OIE(世界動物保健機関・通称 国際獣疫事務局)は、すでにある動物福祉規約の改訂も行いますが、今回の改定の対象になったものは『と畜に関するコード』でした。改定案が示され、それに対して各国がコメントを提出するという段階にあります。
農林水産省は、6月30日に国内の専門家の意見を聞くOIE連絡協議会を開催し、改定案の説明と修正案の提示を行いました。残念ながら改定案全体は開示されておらず、全体像はわからないものの、少なくとも農林水産省が提示した修正案には問題がありました。
以下が修正案を記した資料のキャプチャです。
OIEが示した”容認できない行為”=虐待とされる行為に対し、日本政府は緩和策および一部削除を提案しているのです。
アニマルライツセンターからは以下の要望を出しました。結果はおそらく来月ごろにわかるものと思います。日本政府、これまで示してきた通知のように虐待をなくしたいと思っているのか、それとも、それは建前で実際には虐待を行うことができる環境を保守したいのか、意志を見極める機会になります。
OIEで改訂を検討している「と畜に関するコード」案に関し、我が国から提出する修正案に対し、下記の通り要望いたします。アニマルウェルフェアの適正な基準づくりにむけ、お取り組みくださいますよう、お願い致します。
修正案1:ただし、動物、動物取扱者及びその他の人員の安全を確保するために必要な場合はこの限りではない。について
曖昧な表現を残すことで、意図しない多くのケースに当てはまり、この章の本来の目的を全く果たせないものになります。
修正案にある除外の理由は、と畜場に限らず多くの動物虐待が行われる場で、言い訳として利用される文言です。動物の安全のために蹴ることが必要だった、などです。主観的に判断できてしまう文言を残すことは、虐待防止においてはその機能を奪います。
なお、危険な場合に備えては、電気棒などを通常持っています。また板やパドルなども動物との距離を取るためには有用です。さらに、安全を確保しなくてはならない場合に動物に対して恐怖や痛みを与える行為は、より危険を大きくするだけです。
もともと、この新たな章で規定されている”やってはいけない行為”には、かなり極端なものが記載されています。
またこれらの取り扱いの禁止事項はもともと第7.5.2条 動物の移動及び取り扱いに含まれている内容であり、この中では「動物は、危害や苦悩や怪我することの無い方法で取り扱われること。どのような状況においても、動物を扱う人は、動物を移動するために、動物の尾を砕いたり壊したり、目をつかんだり、耳を引っ張る等の暴力行為に訴えないこと。動物を扱う人は、有害な物や刺激物質を、特に目、口、耳、生殖部分や、腹部等の敏感な場所に、決して使わないこと。動物を放り投げたり投げ落としたり、尾、頭、角、耳、肢、毛、羽根等の体の一部をつかんで引きずったり持ち上げたりすることは許可されない。小動物を手で持ち上げるのは許容される。(アニマルライツセンター仮訳)」と規定されており、これらを許容するように修正案を出すことは日本の動物の取り扱いがひどいことを露呈するようなものでもあります。
実際、牛のしっぽをねじり上げ骨を折ることで動けなくなった牛を動かそうとする行為、執拗に又は通常の行為として豚を蹴り続ける行為、豚の耳をつかんで引っ張る行為、疾病や怪我で動けなくなった牛や豚の後ろの片足を意識あるまま吊り上げて移動させる行為など、日本のと畜場では日常的に散見されます。
農林水産省から出された修正案を見る限り、農林水産省としてはこれら虐待行為を問題視せず、養護する立場であると、理解しました。もしもその解釈が誤っていて、動物虐待を排除したいという思いがお有りでしたら、以下のように修正をいただけますようお願いします。
修正案の代替案1
修正案を削除する
修正案の代替案2
動物が怪我や疾病で動けなくなった場合、動物に苦痛を与えない方法で体の複数の肢をつかんで持ち上げることは許容される場合がある。
修正案の代替案3
動物福祉や人の安全が損なわれる緊急事態で、かつその他の代替手段がない場合には、蹴る行為は容認される場合がある。
修正案2:f)チェーン、ロープ、または人間の手を含む、いかなる方を以て、(動物の)体のいかなる部分を用いて動物を引っ張ること。の削除について
通常と畜場では、動物が自発的に歩ける状態で移動させており、ロープやチェーンなどで引っ張る行為が必要になるケースは、基本的に動物が恐怖を感じたり障害や疾病等で歩行困難な状態になっている状態を指しており、そのような動物を無理やり動かそうとすること自体がすでに動物の福祉を著しく阻害しています。
もともとのOIEコードでは、動物特有の習性を利用して、必要な方向へ自由に動物を移動できるよう設計及び建設されるものとするとされており、ロープやチェーンなどで引っ張らなくてはならないケースは設計に不備があると考えるべきです。
これらの理由から、修正意見2についてはアニマルウェルフェア上も認められず、修正案自体を削除していただけますようお願いします。
以上、日本からの修正案を再考頂けますよう、お願いいたします。
2022年7月12日