2022年8月、イタリア政府は、生後1日目のオスヒヨコを殺すことを2026年から禁止すると決定した。昨年末にドイツではオスヒヨコの殺処分は禁止されており、フランスは今年中に禁止になる。この2国に比べるとイタリアの禁止は遅いものの、世界の先端を行く3つの国になった。
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卵用の鶏=採卵鶏は、肉用の鶏とは全く異なる品種だ。採卵鶏は通常の15倍もの卵を生むように品種改変され、肉用の鶏は通常の4倍早く太るように品種改変されているからだ。
そのため、採卵鶏のオスは不要なものとして、生後1日目に殺されている。世界では65億羽以上のオスヒヨコが毎年毎年、殺されていっている。もちろん日本でも行われている。国内では殺されるオスヒヨコの数は毎年約1億羽にのぼる。
殺処分は、ゴミ袋やゴミ箱に入れて窒息または圧死させる、生きたままシュレッダーに入れて粉砕するといった方法がとられている。海外ではガスで窒息死させる方法もあるが、日本では聞いたことがない。
この中で最も衝撃的に見えるのは、生きたままシュレッダーで粉砕する方法であるが、実際に最も長く、ひどく苦しむ方法は、ゴミ袋やゴミ箱に入れて窒息または圧死させるものだ。
ゴミ箱に次々と投げ込まれて、下敷きになったヒヨコが一体どんな死に方をしたのか、誰も知らないという状態になる。いつ死んだのかもわからない。もしかすると、生きたまま、保管用の冷凍庫に入れられたり、産業廃棄物業者に引き取られていったかもしれないのだ。
ドイツやオランダ、イスラエルなどの企業が開発しているのが、卵の段階でオスを判別する方法だ。すでに実用化しており、オスを殺さない卵ももう出回っている。
オランダの孵化場であるVerbeek Broederij BVは、移行に抵抗を示しながらも2022年7月には2台めのSELEGGTシステムを導入した。
ドイツの孵化場も持つ育成育雛企業であるLohmann Germanyは、2021年にオランダの卵内鑑別システムの企業であるIN OVOと提携し、2022年夏にはSELEGGTと提携して、ドイツ中の採卵養鶏場にオスを殺さない若メス鶏を提供している。
英国は禁止に向けた議論があるが業界は抵抗しているようだ。英国の小規模な孵化場Pigotts Poultry BreedersはSELEGGTと提携して2022年4月からオスヒヨコ殺害なしの雛を販売し始めたが、アニマルウェルフェアが進んでいるというイメージのある英国としては出遅れているように感じる。
なお、2022年1月1日から生後1日目のオスヒヨコの殺処分が禁止されたドイツでもまだ100%の卵を卵の段階で雄雌を鑑別できているのではなく、オスを別の用途に使うなどもしている。ドイツなどの法律は、孵化場は自社の孵化場の中で1日目のオスを殺してはいけないという規定なのだ。さらに、卵の段階でも胚の成長が始まってから7日目から痛みを感じ始める可能性があり、現在商業化しているシステムの多くが9日目で雌雄の判別が可能となるため完全な技術とはいえない。それでも20日以上してから孵化しベルトコンベアで運ばれ奈落に落ちていくような恐怖を味わうよりは孵化することなく9日目に死ぬほうが苦しみが少ないことは間違いない。イスラエルの会社は1日目から判別が可能な技術を開発しているため、今後数年間、利用するシステムは変動することだろう。
まだ発展途上ではあろうが、それでもより優しい社会へ進もうという推進力は強く、技術開発を並行しながら少しでも改善できる方向に進んでいることは良いことだと言える。
この画期的で多くの動物の苦しみを減らす流れは、世界に広がっている。米国の卵の90%を占めているアメリカ鶏卵生産者団体(UEP)は2016年にオスの殺処分の廃止に取り組み、研究に資金提供をしている。南米の大手鶏卵生産者2社も今年7月にオスを殺さない卵生産に切り替えることを発表した。
卵の段階でメスとオスを判別できると業務の効率化にもつながる。現在、孵化場で卵から孵ったヒヨコたちをベルトコンベアに載せ、人間が1羽づつメスとオスを分け、メスを養鶏場に送り、オスをゴミ箱に送っているわけだが、この大変で悲劇的な仕事が不要になる。オスの苦しみが減ることはもちろんだが、メスヒヨコの負荷も減る可能性がある。
世界は急速に”人道的な方法”を探して技術革新をしている。技術があれば、すぐにそれを採用するという選択をしている。残酷さの残る古いやり方に固執すればするほど、消費者が離れていくことを知っているからだろう。
残念ながら日本はまだ、オスヒヨコたちを1億羽殺し続けるという選択を変えようとしていない。消費者は卵を購入するときにオスヒヨコたちがたどる運命を、考えてほしい。