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ボルソナロからルラ政権に変わることは動物にも朗報か?

2022年10月30日、ブラジルの次期大統領が決定し、2023年1月1日からルラ大統領による新たな政権が発足することになった。ブラジルの自然をひたすらお金に変えてきたボルソナロ大統領がようやく終りを迎える。環境保護団体は大きな勝利として喜んでいる。

ルラ次期大統領は、環境問題を大きな争点として選挙中の公約にもブラジルのアマゾンの熱帯雨林と重要な生態系を保護することを掲げてきた。ルラ次期大統領は2003年から2010年までの期間を大統領として政権を握ってきているが、その間にも最終的に森林破壊を大幅に削減してきた実績を持つ。

ブラジル – 森林破壊率、Km2 (2000-2021)https://www.fitchsolutions.com/agribusiness/quick-view-president-lulas-zero-deforestation-pledge-threat-brazilian-soybean-production-growth-18-11-2022

だが、動物たちの苦しみを減らすという観点で見たときに、どうなのか。彼は彼の発言や実績などから予測してみよう。

動物を守る意図はないけれど飼料生産は減るかも?

ルラの動物福祉や動物に配慮するといった発言を見つけることは難しかった。

とはいえ、ルラ政権にしてもボルソナロ政権にしても、すでにブラジルの食肉企業にとってアニマルウェルフェアはビジネス的要因の大きな部分を占めており、それらを阻害するようなこともなく、企業は着実にアニマルウェルフェアを上げてきていると言える。1960年代から進んできたのだから、アニマルウェルフェアを上げ続けることはもはや前提事項なのだ。このあたり、いまだに科学的な議論ができず遅れを認めることすらできない日本政府とは大違いである。さらにルラ政権になれば停止してしまっていたEU とメルコスール4カ国の自由貿易協定が実現されると予測されるため、アニマルウェルフェアはさらに上がっていく可能性が高い。同時に、日本とのレベルの差が更に開いていく可能性が高い。

一方で、動物性タンパク質を減らすという取り組みはどうだろうか。つまり、大豆の生産による森林破壊への影響に言及しているのかどうかを見てみたい。ルラ次期大統領は大豆の生産については言及している。しかし、あえてなのか、飼料には言及していないようにみえる。バイオディーゼル、つまり大豆の19%しか占めていない油の方に言及をし、残りの81%を閉める大豆粕のほうに目がいっていないようだ。

ルラ次期大統領は2006年に大豆モラトリアムという直接大豆のためにアマゾンを破壊した場合その大豆を仕入れてはいけないという企業間の誓約を支援した。そのためアマゾンの大豆生産による破壊は減少したかに見えたが、実際には抜け穴があり、ブラジルの大豆収穫面積は増え続けている。牛の牧草地のために破壊した土地を使って大豆を作るという抜け穴があり利用されている。またはセラードなど他の地域の生態系を破壊してきている。公式に出てくる大豆による破壊面積はかなり小さく見積もられてきたのだ。大豆モラトリアムは抜け穴があって、それによって飼料生産が南米の森林破壊の大部分を占めているということを覆い隠し、多くの人々が、森林破壊や気候危機の原因を”牛”だと思っていて、飼料=工場畜産であることに気が付かない原因を作ったともいえる。もちろん善意だったのだろうが・・・。またアマゾンを保護した分、他の地域の破壊を推し進める結果になった。もはやセラードの原生林は半分以下になった。これらのこと考えると、結局どの政権であっても環境を追い詰め、そして動物を追い詰めてきたということなのだ。

ブラジル – 大豆収穫面積、’000Ha (2003-2023) f=USDA 予測。出典: USDA、フィッチ ソリューションズ

一方で、ルラ次期大統領は、前政権時代の就任直後の2003年に遺伝子組み換え大豆を巡る論争を最悪な形で終わらせ、ラウンドアップ ・レディ・グリホサート耐性(RR)の大豆*を認可しその後もGMO大豆の流通を緩和させてきたという過去を持つ。強力な除草剤に耐性を持った大豆、そして遺伝子組み換え大豆が広まっていったことにより、この後ブラジルは大豆生産量を一気に伸ばし2020年に世界一位になった。言うまでもなく、大豆の74%は工場畜産の中で苦しむ鶏、豚たちの餌になっている。

アマゾンだけではなく全ての森林破壊をゼロにする必要がある

どの目的でもどの地域でもすべての森林破壊をゼロにする必要がある。ルラ次期大統領は2035 年までに「森林破壊ゼロ」を達成すると公約してきた。これが達成すると、飼料生産はブラジルの手から離れていく可能性はある。

穀物に関連する政治家や業界、およびブラジル産飼料に頼っている国々にとって、ルラの当選は悲劇として映っている可能性が高い。しかし、ある養豚業界紙の記事では”適応できる”と言っている。つまり、飼料の生産量をなんとかしてどこかしらで変わらず賄うことができるだろうと見ているのかもしれない。だが、基本的に飼料生産量の増加ができてきたのは、技術革新ではなく、農地の拡大=森林の破壊によるものだ。今後、締め付けが厳しくなり、価格はより高くなる可能性はあるだろう。

ブラジルの経済は森林破壊によって成り立ってきている。すぐに森林破壊ゼロになるわけでもないとはいえ、今後どのように森林を破壊して儲ける仕組みを変換させるのか、ブラジルから資料を得ている日本のような国や企業はどのように動くのか注意しては見守る必要がある。ルラ次期大統領が動物への配慮をしようとしているわけではないことにも注意が必要だ。気候危機には効果があっても動物の犠牲は残るという方法を選択する可能性もあるのだ。

そして、この記事を読んでいる日本の人々は、なによりも、まず工場畜産をなくすことに尽力をしてほしい。工場畜産という原因がなくならなけでば、ブラジルであれ、どの国であれ地球のどこかの自然が犠牲になるのだから。

参照

https://www.aljazeera.com/news/2022/10/31/lula-victory-spurs-hope-for-amazon-fight-against-climate-crisis
http://memoria.ebc.com.br/agenciabrasil/noticia/2003-03-26/lula-issues-provisional-order-authorizing-sale-transgenic-soybeans
https://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Reports/InterimReport/pdf/2005_04_11_02.pdf
https://www.agroportal.pt/the-brazilian-butterfly-effect-will-lulas-return-mean-that-the-mercosur-agreement-will-be-forced-through-by-the-eu-commission/
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0743016722000201
https://www.washingtonpost.com/business/even-a-lula-victory-may-not-restore-brazils-forests/2022/10/09/e9dd68b8-4826-11ed-8153-96ee97b218d2_story.html
https://jp.reuters.com/article/brazil-election-lula-idAFKBN2PS1IV
https://www.aa.com.tr/en/americas/lula-pushing-to-re-establish-brazil-on-world-stage/2726001
https://www.argusmedia.com/en/news/2375672-brazil-presidential-candidates-make-ag-industry-pitch
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ac97f6
https://www.nature.com/articles/s41893-021-00729-z
* グリホサート系除草剤「ラウンドアップ」でも枯れない遺伝子組み換え大豆 日本では平成13年3月30日に厚生労働省の安全性審査の手続きが終了し告示

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