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OIE採卵鶏の動物福祉規約に意見:抵抗する業界、おどろきの認識

2018年12月19日、昨年に引き続きOIE「アニマルウェルフェアと採卵鶏生産システム」の再検討案が示されました。前回の案への各国の意見や科学的データが反映され、不十分であったアニマルウェルフェアが比較的充実した内容に修正されています。

例えば、私達も要望をしていた止まり木の設置や営巣の区域(巣箱等)の設置が必須になっている。その他細かな点が多く修正されました。
しかしまだ不十分な点があり、認定NPO法人アニマルライツセンター、THE HUMANE LEAGUE JAPAN、PEACE 命の搾取ではなく尊厳を、NPO法人動物実験の廃止を求める会、ヘルプアニマルズ、公益財団法人動物環境・福祉協会Evaの6団体連名で、意見を提出しました。
また、この案に対する養鶏業界の反発が以下の通り大きいことが予想されるため、とまり木と営巣の区域の設置については、補足で現状の維持を要望しました。

この案について話し合われたOIE連絡協議会では、養鶏業に関連する利害関係者が3名臨時委員として参加していました。有識者とするにはアニマルウェルフェアについての意識や知識が充分とは言えず、呆れる議論が展開されました。

臨時委員のアキタ株式会社(きよら等の名前で卵を生産している養鶏企業)は委員会の場で「育種改良により止まり木に止まらない鶏になっている」という主旨の驚くべき持論を展開しました。
止まり木にはもとより模倣により止まる傾向があります。誰もが知っていることですが鳥は止まり木に止ったり安全な場所で眠る習性を持っていて、育種改変された鶏もその習性は変わらないことが、科学的に証明されています。さらに止まり木に止まることで骨の強度が増すこともわかっています。
私達の経験値からしても、バタリーケージからレスキューされた鶏のほとんどが止まり木に止まるようになります。


(夜は必ず止まり木に止まって寝る保護鶏たち)

習性に配慮するという意味では、バタリーケージから救出された鶏の全てが、止まり木よりも早くに砂浴びを始めます。またより強く、巣箱を求める習性があります。これは模倣や訓練なく、自ずと始めることであり、当該委員の理論であればまず巣箱、そして次に砂浴び、また羽ばたきて飛ぶことなどを必須事項とし、また優先して導入すべきとなるでしょう。

農林水産省は、有識者として利害関係者である養鶏関係者を3名も臨時委員に据えましたが、残念ながらこれにより業界のアニマルウェルフェアへの理解及び知識の薄さを露呈させる形になりました。

また、バタリーケージからの卵がほとんどであることが理由として巣箱や止まり木の設置への反対意見が、述べられました。しかし、アニマルウェルフェアはワンヘルスという人間の健康に直結する課題に対応するためにも必要でであるにもかかわらず、アニマルウェルフェアへの対応を怠ってきた養鶏業者の低いレベル合わせて基準を作ることによって不利益を被るのは市民であり消費者です。

さらにOIE基準をクリアできないため、畜産物が認められないことになってしまう、などとも発言しており、自らの利益にOIE基準を利用することを前提に話す姿勢には疑問を感じます。

科学的根拠をもとにし、人/動物/環境を含めた健康を追求しようとするOIE基準は、一部の人の利益にとらわれずに作られるべきです。そして、現状対応できていない業者に、対応できるように努力するをさせるための基準であるべきでしょう。

なお、消費者を代表する委員、アニマルウェルフェアを専門とする経済学者の委員からはアニマルウェルフェアへの取り組みのより一層の強化が求められました。

動物保護団体からの意見

黄色ハイライトした部分を変更してください。
赤字は解説と根拠を示しています。

1:第7.Z.1条 種鶏を含める

第7.Z.1条
定義
本章の論点のため、下記のように定義する。

採卵鶏(雌鳥): 人の消費用の卵の商用生産を目的として飼養されている、性的に成熟した雌鶏のGallus gallus domesticus種の鳥。村落又は裏庭の群れで飼育されている採卵鶏は除く。種鶏は除く。

コメント:
種鶏も本章の対象に含むべきである。採卵鶏システムにおける多くの福祉問題は、親鶏たちにも同様に当てはまる。
ただし、別章にて種鶏のアニマルウェルフェアを規定する予定がある場合を除く。

2:第7.Z.10条 砂浴びの区域 及び 第7.Z.11条 ついばみ行動区域

第7.Z.10条
砂浴びの区域
砕けやすく、乾燥した敷料素材の提供は、若雌鶏及び雌鶏にとって砂浴びを促すのに望ましいため、砕けやすく乾燥した敷料素材でできた砂浴びの区域を提供するものとする
<略>
第7.Z.11条
ついばみ行動区域
砕けやすく乾燥した敷料素材の提供は、若雌鶏及び雌鶏にとってついばみ活動を促すのに望ましい ため、提供されるものとする

コメント:
砂浴びが快適にできる敷料があることにより、外部寄生虫の制御に役立つ。現在は農薬又は動物用医薬品を噴霧することにより、外部寄生虫の制御を行うが、薬剤耐性が生まれる課題がある。ETB乳剤、ネグホン、プロポクスル等はすでに耐性が強く効果が薄いという結果もある。ワクモは近年は日中にも寄生し続け吸血するなど、鶏の福祉の低下に大きく影響している。
砂浴びは、雌鶏にとって心地の良い行動であり、福祉向上に役立つ。
敷料は環境的なエンリッチメントのひとつであり、羽つつきと共食いの防止に役立つ。さらに、自然なついばみ行動のためのはけ口にもなる。地面の餌を探し回ったり、つついたりすることから遠ざけられることが原因で、異常行動が発生することもわかっている。そのため、育成と採卵の両段階において、良質で、深く、ふんわりとした敷料を与えることが重要である。採卵鶏は多くのものをつつく必要があり、アルファルファの塊、わらや縄などを与えることが、羽つつきの低減につながる。

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https://www.pref.chiba.lg.jp/ninaite/shikenkenkyuu/documents/43_7.pdf

https://www.pref.chiba.lg.jp/kh-nanbu/documents/h26jisseki.pdf
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3:第7.Z.12条 営巣の区域

第7.Z.12条
営巣の区域
営巣の区域は備えられるものとしを設ける場合は 、適切な材料で造られ、営巣を促すように設計及び配置され、過度な競争を防ぎ、被害又は損傷を生じないものとする。営巣の区域は、検査、清掃、及び維持管理消毒が容易なものであるものとする。

コメント:このままの規定を維持すること。
産卵のための適切な場所がないと、雌鶏はストレスを感じる。離れた場所に巣箱または巣作り用の区域を設けることを必須とすべきである。

Follensbee ME, Duncan IJH, and Widowski TM. 1992. Quantifying nesting motivation of domestic hens. Journal of Animal Science 70(Suppl.1):164.
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4:第7.Z.13条 止まり木

第7.Z.13条
止まり木
止まり木は備えられるものとしを設ける場合は、適切な材料で造られ、全ての若雌鶏及び雌鶏にとって止まりを促すように設計され、高さがあり及び配置され、竜骨の変形、又は趾の問題や他の損傷を防ぎ、鳥が止まっている間は鳥の安定を維持するものとする。設計された止まり木が無い場合、若雌鶏及び雌鶏鳥によって高いと認識され、被害又は損傷を生じない台、格子及びすのこは適切な代替物となる場合がある。止まり木又はその代替物は、清掃と維持管理消毒が容易であるものとし、糞便による汚染を最小限にできるものとする[Hester, 2014; EFSA, 2015]。

コメント:このままの規定を維持すること。
雌鶏にとっての止まり木の必要性及び止まり木の高さの必要性は十分に科学的に立証されている。止まり木は夜間の就塒行動において快適な休息場所となるため重要である。下肢骨の強度や大きさの維持においても重要であり、フェザーペッキングや攻撃から逃げる場合の手段にもなる。雌鶏の行動学的な必要性は止まり木なしには満たされない。

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その他の意見:

2008年から2011年の間、採卵鶏のバタリーケージの是非がOIE内で検討されたことがありましたが、このときに日本は反対意見を出しておりました。

しかしそれから10年が経過し、アニマルウェルフェアに配慮した畜産システムへの移行のチャンスはありました。現に平飼い卵の需要や、ケージフリーシステムによる生産は、国内でも徐々に増加しています。衛生面や気候の差を理由に、国際的なアニマルウェルフェアの流れに追いつくことができていない生産者が多いことは事実ではありますが、衛生面や気候の差という課題が最新の技術や研究によりすでにクリアされていることは、国内外の事例を見れば明らかです。

ケージ飼育がアニマルウェルフェアを損ねる科学的根拠が多数提示されており、欧米だけでなく、南米や東南アジア、東アジアでもケージフリーに向かっています。OIEの動物福祉規約は科学的根拠をもとにした、正しい知識を世界に広める役割もあると考えます。現行の生産システムをただただ肯定するだけでは無意味です。また利害関係者の意見を重用しすぎれば、ワンヘルスという人々に影響のある課題への取り組みが遅れ、また国内のアニマルウェルフェアに配慮したいとする事業者の取り組みの芽をも摘むことになるのではないでしょうか。

世界が向かうべき方向を示すことができる規約の策定に日本も貢献するよう、お願いいたします。

なお、ご存知の通り、日本の卵が生食ができる理由は、その洗浄の考え方とシステム、ヒビ卵や汚卵の検知器の導入にあります。これらはアニマルウェルフェアが必要とされる動物の飼養管理の後の工程の話であり、策定されるアニマルウェルフェア規約の範囲外です。物品の衛生管理が優れていることは日本の誇るべき特性であろうと思いますが、その物品を生み出す動物自身のウェルフェアの向上にも、一層お取り組みくださいますよう、お願いいたします。

 

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