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飼料生産という大規模プランテーションが地球に与える影響

気候危機の震源地のひとつは南米だ。人間の意志ひとつで止めることができるのに止めない森林破壊、生態系破壊のど真ん中であるためだ。西南極氷床の氷の融解を止める方法は複雑怪奇であるが、森林破壊だけは方法が明確なのだ。壊さなければいいだけだ。だが、それができない理由は、世界中が肉と卵、とくに鶏肉と豚肉、卵の消費を維持および増加させようとしているからだ。

飼料さえあれば、増加させることは容易だ。工場畜産という動物を物かゴミのように扱う残酷なシステムが既に構築されているためだ。日本のようなアニマルウェルフェアが遅れた国は歯止めのかけようもない。工場畜産を拡大させるための障害は飼料だ。畜産物の価格の6割は飼料代といわれるほど、飼料がなければ工場畜産のような畜産は成り立たない。

飼料生産のために、南米のアマゾンやセラード、グランチャコ、パラ、パンタナールなどの地域が壊されていっている(下記の記事参照)。開発時の炭素の排出だけでなく、その後ずっと続く単一作物の大規模な生産もまた、悪影響を及ぼし続ける。

森林を破壊するときに、土壌に貯留していた炭素を排出する。さらにそれまで炭素を吸収していた土地が排出源に変わるのだから影響は大きい。それだけではなく、飼料用大豆と飼料用とうもろこしを作るという単一作物の大規模プランテーションが地域の生態系を大きく変えていっている。

アマゾンの森林が消えると、その土地が数年後に大豆やとうもろこし生産のためのプランテーションに変わるため、飼料生産が一時的に増えるが、長い目で見ると真逆で、結果的に飼料生産量を抑制していく可能性がある。agro-suicide(農業の自殺)ともいわれる。ブラジル国立宇宙研究所 (INPE) のデータによると、ブラジルの年間降水量は、過去 40 年間の平均レベルと比較して、過去 10 年間でほぼ 17% 減少しているという。また、森林破壊が降水量に影響を与えており、ブラジル最大の大豆生産地であるマトグロッソ州ではすでに約 1 か月分の雨が失われ、近隣のロンドニア州では約 2 週間分の雨が失われたという*1*2。

アマゾンが破壊されると乾燥していく。アマゾンで降る降水の50%はアマゾン自体で作られた湿気によるものだがその循環が変わる。乾燥すると高湿潤な気候に最適化されていた木々が枯れていく。新たな研究によると、アマゾンでは3本の木が干ばつの影響で枯れると、干ばつの影響を受けていない4本目の木も枯れるという*3。アマゾンの適応力がもはや追いつかなくなっているのだという。そうなると坂を転がるように荒廃していくと分析されている。

南米は本来淡水が豊富な地域だが、ここ数年、ずっと干ばつに襲われ、水ストレスが常態化している。今年あった大豆は来年ないかもしれない、という不安定さがある。今現在もアルゼンチンの大豆ととうもろこし栽培エリアで干ばつが起きている*10。パラナ川(ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンにかけて流れる川)の支流でも枯渇が起きている*11。その周辺に広がるのもまた、大豆ととうもろこしの大規模プランテーションである。

もう、後戻りできないティッピングポイントを超えてしまったのではないか、、、とふと不安になる。

それでも世界は畜産物の消費、生産を変えようとはしない。不思議なことだ。

企業も国も、メディアも、こんなに”サステナビリティ””SDGs””気候危機”などと騒ぎ立て、取り組みをアピールしているのに、1日3度も行わう食べるという行為は変えなくてもいいと思いこんでいるのだろうか。それともこういった研究の結論を知らないだけなのだろうか。

この謎に対する研究も多く存在する。

例えば、温室効果ガスの排出が食肉の消費に与える影響はとても小さいことを示した研究*4があったり、一方で持続可能性に関する情報に関心のない人はそれに寄与する消費も少ないという研究*5もあるし、肉の需要が肉を回避するという行動を上回っているという研究があったり*6、肉の消費を正当化する心理バイアスが強いことを示す研究があったり*7、肉を食べたいという欲求が情報自体を避ける動機になっていることを示す研究があったり*8、、、

単純に見える森林破壊を止めれば気候危機の大きな解決の一手になる、というのは実は人々の心の問題で難しいものになっているというわけなのだ。

朗報としては、アニマルウェルフェアの重要性を伝えていくことは、畜産物の消費を抑える選択を促進させるという研究もあることだ*9。人々の心を動かすのは、自分の健康(残念ながら将来の世代の健康ではなく!)と、そしてアニマルウェルフェアなのだ。

*1 https://chinadialogue.net/en/food/agro-suicide-amazon-deforestation-hits-brazils-soy-producers/
*2 https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/joc.6335
*3 https://www.researchgate.net/publication/362439603_Recurrent_droughts_increase_risk_of_cascading_tipping_events_by_outpacing_adaptive_capacities_in_the_Amazon_rainforest
*4 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0950329322002300?via%3Dihub
*5 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0959652622030232?via%3Dihub
*6 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0309174022001115?via%3Dihub
*7 https://www.cambridge.org/core/journals/public-health-nutrition/article/rationalisation-of-meat-consumption-in-new-zealand-adolescents/AFB33B0BCB0ED7DE054686337D408515
*8 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0195666322000265?via%3Dihub
*9 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0272494422001165?via%3Dihub
*10 https://www.agriculture.com/weather/news/south-america-drought-woes-continue-despite-rain
*11 https://news.mongabay.com/2022/12/in-brazils-agricultural-heartland-rivers-run-dry-as-monoculture-advances/

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