2020年11月5日、今冬はじめて香川県の養鶏場で鳥インフルエンザが発生した。その後鳥インフルエンザは、福岡、兵庫、宮崎、奈良、広島、大分、和歌山、岡山、滋賀、高知、徳島、千葉、岐阜、鹿児島、富山、茨城と各地に拡大し、その殺害数は現時点で(2021年3月10日)9,660,819羽にのぼる。
殺された家禽は「採卵用鶏」「肉用鶏」「種鶏(卵用や肉用の鶏の親を飼育する農場)」「アヒル」だ。
「防疫」の観点から短時間(目安として屠殺は24時間以内、死体の処理(埋却焼却)は72時間以内)*で農場の家禽をすべて殺すことが求められる鳥インフルエンザの家禽殺処分を、安楽死だと思う人はよもやいないと思うが、安楽死ではなく、虐殺であることを記録しておきたいと思う。
動画は今冬鳥インフルエンザが発生したアヒル農場における殺処分の様子だ。鳥たちが安楽に殺されているように見えるだろうか?
殺処分の過程を初めから終わりまで確認できたのは二回。いずれも鳥たちをコンテナの中につめるだけ詰め込んでガスを注入、蓋をして置いたのちに、蓋をあけて死体を密閉容器であるペール缶に移動させるという手順で、殺処分は行われた。
コンテナに詰め込む羽数 | ガス注入時間 | 放置時間 | |
大きめのアヒル | 約70羽 | 30秒 | 11分(ガス注入2分後及び6分後に中の様子を確認してガスを追加) |
小さめのアヒル | 約130羽 | 15秒 | 23分(ガス注入13分後に中の様子を確認、ガスは追加せずさらに10分放置) |
70羽詰め込まれた大きめのアヒルのほうは、防疫作業員がガス注入後の2分後及び6分後にコンテナの中の様子を伺った。死にきれていなかったのだろう、ガスが追加で注入された。だが小さめのアヒルのほうは、コンテナの中が確認されたのはガス注入のじつに13分後(その間防疫作業員は誰もコンテナの付近にいなかった)、ガスが追加注入されることなくさらに10分放置された(その間も防疫作業員は誰もコンテナの付近にいなかった)。
動物をガス殺するときは通常、密閉度が高く、中の濃度が確認できて、かつ中の様子が見えるような透明の窓がついている専用のガス殺処分機を使用する必要があるだろう。しかし鳥インフルエンザ発生農場で使用されているのはただの青色のコンテナ。食品工場や食肉工場、水産加工場などで使用されるただのコンテナだ。こんなものでは安楽死の実現には程遠い。
使用されるガスは二酸化炭素だが、二酸化炭素ガス殺は安楽ではない。即時の意識喪失はできず、家禽に対して嫌悪感があることが分かっている。苦しませないようにという配慮が少しでもあるなら家禽に嫌悪感をあたえない不活化ガスであるアルゴンを使用すべきだが、「値段が高い」という理由からおそらくこういった苦しみの少ないガスが使用されることはないだろう。二酸化炭素でも、はじめ低濃度で注入し、その後高濃度に切り替えるという段階式注入を行えば、苦しみを軽減することは可能だが、そもそもそんな「段階式」ができる殺処分機は用意されていない。あるのは動画の様なコンテナか、バケツだ。
動画には死にきれていなかったためコンテナの中に戻されている一羽のアヒルの様子が映っている。この動画には収めていないが、他にももう一羽、死にきれずにコンテナの中に戻されたアヒルがいた。いずれも大きめのアヒルのほうなので、これらのアヒルはガス注入後の11分間を苦しみに耐えたが、死にきれなかったということになる。長い時間だ。だけではない。死にきれなかったアヒルはコンテナに戻されている。つまりこの次の回の殺処分で再びガス注入の苦しみに耐えなければならない。だがガス殺の前に、もしかしたら上から上へ放り込まれる他のアヒルたちの重みで窒息死・圧死する可能性もある。
表でわかるとおり、大きめのアヒルで70羽、小さめのアヒルで130羽がコンテナの中に一度に詰め込まれている。現場で見ていると、最後のほうにつめこまれたアヒルがコンテナのヘリから飛び出しそうになっていた。このことからアヒルたちはコンテナの中に山盛りに詰め込まれていることが分かった。だが日本も加盟するOIE(世界動物保健機関)の陸生動物衛生規約 第7.6章 「疾病管理を目的とする動物の殺処分」には何と書いてあるだろうか?
コンテナ又は装置は、過密にならないものとし、お互いの上に登ることによる動物の窒息を防止する措置が必要である。
ガス注入後、コンテナからペール缶に移動されたアヒルのうちの一羽に、翼の動きが見られることが動画から分かるだろう。防疫作業員も「おや?」というようにこのアヒルを見たが、コンテナに戻そうとはせずにそのまま作業を続けている。逃げる元気もなく、弱弱しく死んだも同然なので「もう構わない」と思ったのか、どうなのかはよく分からない。いずれにせよ鳥インフルエンザの殺処分の現場でこういったことがたびたび起こっていたとしても不思議とは思わない。動画の隅から隅まで見ても、「一羽一羽への丁寧な配慮」「命への畏敬の念」などを見つけるのは困難だからだ。
個々の防疫作業員の倫理観にも左右されるだろう。確認できた限りでは、ペール缶に移動したあとに生きていることが分かりコンテナに戻されたアヒルは2羽だったが、いずれもこれは同じ作業員によって行われた。この人はペール缶に移動するときも死んでいるかどうかを丁寧に確認しているように見えた。またアヒルをコンテナに入れる作業も、他の防疫作業員で見られた「投げ入れる」という手技は見られなかった。だが皆がこうではない。屠殺は24時間以内、死体の処理(埋却焼却)は72時間以内を目安に行われる作業ではスピードが優先されるだろうし、この体力仕事を一日続けていれば最後には雑にならざるを得ないだろう。
いずれにしても作業員個人が倫理観を持つもたないにかかわらず鳥が苦しむことに変わりはない。コンテナに戻されてもさらなる苦しみが襲うだけだ。
頭の付け根を持ってアヒルは移動させられているが、これはどうなのだろうか?下の写真は畜産動物の苦しみの少ない殺し方の研究を行うHSAのサイトに掲載されている写真だが、「短時間であれば首の付け根を持って持ち上げることができる」とある。 Practical Slaughter of Poultry Ducks
頭の付け根を持つというのは誤りのような気がするがこれはもう少し調べてみる必要がある。
動画ではアヒルがコンテナに投げ入れられる様子が見られるが、動物を投げるのは調べるまでもなく誤りだ。
この動画の方法で殺処分を行っていた自治体には、これから意見書を提出する。その結果については当法人のサイトで公開するつもりだ。→コチラをご覧ください。
意見することでどこまで改善されるかは分からない。そもそも改善されたかを確認することはできない。基本的に鳥インフルエンザ殺処分は農場の外から見ることはできない。今回のようなケースはまれなのだ。
農場の中や、家禽の殺処分の現場で何が起こっているか、動物がどのように扱われているかを知ることはできないと思ったほうがいい。アニマルウェルフェアを謳っていてもそれは同じだ。「アニマルウェルフェア農場」だろうがそうでなかろうが、どちらでも動物が苦しんでいることは内部告発で明らかになっている。内部告発でもない限り、畜産の現実を外部の者が知ることは決してできないことを忘れてはならない。
それならば鳥の苦しみに加担しないために、私たちにできることは何だろうか?その答えは私たちの毎日の食卓にある。
鳥インフルエンザは農場の工場化・大規模化に伴い広がってきた。家禽由来の畜産物の消費は拡大を続けており、これが今後も続けば鳥インフルエンザ殺処分がこの先終息に向かうことはないだろう。
だが畜産が縮小に向かえば話は別だ。そのためにどうすればいいか?それは、毎日の食事から畜産由来の食べ物を減らすということだ。これは誰もが試すことができるもっとも簡単で効果的な方法だ。
鳥インフルエンザ 2020-2021年 安楽殺ではなく虐殺 ”熱死””窒息死”
*「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」令和2年7月1日
24 時間以内のと殺の完了と72 時間以内の焼埋却について
早期封じ込めのためには、患畜又は疑似患畜の迅速なと殺とその死体の処理が重要であることから、24 時間及び 72 時間以内という一定の目安を示しており、当該目安については、防疫措置に特段の支障が生じない環境下の農場において、肉用鶏平飼いで5から 10 万羽程度の飼養規模を、採卵鶏ケージ飼いで3から6万羽程度の飼養規模を想定している。
1日でも早くたくさんの動物が助かりますように
みなさんも肉食を減らしていきましょう。もちろん、私も取り組もうと思います。