2019年5月9日、参議院農林水産委員会での小川勝也議員(北海道)が行った東京オリンピックにおけるアニマルウェルフェアが守られないことに対する質問に対する、農林水産省の答弁は驚くべきものでした。
2018年5月にOIEの豚の福祉に関する規約が作られ、その中で母豚に関しても群れで飼育されることを推奨しており、妊娠ストール飼育ではアニマルウェルフェアを満たさないことを示しています(OIE動物福祉規約 アニマルウェルフェアと豚生産システム 第7.13.12条)。
群れ飼育を推進するにあたって、農林水産省は以下のように懸念を述べています。
群飼育につきましては、
ストール飼育と比べまして個体管理が難しく、 また飼養頭数を減らさざるを得ないと言う場合も考えられますので 生産者に対しましてOIEの指針、 また見直される飼養管理指針を丁寧に説明して理解の醸成を図ると ともに、 生産効率を極力低下させない群飼育などの情報を収集提供に努めて まいりたいと存じています。
群れ飼育の懸念があるとすれば、日本の生産農家の技術不足と、システムを転換するための費用でしょう。しかし、生産性が下がると誤解させるような答弁を行うことは、科学的知見に基づいていない、不当な評価であると言えます。
妊娠ストール飼育の方にこそ、豚の健康を損なうことや、子豚の死亡率や母豚の淘汰率上昇などの懸念点があります。
なお、この点は畜産技術協会が現在見直しているアニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針の新バージョンの内容を確認してから、掘り下げるが、OIEは重要な点を指摘していることを付け足しておきたいと思います。
第7.13.5条 勧告 豚の高度なウェルフェアの確保は、システム設計、環境管理、動物飼養管理(責任ある畜産及び適切な飼養を含む)といった複数の管理要因に依存する。これらの要素が一つ以上欠けている場合には、どのようなシステムであっても、深刻な問題が生じる場合がある。
これまで畜産技術協会や政府が主張してきた、システムが伴っていなくてもよく観察をすればアニマルウェルフェアは保てるのだとする日本独自の主張は一蹴されています。このOIEの考え方は、今や当然のことであり、どの動物でも言えることです。しかし、このアニマルウェルフェアの基本に反することを、日本政府は次のバタリーケージに関する答弁の中で主張しています。
バタリーケージに関して、農林水産省は以下のように回答しました。
営巣の区域やとまり木の設置が必須とならないようにコメ
ントを本年1月にOIEに提出いたしました
今や世界中がケージフリーに向かっている中、日本政府はアニマルウェルフェアに真っ向から反対していることを、この1月に出したコメントにより明らかにしました。日本政府が推進しているアニマルウェルフェアは、言葉だけの中身のないアニマルウェルフェアを目指しています。養鶏協会はこれを「日本型アニマルウェルフェア」と呼んでいます。
一時的に、業者をかばいたいという事情があることは理解できます。しかし、それは本当に業者のためになるのでしょうか。日本の経済のためになるのでしょうか。
古い飼育方法を維持したい養鶏業界の意見を一方的に養護するだけでなく、政府はその先の道に導くべきなのではないのでしょうか。世界はあきらかにケージフリーに舵を切っています。日本の畜産業者がどうやったらスムーズに移行できるのか、そろそろ真剣に考え、手助けすべきなのではないでしょうか。