もしも7万2千人が突然殺されたら、それはもう大変な騒ぎになることでしょう。しかし淡々ともはや騒がれもせずに静かに進む豚の大虐殺。
現時点までに昨年からの豚コレラにより72,106頭*1の豚たちが、殺されていきました。今日も、殺されています。
名古屋市付近にお住いの皆さまは、ぐるりと周辺を豚コレラ発生農場に囲まれていることに気がついているでしょうか。
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口蹄疫にしても、鳥インフルエンザにしても、今回の豚コレラ、そして今後入ってくるであろうアフリカ豚コレラにしても、畜産業、そこに投資する人々、そして税金を払う国民に打撃を与えます。
畜産業者は精神的なダメージを負うことでしょう。でも費用的負担は、後述する通り、そこまで大きくありません。
畜産業者は自身の土地に穴をほって動物の死体を埋める場所を確保しなくてはなりません。ずっとその死体は残っているというのは、近所の人々にとっては気持ちのいいものではないでしょう。土地の資産価値も下がるかもしれません。
投資家イニシアチブFAIRRは、投資家にとって感染症の蔓延があるため、畜産業や畜産物に投資をする事自体、リスクが高いとしています。
国民全員にとって関係することは、もちろん税金です。今回の豚コレラについて、手当金と特別手当金を合わせると豚1頭の評価額全額が補助される仕組みのようです。経営再開の融資も得られます。移動制限をされていた養豚場にも補助金が出されます。都道府県の負担の4/5は国が補填します*2。つまりだいたい国民全員で負担です。
アニマルライツセンターはせめて殺処分の方法の改善をと訴えていますが、もう一つ、豚たちのためにできることがあるとすれば、集約的に動物を飼育することを今後なくしていく運動を強化することです。
抗生物質の多くが畜産業、水産業に使われています。あたりまえです。数が多いし、集約的畜産をするために、弱々しい動物が多いのですから。弱者を利用し、なおかつ苦しめることを当たり前として集約的畜産は、それ自体が差別であるのと同時に、差別を助長します。普段の疾病管理の中でも、大量の動物を飼育していれば治療方法も殺すこと以外になくなります。もっともっとやすい畜産物を増やせという欲求は補助金なくして成り立たない業態を作り出しています。世界の哺乳類の60%、鳥類の70%が人間が飼育管理する動物ですが、その多さにより地球環境は疲弊していっています。
上記に示したようにいくつもの弊害があり、その多くが、将来的に人間社会に跳ね返ってくるものです。しかし、将来的な弊害に人々は気が付かないものですし、そのとき苦しむのは今生きている人間ではないかもしれません。つまりそれほど個々の人間自身に痛みはないのです。
人間の将来起きる不利益と比較すると、囚われ逃げ場のない動物たちが恐怖と痛みと絶望の中で殺されていくというその不利益は、あまりにも大きいものであると感じます。
*1 現時点での行政の発表数の総数 ※殺処分終了後に変更になる可能性があります
*2 http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/attach/pdf/shien_taisaku-22.pdf