気候変動は着々と、間違いなく近づいている大きなリスクだ。色んな分野で多くの人が変動を緩和させようと動き、政府も動き始めている。2021年8月に発表された政府間パネル(IPCC)レポートでは、気候変動は過去の予測よりも速く広範囲に進んでいることが示された。
また、①西南極氷床、②グリーンランド氷床、③大西洋南北熱塩循環(AMOC)、④エルニーニョ南方振動(ENSO)、⑤アマゾン熱帯雨林に、それぞれティッピングポイントが近づいているが、一つの転換要素が倒れれば、ドミノのように他の地域の転換要素も倒れる可能性が高い*1
とする研究が2021年7月に発表された。ここでいう「ティッピング・ポイント」とは、環境のバランスが崩れ、取り返しがつかなくなる転換点だ。
この気候ドミノ効果が起きれば、気候変動は一気に加速する可能性が高い。
この①~⑤の地球環境に大きく影響を与える要素の中で、唯一、人が直接的に破壊をしているものがある。それが⑤のアマゾン熱帯雨林だ。その他の①~④は人がそこを掘り起こしたりなぎ倒したり火をつけたりしているわけではなく、別の場所での人間活動が遠く影響を及ぼすという変化だ。これを食い止める戦略を練るのは簡単ではない。しかしアマゾン熱帯雨林だけは、人が直接的に破壊を続けてきた。ティッピング・ポイントを迎えないための答えが唯一明快ではないだろうか。破壊をやめれば良いのだ。
IPCC報告書の著者 Paulo ArtaxoNeto氏はこう述べている。
熱帯の森林破壊を減らすよりも,、安く、簡単で、速く、CO2排出量を削減する方法は他にはない *2
であれば、なぜやらないのか・・・といえば、世界から肉と卵の需要が未だに強くあるからだ。
アマゾン熱帯雨林の破壊の一番の原因は畜産業だ。アマゾン熱帯雨林はこの半世紀の間に17%が破壊されたが*3が、牛を放牧し牧草を食べ終えた後、飼料用の作物の畑に変えられる。アマゾンを破壊すると2度おいしい思いをする業者がいるのだ。
森林に覆われた1ヘクタールの土地は、約400ドルの価値
森林を破壊し放牧地と農地にすると、約1,800ドルの価値
があるそうだが、その増えた利益は畜産に関係する人たちや森林破壊をする国が得て、そしてそこれ取れた作物により工場畜産が維持され儲けを出す。
しかし、破壊の結果、世界に50,000ドルの損害をもたらす可能性があるという。
その被害を受けるのは全人類だ。これは公正ではない構図ではなかろうか。
アマゾン熱帯雨林はあと3~8%の破壊が進むと森林全体が劣化していくと予測されている*4。つまりティッピング・ポイントが訪れ、取り返しがつかない速さで熱帯雨林としての機能を失ってしまうということ。アマゾンがティッピング・ポイントを超えれば、上記①~④などの世界中の気候に影響を与えるのだろう。
私達は唯一の被害を「安く、簡単で、速く」防ぐ方法をもうすぐ失う。
様々な情報を見ていると、ひとつも選択を間違えてはならないほど、追い詰められているようにも思う。アマゾンは今や炭素排出源に変わっていると発表された*6。吸収した量より20%多くの炭素を排出しており、アマゾン全域で気候変動の結果として樹木の死亡率が増加し、光合成量が減少している。
農業による森林破壊がずっと行われてきた南部と東部で、気候が変動しており、以下のような変化がすでに見られている。*7
人間が侵入していないような地域でも、変動が起きており、気候変動から生じるより激しい火災の可能性が高まっている。
さらには、牛の牧草地より大規模農場は気候への影響が大きいがわかっている。世界中の工場畜産での餌になる大豆やとうもろこし用の農地は、商業用農地は牧草地よりも、植生被覆が20%少なく、最大1°C高い乾季の気温になったという。*5
今まさに、人が直接的に破壊する森林喪失から、人が劣化させたことによって人の手が入らない部分も自然と森林が消えていくというはざまにあるようだ。
アマゾンがダメなら周辺のセラードやグランチャコなどの広大な地域を侵食すれば良いのか、と言われればそうではない。同様に希少な種が多数生息し、重要な水瓶であり、熱帯雨林から都市への緩衝地帯にもなっている。
アマゾンが劣化サバンナになるとすれば、豊かなサバンナであったセラードは砂漠化する。過去60年間の変化から、セラードが暑く、乾燥してきたことがわかっている*8。元々乾燥しているサバンナであるが、自然の状態であれば環境に適応している植物が地中深くに根を張り水を吸い上げ、その水は植物を介して蒸発を続けることができるが、大豆やとうもろこし畑になればはそうではない。
このセラードの開発は、飼料生産のために勢いづいている。残念ながら・・・。しかし自然を壊して拡大していった農地も、農地、2040年までに39%減ると予測されている*9のだから、本当に刹那的な利益と欲求のために取り返しのつかないことをしているように思う。
肉を、卵を世界中が現在の量を求め続ければ、どこかの自然が消えていく、という全く持続可能ではない悪循環に陥っている。
南米からあまりいいニュースが聞こえてこない。ブラジルのボルソナロ政権になってから一気に森林喪失が激しくなった。2020年のアマゾンでの森林減少は2008年以降最大になり、2021年もそれにつぐ勢いで森林が減少している。ボルソナロ政権になってから、環境法執行の予算を削減し、環境犯罪の罰金没収額がどんどん下がり、土地紛争事件やそれに絡んだ暴力事件が3倍になり、環境保護論者と先住民族が殺害される事件が増加し、その多くが未解決のまま放置され、14%残っている保護されていない公有地に対して私有地としての違法申請が相次いでおり(つまり伐採を狙って自分の土地だと主張している者が多数いる)、土地取得に関する規制が緩和される可能性があり、過去の収奪された土地に恩赦が与えられて権利が正当化される事例が相次いでいる・・・。
ブラジル経済はこの自然資産を崩していくことで成り立ってきている。たとえ大統領が変わったとしても、改善はするだろうが、根本的には解決しないのかもしれない*10。
ブラジルの外に住む私達には何ができるのか、
それは過剰な肉、卵、乳製品の需要を減らすことだ。これにより多くの土地が解放される。そして開発の必要性が著しく薄れるだろう。
*1 Interacting tipping elements increase risk of climate domino effects under global warming, Nico Wunderling et.al https://esd.copernicus.org/articles/12/601/2021/
*2 https://earthinnovation.org/2021/08/ipcc-report-author-no-faster-way-to-reduce-emissions-than-stopping-deforestation/
*3 https://www.nationalgeographic.com/environment/article/deforestation
*4 https://www.cell.com/one-earth/fulltext/S2590-3322(19)30081-8 https://www.nature.com/articles/d41586-020-00508-4 https://www.nature.com/articles/s41467-020-18728-7
*5 https://news.mongabay.com/2021/06/bigger-is-badder-when-it-comes-to-climate-impact-of-farms-in-the-amazon/
*6 https://www.nature.com/articles/s41586-021-03629-6 https://news.mongabay.com/2021/07/brazils-amazon-is-now-a-carbon-source-unprecedented-study-reveals/
*7 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3831494/ https://science.sciencemag.org/content/369/6509/1378
*8 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/gcb.15712
*9 http://www.observatoriodoclima.eco.br/area-de-cultivo-de-soja-no-brasil-pode-diminuir-39-ate-2040/
*10 https://www.brazzil.com/the-solution-to-brazils-deforestation-fixing-the-countrys-economy/