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豚の外科的去勢、世界は廃止に向かう。日本は麻酔すら進まず

肉につくといわれる男性の匂い(オス臭は性成熟を迎えたさいにつく)が嫌だということで、日本中の肉用に飼育される男性子豚は去勢されています。その際、麻酔がかけられていません。下記の動画のように、陰嚢部分にカミソリやハサミで切込みを入れ(要するに体に切込みを入れ)、睾丸を手で引っ張り出します。生まれてから7日以内なら麻酔をしなくても大丈夫だという迷信があり、無麻酔で行われています。子豚の去勢は動物に激しい痛みとストレスをもたらすことがわかっており、子豚は悲鳴を上げ、激しく抵抗します。麻酔は必ず必要であり、同時に、すでに外科的去勢を廃止する手段が実用化されている現代は外科的去勢を廃止する方向に進まなくてはならない時代です。

外科的去勢は子豚に痛みとストレスをもたらす

外科的去勢は子豚に痛みとストレスをもたらすということはごく当たり前で誰もがわかることではありますが、きちんと研究で証明されています。

去勢を行うその時だけでなく、その悪影響は数日にわたり継続することも証明されています。去勢後2.5時間お乳を吸う行動が少なくなり、起きている間の行動が抑制されます*3。さらに最初の数時間は虚脱、硬直、震えが、少なくとも2日間は尻をひっかく、尻尾を振る、そして5日間の実験期間全体を通じて身を寄せ合うといった、去勢による痛みに関連した行動を有意に多く示しています。さらに社会的結束力の低下がみられ、去勢後2.5時間孤立し、24時間後には他の豚と同調しない行動を多く見せるようになっています。これらの行動変化は4日経った後もみられています。つまり痛みやショックが長期間持続してしまっていることを示しています。

局所麻酔によって痛みを示す行動が軽減*1することがわかっていますし、軽いイソフルランを投与後の局所麻酔のほうがより効果が高い結果が得られています*5。局所麻酔を行わずに去勢した場合、より合って横たわることが少なくなることもわかっていますし4、局所麻酔なしで去勢された対照群の子豚に比べて、子豚が尾の位置の変化などの痛みに関連した行動を示す頻度が低いこともわかっています。

しかし、去勢手術自体を行わないことのほうがよりアニマルウェルフェアが高いこともわかっています。局所麻酔は去勢中に経験する痛みの強度を軽減します。しかし、このプラスの効果は、長時間の取り扱いによるさらなる苦痛によって部分的に薄れてしまう*2事もわかっているし、麻酔効果が切れたときには痛みを示す行動を起こすのです。

つまり、麻酔は行ったほうが安楽であるが、苦痛や恐怖がなくなるのではないということです。

世界の取組み:外科的に去勢しないという方法

豚の外科的去勢は、すでに代替手段が有ります。方法は2つ。一つはオスのニオイつく前にはやめに出荷し屠殺する方法、もう一つは免疫敵去勢製剤を利用することです。

カナダ最大の養豚企業 メープルリーフ2022年に外科的去勢を廃止
外科的去勢手術に代わる免疫学的去勢製剤へ変更した
17過酷に拠点を持つブラジルの養豚企業 brf99%で外科的去勢を廃止
免疫敵去勢製剤を導入
世界最大の食肉加工会社 JBS100%外科的去勢を廃止
免疫敵去勢製剤を導入
日本に多数の畜産物を輸出するタイ最大の食肉企業 CP foods2019年から、世界の養豚産業で豚に行われる苦痛を伴う処置を減らすことを約束して以来、取り組みを継続。2022年6.37%廃止
英国・アイルランド・スペイン・ポルトガルこれらの地域では、早めに出荷して屠殺をするため、多くの場合去勢が行われていない割合が高い
2018年時点で英国98%、アイルランド100%、スペイン80%、ポルトガル85%

上記に示した3社は、豚に苦痛を与える処置、取り扱いを減らすことを決意し、それを公表もしており、そのうえで外科的去勢や断尾、歯切りなどの外科的処置を急激に減少させています。米国の企業の良い取り組みの証拠はあまり公表されていないようですが、日本の輸入元という意味ではカナダ、ブラジル、タイでの進捗は重要です。

世界の取組み:麻酔

EUでは長年麻酔無しでの去勢を廃止するべく、研究や規制をトライしてきていますが、段階的廃止を推奨しているというレベルに留まっています。ヨーロッパ全域での禁止は現状ではできていませんが、ノルウェー、スイス、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、フランス、オランダ(2018年時点で65%が去勢自体ししていない)、デンマークは麻酔なしの外科的去勢を禁止、アイスランドは法規制を確認できていませんが(アニマルライツセンターが把握できていないという意味です)2018年時点で99%の豚が麻酔をした上での去勢に切り替わり済みです。*7 8 9 10

また禁止されている国では、獣医師以外が局所麻酔をかけられるような規制緩和もなされています。

日本はどうか?

日本では議論すらありません。アニマルライツセンターでは企業との話し合いをはじめた当初から豚の外科的去勢の改善を求めてきましたが、依然としてすすみません。わたしたちは、次回動物愛護管理法改正では、世界と同様に、麻酔無しでの外科的手術や切除の禁止を求めています。

日本の課題は何でしょうか。以下のものがわたしたちが把握している課題です。

  1. 豚たちの痛みを減らそうという努力と意思が全く足りない
  2. 免疫敵去勢製剤について農林水産省も試すなどしていたというが、正式な研究になっておらず中途半端な状態
  3. 睾丸がある状態だと肉のランクを下げられると食肉企業が主張する=格付制度に問題がある
  4. 時代遅れの格付制度に問題があることがわかっているが、業界も国も改善に取り組んでいない

要するに、あまり動物の苦痛を減らそうという意思がなく、課題と言ってもそれを解決しようとしていないので課題と言えるほど大きな壁なのかどうかもいまいちわかりません。

外科的去勢をなくすことは、男性の豚が長期に渡る苦痛と苦悩を一つ確実に減らすことができる重要なアニマルウェルフェアです。麻酔なしの外科的去勢手術は間違いなく虐待です。赤ちゃんであってもです。同じ理論で考えれば、0歳時の皮膚をカミソリで切っても中から器官を抜き取っても痛みが少ないから許すと言っているものなのです。罰せられるべき虐待です。

真剣な検討を始めてもらえるよう、動物愛護管理法で罰則付きで禁止をすることを環境省、農林水産省に求めます。同時に、企業に対しては外科的去勢された豚肉を使わない方針に切り替えていくことを求めます。

*1https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10481369/
*2 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159108002918
*3 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159103000595
*4 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1751731110001291
*5 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7392247/
*6 https://www.mdpi.com/2076-2615/13/3/529
*7 https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/E-9-2022-000395_EN.html https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/E-9-2022-000395-ASW_EN.html#def2
*8 https://porcinehealthmanagement.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40813-016-0046-x
*9 https://www.researchgate.net/figure/Percentages-of-entire-males-immunocastrated-and-surgically-castrated-commercial-piglets_tbl1_311500610
*10 https://www.nationalhogfarmer.com/hog-health/researching-best-effect-of-anesthesia-for-piglet-castration
ML https://www.mapleleaffoods.com/wp-content/uploads/sites/6/2023/05/MLF_ANIMAL_WELFARE_REPORT_2022.pdf
brf https://www.brf-global.com/en//sustainability/animal-welfare/our-practices/pork/
JBS https://jbs.com.br/wp-content/uploads/2023/10/blue-ENGLISH-04OUT23-Relatorio-Bem-Estar-Animal.pdf
CP https://www.cpgroupglobal.com/en/sustainability/health-living-well/health-and-well-being

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