2022年9月3日、丸亀製麺などの飲食チェーンをもつトリドールホールディングス株式会社はウェブサイトで卵用の鶏を平飼いに切り替えるケージフリーに向けたタイムラインと姿勢を公開した。これは、世界63カ国の90以上の団体が参加する鶏保護の世界連盟 Open Wing Allianace(以下OWA)のキャンペーンを経て出されたものだ。
これまでOWAはスターバックスやヒルトン、KFCやピザハットを持つヤム・ブランズなど欧米に本社を持つ企業に対し、全世界でケージフリーに移行することを求めキャンペーンを行ってきた。その多くは成功しており、前述の企業は日本でもケージフリーに移行することが決定している。これまでアジアの企業はこのグローバルキャンペーンの対象にされてこなかったが、最初のアジアのターゲットは日本のうどん屋だった。
アニマルライツセンターは2021年夏にトリドールホールディングスにアニマルウェルフェアを知ってほしいと対話を要望したが、拒絶された。その後動物保護団体連名での対話も申し入れたものの対話は実現しなかった。多くの企業がステークホルダーとの対話やともに社会課題に取り組むことが重視される時代にあって、市民団体との対話の扉が全く開かれないこともターゲットされた一因だった。
今年5月24日、かくしてグローバルキャンペーンが開始された。私達も当初参加したが、開始直後に話し合いの扉が開いた。私たちは前向きな話し合いが行われている場合キャンペーンを原則行わないため、初回対話の期日の決定とともに日本でのキャンペーンは初日で閉鎖した。OWAのキャンペーンは継続していた。
キャンペーンの結果、トリドールホールディングスが”日本を除く”世界26カ国で2030年までにケージフリーに移行、また日本ではケージフリーに向けてスタートを切ったことを発表したところでキャンペーンは終了を迎えた。OWAは鶏たちの苦しみが減ることを祝っている。
しかしこれまでアニマルウェルフェアを進めてきたグローバルな飲食チェーンと並ぶことはできなかった。世界がケージフリーであるにも関わらず、本社のある日本はケージのままとなったためだ。過去にも日本と中国、ウクライナ、ロシアを除いてケージフリー目標を提示した企業もあり、日本の鶏卵の生産技術の進展が世界から大きく引き離されていることが浮き彫りになった。
トリドールホールディングスは日本について以下のようにコミットした。
「日本においては、公益社団法人畜産技術協会の「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針」に則り飼養された鶏卵の調達に努めています。2022年度にまずは丸亀製麺10店舗で使われるすべての生卵を100%ケージフリーにするとともに、2023年度末にはケージフリー卵を使う店舗数を全店舗の3%まで増やし、その後も順次拡大することを目指します。」(2022/9/8抜粋)
これは高い目標ではなく、これまでアニマルウェルフェアの課題に手を付けていなかったトリドールホールディングスが他社と並び取り組みを開始したことを示している。他の飲食店や小売店は、より高い目標を目指しており、今後日本でも他国と同じようにケージフリーを明確に目指すコミットメントが出されるよう、話し合いを継続することになる。
実はトリドールホールディングスの日本向けのコミットメントの中では最初の1文を達成することもまた、困難な状況である。畜産技術協会の指針には推奨する飼育面積(1羽あたり430~555cm2)が明記されているが、この推奨面積を守っている生産者は日本では限られていることも企業は知っておかなくてはならないだろう。日本のある大手鶏卵生産者の飼育面積は実情として1羽あたり285cm2、ここまでひどくなくても360㎝2などの大手鶏卵生産者もあることがわかっているからだ。なお、EUや韓国や米国の各州の規定を見ると飼育面積は1羽あたり750㎝2を目指している。
ケージ飼育の養鶏場では、狭くぎゅうぎゅう詰めで、鶏たちは自然で重要な行動が一切とれない。日本の平均飼育面積は一羽あたりたったB5サイズ以下であり、これは世界でも最低レベルだ。運動もできない鶏の骨はもろくなりケージのなかで何度も骨折を繰り返す。バタリーケージの飼育はケージフリーの飼育と比べると、死亡率が高いことや、サルモネラ菌の繁茂の割合が高くなることがわかっている。ケージフリーに切り替えることで、サプライチェーンに組み込まれた鶏たちの福祉は、劇的に改善される。世界はケージフリーに切り替わっておりEUは55%以上の卵がすでにケージフリー、米国は企業のケージフリーコミットメントにより73%の卵がケージフリーになる。韓国は4.6%と着実にケージフリーの卵の割合を増やしているが、日本はいまだ1%と予測される(日本は政府統計なし)。
世界の大手企業はすでにケージフリーをコミットした状態にある。日本でもKFCやピザハット、バーガーキング、マリオットグループやIGHグループなどの外資系ホテル、国内でもホテルや小売店、飲食店がケージフリーをコミットしておりその数は180を超えている。ケージフリーの動きは着実に企業の中で伸びており、とくに生活協同組合はここ数年で平飼い卵の割合を急速にあげてきている。