2018年度、5年ぶりに発動された成鶏更新・空舎延長事業をご存知だろうか?
この事業は農林水産省の「鶏卵生産者経営安定対策事業」の一つで、同省の資料*1には次のように書かれている。
成鶏更新・空舎延長事業
鶏卵の標準取引価格(日毎)が安定基準価格を下回る日の30日前から、安定基準価格を上回る日の前日までに、更新のために成鶏を出荷し、その後60日以上の空舎期間を設ける場合に奨励金(210円/羽以内。ただし、小規模生産者(10万羽未満)は270円/羽以内)を交付する。
「更新」などと書いてあるが、ようは「屠殺」のことだ。平たく言うと、卵の過剰生産で価格が下落した際、緊急措置として生産を減らすために採卵鶏を屠殺し、その後60日以上鶏舎を空にすれば生産者に奨励金を交付するというものである。
一羽当たり最高で270円が養鶏業者に交付されるだけでなく、出荷された成鶏の屠殺をおこなった食鳥処理場にも1羽23円以内の奨励金が交付される。*2020年から奨励金が増額されました。詳細はコチラをご覧ください。
この”成鶏更新・空舎延長事業”と”鶏卵価格差補塡事業”の二つからなる「鶏卵生産者経営安定対策事業」には多額の予算があてられており、2018年度の予算額は48億6200万円にのぼる。
成鶏更新・空舎延長事業は2010年に始まり*2、卵の供給過多となった2018年度には2度実施された。一度目は2018年4月23日に発動され同年6月25日に停止、二度目は2019年2月1日に発動され3月31日に停止した。この二度の発動で、約985万4000羽が屠殺された*3。
農林水産省は2019年度も同額の48億6200万円を同事業に予算にあてているが、鶏は無機物や野菜ではなく人間同様動物だということを考えると、この”成鶏更新・空舎延長事業”は農畜産物の需給調整方法としてまともな事業だとはとても思えない。
牛や豚の場合、需給調整方法として屠殺したら奨励金という制度は聞いたことが無い。野菜は生産過多による産地廃棄が行われているが、問題視され政府レベルでの議論が行われたこともある。しかし「供給過多になったからと言って鶏を殺すなんて」という議論はない。鶏の屠殺を「更新」などという言葉で置き換えるところをみると、鶏は無機物としての扱いで、その命は野菜より軽く扱われているのかもしれない。
鶏の立場で意見するなら、答えは単純だ。卵の過剰供給をやめるには次からの雛の導入数を減らせばいい。全体の羽数を減らしていき卵の生産量も減らしていく。一時的に鶏を殺して鶏舎を空にするのではなく、恒久的に減らすのだ。
そんなことをしたら卵の価格が上がる、と言われるかもしれないが、鶏をモノのように「更新」するよりはマシだろう。採卵鶏の数は今、日本で約1.4億羽。そもそも多すぎるのだ。
2010年に成鶏更新・空舎延長事業が実施された時、日経新聞にこの事業を問題視する『物価の優等生も嘆く農政』というタイトルの記事が掲載された。この記事に反発した本事業の実施主体である日本養鶏協会は日本経済新聞社に『新聞報道内容の適正化に係る要請』を送っている。
日経の記事は「成鶏更新で卵の価格が上がった。過剰生産の付けを消費者にまわしている」という趣旨のもので、「鶏の命を軽視している」などといった観点はない。しかしこの記事に対する日本養鶏協会の要請書を読むと、採卵養鶏全体の問題点が見えてくるので、この要請書の内容を紹介したい。
新聞報道内容の適正化に係る要請(日本養鶏協会サイトより一部抜粋。全体はコチラ。)
1.鶏卵生産者は常に過剰生産・供給を強いられ、再生産可能な販売価格の維持が困難な実情にあること。
鶏卵の流通においては、他の先進国とは全く異なり常態的に広く特売が行われているため、立場の弱い生産者はこの必要量を別途確保するため絶えず通常必要とする生産・供給以上の羽数の鶏の飼養を強いられている。
注:鶏は工業製品とは異なり1日1回以上の卵を産むことができない。2.鶏卵産業は行政の支援が殆どないことから、生き残りのため生産者は常に過当競争を強いられていること
このため業界としての、統一的な活動ができず生産者の数は急速に減少を続けている。3.従って鶏卵価格は実質的な低下が続き、現状は昭和20年代の価格以下のため倒産・廃業が続き、実質的な生産者の経営継続権も商社及び飼料メーカー等に握られ、廃業さえも困難な一種の小作に近い経営実態となっていること。
(参考)
(1)全農鶏卵卸売価格(M規格)
昭和28年 224円/㎏
平成16年 173円/㎏
平成17年 204円/㎏
平成18年 183円/㎏
平成19年 168円/㎏
平成20年 194円/㎏
平成21年 175円/㎏
平成22年 187円/㎏
養鶏業界側は、このように鶏卵生産者の実情を説明し、成鶏更新・空舎延長事業の必要性を訴えているわけだが、この要請書には根本的な問題が明示されていることがわかるだろうか。問題は「大量生産を要求され、卵の価格の低下が続いている」ことなのだ。
裏を返せば「卵を大量に消費し、スーパーの卵特売に飛びつく」消費者が問題だということにもなる。つまり消費者行動が成鶏更新・空舎延長事業という狂った事業につながっているということだ。消費者は忘れていないだろうか?成鶏更新・空舎延長事業には税金が使われているのだ。安い卵に飛びついてもそのつけは結局自分に帰ってくる。
もちろん消費者だけの責任ではない、成鶏更新・空舎延長事業という付け焼刃の対症療法に頼り根本的解決を図ろうとしない政府や養鶏業界にも責任はある。
毎年何十億もの予算を成鶏更新・空舎延長事業にあて、卵の供給過剰時に鶏を殺すという手段で需給調整をはかっても無駄だ。卵の大量生産を止め、価格を上げる以外に根本的解決はない。物価の優等生などと言われ1960年代から価格が殆ど変わっていないことがそもそもおかしいのだ。
安いということはその裏で何か負担を強いられているものがあるということだ。卵の場合、最大の負担を背負わされているのは鶏だ。その負担の大きさは消費者や生産者の比ではない。
卵が安いということが鶏の扱いにどのように反映されているのか、私たちは直視しなければならない。彼女たちの置かれている状況を正しく理解したなら、卵の価格が上がることに反論することはできなくなるだろう。
*写真、動画はすべて日本
一羽当たりB5用紙ほどの面積しか与えられていないケージ飼育
ケージの中で、気づかれず放置される鶏の死体
屠殺場への出荷のため移動カゴに収容された鶏
屠殺場への出荷のため移動カゴに収容された鶏。詰め込み時の乱暴な作業により爪がはがれている。
トラックに積み込まれる採卵鶏たち
*1 [平成30年度予算の概要]鶏卵生産者経営安定対策事業【4,862(4,862)百万円】 鶏卵生産者経営安定対策事業実施要綱
*2 成鶏更新緊急支援事業 全国7か所で説明会開催へ 更新日付 2010/04/26
*3 処理羽数は956万羽 成鶏更新・空舎延長事業 鶏鳴新聞
これは、もう日本全体的の責任でもありますね、まず農林水産省、養鶏農家、そして消費者、品薄状態が何故駄目なのですか?一日や二日玉子を食べないだけで、私達人間がどうにかなりますか?そこの所を国がきちんと、国民全体に分かる様にまずは説明をしなければそれが務めです、頂く命にも尊厳があり、ほぼ虐待状態の鶏から生まれた、産ませられた、卵を食べてそれが本当に美味しいでしょうか?そしてそんな扱いをされて産まれた玉子が人間の身体の中で感謝して良い働きをしてくれるでしょうか!私は逆だと思っています!今こそ改める必要があるべき事です!
島国日本の国民は、食に関する考え方も閉鎖的で、安ければ良いという考え方がほとんどである。
玉子や鶏肉が、命の一部であるという事に気づき、それを忘れてはいけない。
メディアでは犬猫の保護にばかり取り上げられ、農業動物については全く関心を持たれていない。
賢く、優しい消費者になるように国民が努力し、変化を求めなければ、日本は世界の動物福祉(アニマルウェルフェア)の考えに取り残される一方である。
日本に14億羽も採卵鶏がいるのですか?
記事を書くなら正確にお願いします。