Eggs Exposed: Australian Hatcheries from Farm Transparency Project on Vimeo.
採卵用の鶏で、オスの場合、孵化するとすぐに殺処分されます。
この問題については国内のメディアでもたびたび取り上げられることがあり、すでに知っている人も多いかと思います。
「卵を産まないオスを産まれてすぐに殺処分する」
畜産が動物搾取で成り立っている典型的な例と言えます。SNSを見ていると、この残虐な行為に対して、卵を食べる食べないにかかわらず多くの人が嫌悪感を抱いていることがわかります。
諸外国ではオス処分は前から問題になっており、国や業界ぐるみでの取り組みが進んでいます。
2018年、カナダ政府は非侵襲的な技術で卵が産まれる前に胚の鑑別をする技術(Hypereye)に、$840,000の資金提供をすると発表。
2016年、アメリカでは鶏卵生産者団体(UEP)が、2020年までにオスの雛の殺処分撤廃を目標にすると発表(アメリカの卵の95%がUEPにより生産されたもの)。この目標は達成されなかったが、UEPは2020年1月、オスの殺処分に関する声明を次のように更新。
“2016年、UEPの理事会は、産卵業界において、孵化後の1日齢のオスの雛の淘汰を排除するよう求めました。それ以来、私たちのメンバーは、孵化場でのオスの雛の淘汰を終わらせるための方法の研究と新技術の採用を支持し、強く提唱してきました。これは優先事項であり、正しいことです。”
“UEPはまた、卵技術賞を推進するために食品農業研究財団(FFAR)と協力しました。この賞は、孵化する前に卵の性別を正確かつ迅速に判断できる技術を開発する研究者に最大600万ドルを提供します。”
“私たちは、ブレークスルーが間近に迫っていることを期待しています。今後もステークホルダーとの関わりとこの目標への積極的な支援を続けていきます。”
2015年、当時の食料・農業大臣クリスチャン・シュミットは産まれてすぐにのオスを殺処分という”大虐殺”に歯止めをかけたいと考え、100万ユーロを用意し、卵段階での性別検査の研究などに資金を投じた。2018年、ドイツではオスの殺処分を伴わない卵がスーパーで販売されるようになった。
2020年1月、フランス政府は、2021年末までにオスの殺処分を廃止すると発表。世界で初めてオスの殺処分禁止を決定した国となった。同年9月、フランス最大手スーパーのカルフールが、オスの殺処分を伴わない卵の販売を開始。
2020年1月、フランスとドイツの農業大臣は、2021年末までに、EUレベルでオス殺処分を禁止するように求めた
EU
2020年、雄の殺処分の廃止方法を開発するIn Ovoに€250万(約3億円)を提供。
(上記は一部です。産まれてすぐの雛を殺処分する問題について、詳細はコチラをご覧ください)
産まれてすぐのオスを殺す。それも数千万数億という単位で。この残酷な行為を無くしていこうという世界の潮流があります。しかし日本は残念ながら議論すら始まっていないという状況です。それだけではなく、シュレッダーよりもさらに苦しみが長びき痛みが大きい圧死・窒息死という方法が公然と行われている状況です。おそらく他の国が日本のこの状況を知れば仰天するでしょう。
産まれてすぐの雛を殺処分する問題の、詳細はコチラをご覧ください。ここでは、孵化前に卵内で鑑別する技術の開発・実用化状況についてまとめたものを掲載します。
はじめに重要なことですが、卵内選別=オスの雛の苦痛ゼロ、というわけではありません。孵化前の卵の段階でも痛みを感じる能力があるからです。鶏の卵の孵化場では21日かけて卵を孵化させますが、鶏の卵は産卵後7日目に痛みを感じる能力が発達し始め、13日目に、神経管は機能的な脳に発達し、孵化の数日前には完全な意識を持っています。
7日目から13日目までの間は、実際に胚がどの程度痛みを経験するかはまだ明らかになっていません。米国獣医協会のガイドライン(AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals: 2020 Edition*)のように、80%を超える孵卵を達成(産卵後16.8日目)した卵は、持続するEEG活動を示し、知覚の可能性を示唆する、としているものもあります。しかしそれは、それ以前に痛みを感じる能力がないことを証明できるものではありません。
少なくとも7日までに卵内選別を行いオスの卵を除去するのであれば苦しみが伴う可能性はほとんどないでしょう。しかし現在実用化されている技術の中に、7日以内での選別を可能とするものはありません。
卵内鑑別技術の開発・実用化状況
*すべてを掲載していません
卵内選別技術 | 方法 | 産卵後、何日目に選別するか | 卵内選別技術を使用した卵の販売状況 | 備考 | |
カルフール(フランス)*1 AAT社 | 分光法(卵に光を当てて選別)
| ドイツATT社の開発した「ハイパースペクトル測定技術」 卵に穴をあけず、下から光をあてて選別。 *この技術は孵化したメスが茶色の羽、オスが黄色い羽を持つ「茶色の卵」でなければ使用できない。 *AAT社はこの技術を下記の「ラマン分光法」が確立するまでの過渡的な技術だとしている in ovo Bestimmung des Geschlechts im Ei. AAT CARREFOUR FRANCE STARTS IN OVO SEXING TRIAL
| 13日目 胚が痛みを感じている可能性のある日数。 | 2020年9月現在、カルフールフランスが販売開始。来年の春までに、すべてのカルフールのブランドである「カルフールクオリティライン」の卵(年間4000万個以上の卵)に使用されるという カルフールクオリティラインの卵6個入りの箱の場合、消費者側でのコスト増加は10%未満と見積もられている。(1箱あたり1.89ユーロ) | 1時間あたり20,000個以上の卵を選別 選別は、ブルターニュのルデアックにあるハイライン孵化場で行われる。
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AAT社 | ラマン分光法 卵にレーザーで穴をあけ、そこから光を当てて雌雄を選別。メスの場合は、選別後卵の殻を閉じて孵化器へ。 | 4日目 | まだ試験段階で、市場に出る日は未定。 |
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Hypereye(カナダ)*5 | 卵に穴をあけず、卵のスペクトル画像シグネチャの組み合わせを数学的分析にかけて、選別する。(オスメス選別だけでなく孵化する卵か否かも選別できる) | 産卵した日 | 不明 | 商業孵化場規模で完全に機能するようになると、1時間あたり約5万個の卵の選別ができる。 | |
Respeggt(ドイツ)*2 | バイオメーカーの検出
| ドイツSeleggt社の技術 卵の殻に小さな穴を開け、受精卵から少量の尿酸膜を抽出→この尿酸膜に性別を特定するホルモンであるエストロン硫酸が含まれているかどうかを専用マーカーで検査。エストロン硫酸が検出されれば、メスと判断されて2孵卵器。 | 9日目 胚が痛みを感じている可能性のある日数。 | 2018年11月、ベルリンのスーパーで販売開始(製品名「Respeggt」)。 07 April 2020 No-kill eggs: REWE Group planning to increase its offering fivefold オランダのジャンボスーパーマーケットや、フランスのカルフールなど、EUの他の国でも購入できる。 https://avicultura.info/en/jumbo-supermarket-selling-respeggt-eggs/ 卵一つあたり2セントの追加料金 Adapting UK egg production | 1時間に最大3000個の卵を選別。 Ethical eggs could save male chicks from mass slaughter By Gretchen Vogel Aug. 14, 2019 オスの卵は動物の餌となる。「オランダ食品消費者製品安全局」(NVWA)によって動物飼料での加工が正式に承認された。 |
IN OVO(オランダ)*3 | Respeggtと同じく、卵から少量のサンプルを抽出し、オスメスを選別する。 Millions invested in Leiden method of determining sex of chicks before hatching IN OVO | 9日目 胚が痛みを感じている可能性のある日数。 | 2020年に市販される予定 Millions invested in Leiden method of determining sex of chicks before hatching IN OVO | 大規模な孵化場で必要とされる、1分あたり数千個の卵を選別するハイスループットと低コストの要件を満たすプロセスを開発中。現在卵1つあたり1秒かかる選別を数マイクロ秒にしようとしている。 | |
eggXYt(イスラエル)*4 | 親の雌鶏の遺伝子編集
| 親の雌鶏を遺伝子編集して、産まれたオスの胚にマーカーが発現するようにする→蛍光スキャナーで胚を選別 This Biotech Uses Gene Editing to Count Chickens Before They Hatch JONATHAN SMITH- 24/05/2019 | 産卵した日 | 2022年までに商品化される予定 | *産まれた雌鶏もそのメス鶏から産まれる卵も遺伝子編集されていないが、プロセスの過程に遺伝子編集がある |
上記以外にも、Ovabriteや、卵の高速スキャンとAIテクノロジーを組み合わせてひよこを性別するドイツのスタートアップOrbemや、マイクロチップを使用して放出されたガスを特定することでひよこを性別するカリフォルニアを拠点とするSensIT Ventures Inc などもある*6。
*1カルフール(フランス)と、Les Fermiers de Loué(フランス)、ATT(ドイツ:EWグループ。EWグループには家禽育種のハイライン社などがある)、3社のパートナーシップによるもの
カルフールプレスリリース
・2020年2月10日、カルフールフランスは、LesFermiersdeLouéおよびAATグループとのパートナーシップによる、分光光度法の卵内性別技術の試験を発表
Carrefour – the first retailer to introduce a method for avoiding male chicks to be killed February 11, 2020
・2020年9月4日卵内選別技術を用いた卵の販売を発表
CARREFOUR & LOUÉ ARE INNOVATING WHEN IT COMES TO ANIMAL WELFARE IN THE EGG SECTOR September 14th 2020
*2Respeggt(ドイツ)は、ドイツの協同組合REWE Groupとドイツ政府のパートナーシップを通じて設立され、ドイツ政府は500万ユーロの資金を提供した。
*32013年、ライデン大学からのスピンオフで設立
Millions invested in Leiden method of determining sex of chicks before hatching IN OVO
*4eggXYt(イスラエル)のプロジェクトは、EUの Horizon 2020 research and innovation programmeから資金提供を受けている。
https://www.eggxyt.com/
*5Hypereye(カナダ)は、カナダ オンタリオ州のエッグファーマーズ(卵農家から資金提供を受けた農業組織)が資金を提供。 2018年にはカナダ政府が$840,000の資金提供をすると発表した。
Farms.com Technology helps separate chicks by sex Jul 03, 2018
*6 NEWS & FEATURES PRINT The Egg Industry Grapples With a Grim Practice: Chick Culling
現在実用化されている二つの技術は、大規模孵化場で処理される1時間に5万個のスケールには及びません。これが理由で導入をためらう企業は多いと思いますが、おそらくこの問題はそのうち解決されるのではないかと思います。卵内選別技術自体が一つの市場になり、研究施設がしのぎを削っているからです。鶏の残酷な品種改良を行う企EWグループ自ら開発をおこなっているほどです。畜産業におけるアニマルウェルフェアと言うのがもはや一つの市場になっていることに憤りを感じますが、それでもこの残酷な所業に終止符が打たれるのであれば良しとしなければならないでしょう。
しかし卵内選別であればもろ手を挙げて喜ぶわけにはいきません。少なくとも次の三つを監視しなければなりません。
卵内選別のためにeggXYtのように遺伝子編集を行っている研究施設があります。遺伝子編集で産まれた動物が何らかの障害を抱えていたり、苦痛を味わうことは、よく知られています。
現在販売されているカルフールの卵もRespeggtも、7日以上で選別されており痛みを排除できているわけではありません。
孵化前にオスと選別されて不要になった卵がその後どうなるのか、Respeggtは動物用飼料になることを明らかにしていますが、カルフールの卵のほうは情報が見つけられませんでした。今後この技術を導入する会社がどうするのかもわかりません。
不要となったオス卵は、動物用飼料生産者、化粧品産業、ワクチン製造業者の原料に販売されることが想定されいるようですが、これらの分野でオスの卵がどのような方法で殺処分されるのかは不明です。
また、例えばインフルエンザワクチンを作る際に受精卵が使用されていますが、その分野で流用されることになれば、それがオスの苦しみを減らすことにつながるとはいえません。インフルエンザワクチンを作るときは、孵化11日目の卵にウィルスが投与され、そのあと2、3日温めてウィルスを増殖させ、12時間ほど冷却させたのちに割卵して中の液体を取り出してワクチンを作ります。オスメス卵内選別時よりも日数がたってからオスは殺されることになり、痛みを感じるリスクは高くなります。
プリンストン大学の動物の権利擁護者で生命倫理学の教授であるピーター・シンガーは、食物やワクチンの開発に雄の卵を使用するなど、害を及ぼす可能性のある手順は、残酷な慣行を初期段階に移しているだけかもしれないと述べています*6。
孵化したオスの雛の殺害を、ただたんに卵の中の命の苦痛に切り替えても意味はありません。目の前から覆い隠されたことでむしろ状況が悪くなったとも言えます。このさき遠い将来、日本国内でも卵内選別の議論がはじまるかもしれません。その時に卵内選別なら何でもよいというのではなく、きちんとその内容を注視する必要があります。
しかしそんな面倒なことをしなくても、私たちには卵を食べないという安易な選択をすることができます。卵は体に必須の食材ではないだけでなく、健康を害する一面もあります。お弁当の彩に欠かせないという人もいるかもしれません。しかし「黄色」は、卵以外の様々な食材で彩ることができます。そして最も重要なことですが、卵産業がなくなれば、この先永久に鶏の苦しみを放棄できます。