agricultural Policy (共通農業政策) というのが用いられる。その一環として、義務的な要件以上に動物福祉環境を改善する場合に農家に補償する助成金がある。この動物福祉対策のために2014~2022年の期間に31億ユーロ(約4兆円)の予算が設けられており、農村開発の総公的支出の1.9%以上に相当する4。
EUに輸入される農産物に関しても、他国での動物福祉の改善に貢献することができることを考慮に入れている。卵の生産方法がEUの基準を満たしているか確認できない場合は「EU基準に準拠していない農法」と表示されなくてはいけない。食肉に関しては、輸出国の屠殺要件(スタニングなど)が少なくともEUの基準と同等でないと輸入できないことになっている。4
EUでは市民の提案により、今後何億頭もの動物たちがケージに閉じ込められる運命から逃れる結果が実現されようとしている。タイムラインやルール、輸入の規制方法、そしてEU加盟国の批准など、まだ課題はあるが、歴史的な進展だ。
ずっと昔から畜産を行っているヨーロッパ、何十年もの間様々な科学的研究結果を基に議論を重ねてきた末出たこのケージ廃止の結論、日本の企業や農林水産省はそれでもケージの方が良いと言い張るのだろうか。単に自分勝手な経済的視点以外での話だ。
このキャンペーンページにはEU加盟国ごとのケージフリーの割合が掲載されている(従来ケージ飼育が主流な採卵鶏、母豚、兎、あひる、がちょうのみの割合)。
一方で日本では鶏舎の数でのケージフリーの割合のデータはあるものの、動物の数では公式なデータがわからない。アニマルライツセンターの試算では採卵鶏1億8千万羽と母豚85万頭の内、99%以上がケージ飼育のままだ。この数字はEU最下位のマルタと同じだが、マルタは飼育数が40万頭程度と比べものにならないほど少ない。
EUでは2027年ごろケージは廃止される見込みがあるが、日本はいつになるのだろう。
ECIのような参加型民主主義の制度がなくても、一人ひとりが毎回どのような消費行動を選択するかによって、動物たちのケージでの拘束が継続するのか、しないのかが決まる。
1. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_21_3297
2. https://www.endthecageage.eu/
3. https://europa.eu/citizens-initiative/sites/default/files/2021-06/1_EN_ACT_part1_v7.pdf
4. https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/qanda_21_3298
カバー写真:https://www.flickr.com/photos/djurensratt/48866589906/