豚と牛の屠殺場では、日本でも基本的には気絶処理をしてから、首を切り失血死させます。しかし、この気絶処理は100%なされているわけではありません。失敗するからです。
気絶処理が正しく機能すれば、動物は最後の段階における苦痛と恐怖を軽減することが可能です。そのため、気絶処理の精度を上げ、失敗を減らす努力は常に継続されなくてはなりません。人間側から見た1度の失敗でも、その動物にとっては100%の失敗であり挽回の余地はありません。
この日本の動画は、ごく一般的な屠殺場のものです。失敗はごく一般的に起こります。屠殺場を見学に行った人は、自分が見た瞬間だけを100%の情報として「とても上手に行われていた」「失敗はない」など述べたりする人もいますが、一方で情報が集まってくる動物保護団体である私たちはそのように話す人もいれば「眼の前で失敗して立ち上がったよ」という人の話も耳にするのです。最も正確な情報を持っているのは現場従業員です。彼らはごく日常的に失敗する現場を目撃しています。
これは海外も同様です。
などなど、たくさんの研究が行われ、改善策も研究されているのです。
屠殺場のアニマルウェルフェア改善の第一人者であるテンプル・グランディンは、1999 年に監査が開始される前の牛の屠殺場は劣悪であり、気絶処理の成功の割合は非常に少なく、監査が始まってからは90%成功するようになったと述べています。
日本が海外より劣る点は、監視の目がないことと、また改善のための提案が何もなされていないこと、議論もないこと、そして上記のようなデータもないことです。状況から考えると、日本の屠殺における失敗率は他国よりも高いことが想像できます。
屠殺は目をそらしたい人がほとんどでしょう。自分は食べないからという人もいるかも知れません。しかし、目をそらしていれば状況は永遠に変わらず、動物は苦しみ続けます。国内で毎年約10億頭の動物が屠殺や殺処分され続けています。この動物たちの苦しみを見て見ぬふりしないでください。目を向け、議論する覚悟を持つ必要があるのです。それは、国民全員であり、生産者自身もです。
実態を正確に把握し、分析し、議論し、そして現場のすべての人々の意識向上につながって初めて、動物たちの苦しみが減るのです。
*1 https://www.grandin.com/references/maintain.good.standards.auditing.html
*2 Gregory N. Anatomical and physiological principles relevant to handling, stunning and killing red meat species. Proc Int Training Workshop Welfare Standards Concerning the Stunning and Killing of Animals in Slaughterhouses or for Disease Control, September 26–29 2006 Bristol. Available from: Humane Slaughter Association, The Old School, Brewhouse Hill, Wheathampstead, Hertfordshire, AL4 8AN, UK
*3 Assessment of Cattle and Pig Welfare at Stunning in Commercial Abattoirs, Sophie Atkinson
*4 https://www.researchgate.net/publication/263264458_Identifying_reasons_for_stun_failures_in_slaughterhouses_for_cattle_and_pigs_A_field_study
*5 https://www.researchgate.net/publication/350851111_The_effect_of_slaughtering_skills_on_the_welfare_of_cattle_during_stunning_with_a_captive_bolt