以前の記事で、妊娠ストールや卵のケージなどの拘束施設が、補助金で整備されていることをお伝えしていました。しかしどれだけの数の拘束施設が補助金で整備されているのか、正確な件数が不明なままでした。このたび各都道府県に情報公開をお願いして、それぞれの事業件数について文書あるいは口頭で回答をいただきました(2020年7-8月にかけて実施)。
その結果、2015年以降、畜産クラスターという畜産補助事業で整備された、拘束施設を含む事業件数は次のとおりでした。
妊娠ストール施設 91件
鶏のケージ施設 65件
*事業件数であり、経営体数ではありません。一つの経営体が複数の拘束施設整備事業を行っているケースもあります。
*鶏のケージについては、下記の囲いの中のとおり、採卵鶏・肉用鶏両方のケージ件数で情報公開をおねがいしています。ただし肉用鶏でケージ施設設備が行われるケースはほとんどありませんので、件数は採卵鶏のケージ施設と考えられます。
*熊本県除く(災害に見舞われ大変な時期ですので、後日確認します)
一つの事業で数千万数億単位の国費が投じられることがザラの畜産クラスター。2015年にこの制度が本格化してから、これまでに、膨大な金額が拘束施設に費やされてきたことが分かります。
さらにもう一つ、畜産施設整備補助事業として強い農業・担い手づくり総合支援交付金(旧名称:強い農業づくり交付金)があります。2005年に創設された本交付金制度を使って、現在までに行われた拘束施設の整備事業は次の通りです。
妊娠ストール施設 13件
鶏のケージ施設 21件
こちらも億単位での国費が交付される事業ですので、これまで膨大な金額が拘束施設に投じられてきたことが分かります。
「妊娠ストール」「鶏のケージ施設」は下記の定義で情報公開をおねがいしました。
妊娠ストール:母豚が妊娠期間中に収容される、転回できない個別の囲い。「フリーストール」と違って母豚がストールから出ることができないタイプのもの。
ケージ施設:採卵鶏・ブロイラーを数羽~十数羽まとめて収容する、巣、砂場、止まり木の設置されていないケージ施設(いわゆるバタリーケージ)。エイビアリー(多段式の平飼い)などと違い鶏がケージから出ることができないタイプのもの
アニマルライツセンターは豚の妊娠ストール、採卵鶏のケージをなくそうという運動をおこなっています。その理由はいうまでもなく、これらの施設が非人道的で動物を苦しめるものだからです。このような動物の管理施設はなくしていかなければならないもので、ましてや国の補助金を使って整備されるたぐいのものではないと考えます。
畜産施設は耐用年数が10年以上にわたるものもあります。いったんこれらの拘束施設が整備されると、これから長きにわたる期間、動物を拘束することが決定してしまいます。
アニマルライツセンターは、このような拘束施設に、これ以上国の予算を使わないでほしいと、財務省に意見をとどけました。ぜひ皆様からも意見をとどけてみてください。(財務省は、農水省など各省庁からあずかった概算要求などをもとに、予算案をつくっています。)
アニマルライツセンターが財務省へ提出*した意見
「畜産クラスター」「強い農業づくり交付金」における拘束施設への補助
畜産業で用いられる豚の妊娠ストール、採卵鶏のケージといった拘束施設は、アニマルウェルフェア上の重大な問題があることから、国際的に廃止へ向かっています。
豚の妊娠ストールの常用は、EU、ニュージーランドが禁止、アメリカの10州で禁止が決定、カナダは2014年7月1日以降にたてられた施設は、グループ飼育でなければならないなどの決まりが設けられています。企業の動きはさらに早く60以上の多国籍食品企業妊娠ストールの廃止に同意しています。また、2018年に可決されたOIEの豚の動物福祉基準は妊娠ストールではなく群れ飼育を推奨するものになりました*。
*OIE陸生動物衛生規約 第7.13章 アニマルウェルフェアと豚生産システムより引用「成熟雌豚及び未経産雌豚は、他の豚と同様に、社会的な動物であり、群で生活することを好むため、妊娠した成熟雌豚や未経産雌豚はなるべく群で飼われるものとする」
採卵鶏のケージ飼育廃止へ向けた諸外国の動きはさらに早く、現在採卵鶏のケージフリーを約束している企業は77カ国1000社以上に上ります。さらにアメリカ6州が鶏のケージ飼育禁止が決定。EUでは卵の52.2%、オーストラリアは40%がケージフリーになっています。2018年8月、韓国で最大手の鶏卵販売企業の一つであるPulmuoneが殻付き卵について2028年までにケージフリーに移行することを宣言しました。Pulmuoneは卵流通量の12%を占めており、韓国での大きな変革になるだろうと予測されます。2020年6月には、タイの家畜開発省が、鶏をケージから出すための新しい基準に取り組んでいると発表しました。
しかしながら日本では妊娠ストール使用率が91.6%(2018年データ)、鶏のケージ使用率が92%(2014年。これ以降のデータは不明ですがPOSデータを見る限りケージ卵の割合に変化は無いようです)で、拘束飼育フリーへの移行が進んでいません。さらに、これらの拘束施設が国費で整備されている状況です。
アニマルライツセンターが各都道府県に情報公開請求をした結果(2020年7-8月)、2015年から現在まで、畜産クラスターで整備された、妊娠ストール施設は91件、鶏のケージ施設は65件という結果でした。強い農業づくり交付金では2005年から現在まで妊娠ストール施設は13件、鶏のケージ施設は21件整備されています。
アニマルウェルフェアの意識は年々高まっており、今後妊娠ストールや鶏のケージのような拘束施設が排除される動きはますます広まっていくだろうと予測されます。これらの状況、そして10年以上に及ぶこともある畜産施設の耐用年数を考えると、妊娠ストールや鶏のケージ施設をあらたに導入することは、経済的にもリスクが高いものになるのではないかと思います。GLOBAL. G.A.P.を取得する経営体は増えていますがこの認証制度では妊娠ストールは不可です。諸外国で多国籍企業が採卵鶏のケージ飼育廃止を決定したあおりで、国内拠点においてもケージフリーが決定する企業も増加しています。
畜産に関わる予算決定の際にアニマルウェルフェアの観点がなければ、国益を損なうことにつながる可能性があります。妊娠ストール、採卵鶏のケージへ国費を投じないことを提案いたします。
*財務省 予算執行ご意見箱