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2022年企業交渉の成果と飛躍

この記事執筆時点でまだ11月ですが、今年2022年は、アニマルライツセンター「畜産アニマルウェルフェア企業交渉」の歴史にとって、間違いなく飛躍の年となるでしょう。別の言い方をすれば、ここからが新しい時代へのスタートということです。そんな節目の今、これまでの企業交渉の歴史を振り返りつつ、飛躍の理由を分析します。

ARC企業交渉の歴史

SDGsの時代にサプライチェーンの流れを意識して、その下流の企業に働きかけ、上流の生産者を変えていくというのが、アニマルライツセンターの企業交渉です。

ARCは2019年から企業交渉専門スタッフを採用し、畜産動物の苦しみを減らすため、企業との対話に大きな力を注ぐようになりました。しかし当初はNGOと話し合いに応じる企業は、とても少ないのが実際で、ひと月に一件の企業とも話合いができないこともありました。

当時の企業の反応といえば、悪気はないが無関心そのもので、動物保護団体と名乗るだけで電話を切られたり、こちらの話を最後まで聞くのも時間の無駄といった冷ややかな態度で、取り付く島もない現状でした。

そのようなアニマルウェルフェアに冷淡な風潮のなか、当時の企業交渉は、卵など畜産物の使用量あるいは生産量の多い企業や、サスティナビリティやエシカルに敏感で、NGOとの協業にも積極的な大企業との間で進んでいました。

そういった企業は往々にして、海外の団体からも注目され、国際的なキャンペーン(デモ、不買など)のリスクを抱えていることもあります。市民との対話の場で誠実な対応をすることは、潜在的なリスクを減じる効果があり、むしろ企業価値を上げる好結果につながります。

その代表格が2021年11月に母豚の妊娠ストールフリー宣言をした日本ハムでした。アニマルライツセンターとの話し合いに踏み切ってからは、順調に取り組みに邁進し、宣言して以来、アニマルウェルフェアについて語るとき、日本ハムの名前が出ないことはありません。当時から話合いをしている他の企業も、国内では評価されるアニマルウェルフェアポリシーをホームページに公開するなど、この分野のリーディングカンパニーの地位を築きつつあります。

日本ハム以来勢いづいた

この日本ハムのストールフリー宣言は私たちの企業交渉にとって、明らかに交渉数の増加という結果をもたらしました。どういう影響のしかたをしたのか、それが世情の変化なのか交渉スタッフの気持ちの変化なのか。いまそれを分析することは今後の展開の戦略に結びつくでしょう。

とくに明確な進捗が見え始めたのが、2021年11月でした。それまでにひと月に2件あるかないかの正式な話し合いが、その時を境に5件、6件と飛躍していったのです。

飛躍の理由① オンライン会議の定着

2019年11月、私たちは台湾で開かれたオープン ウイング アライアンス(OWA)の国際サミットに参加し、日本に似た風土の国でケージフリー宣言した外資系スーパーを見学しました。

この時のサミットではこの外資系スーパーのケージフリーが大きなトピックで、担当者たちの詳細な報告があり、それを聞いた私たちは、地元動物保護団体からの働きかけと企業内の協力者の存在のマッチングが上手に作用すると、ケージフリーのような大きな変革が実現するイメージを持ちました。

同時に気候風土は似ていても、企業の体質には台湾と日本には大きな温度差があるのを感じました。事実、その海外とのいわゆる企業風土の違いには、それから3年たった今でも悩まされているのです。

サミットから2か月後の1月には、326人が渋谷に集まり「すべての動物に思いやりを」を訴えるデモが、アニマルライツセンター主催で開催されました。そのあとの懇親会では、それほど広くもない会場に、何十人もの活動家が集まり美味しいヴィーガン料理を分かち合ったのが遠い昔のことのようです。

そのころから世界のどこかで、未知の感染症の被害が出たとの報道が始まっており、それはあっという間に日本に襲来し、3月末にはそれまで仕事をしていた事務所は閑散として、スタッフはそれぞれの自宅で仕事をすることになったのです。

感染拡大を防ぐため、緊急事態宣言に入ったのは翌4月でした。コロナ感染が拡大し始めた時から、私たちは渋谷で開催していたセミナーに代わるウェビナーをオンライン配信で提供しており、その関係でオンライン会議システム「zoom」を早くから導入していました。緊急事態宣言下で休眠状態に見える企業もある中で、企業交渉もストップするかとおもいきや、オンライン会議という形の交渉が始まったのです。

もちろんすべての企業がすぐに対応してくれたわけではなく、当初は「ウチはオンライン会議なんて危険だからやらない」と拒否されるケースも多く、回線がつながらないなどの失敗もありました。しかし現在ではほとんどの企業がオンライン対応ができるようになり、その結果、企業交渉の範囲が地方へと広がり交渉相手の「パイ」自体が大きくなったのです。

飛躍の理由② 企業交渉スタッフの増強

前述のように2019年からアニマルライツセンターは、企業交渉に特化したスタッフの増強を図っています。とはいえ通常の動物保護からは想像がつきにくい職種のためか、人事は数年難航していました。それでも現在は、動物への想いが深く、実務能力に優れた専従スタッフが企業交渉に従事しており、とくにこの1年は目覚ましい成果を上げています。アニマルライツセンターはコロナ禍に定着した在宅勤務を採用しているので、今では地方在住のスタッフの方が多く、リモートは人材の確保にはこれからも優位に働くと思われます。この先必要十分な人数まで補強されれば、アニマルライツセンターはさらに社会を変える大きな力となり、アニマルウェルフェアの実現も射程に入るものと確信します。

なお、企業交渉スタッフの公募も開始しておりますので、関心のある方は公式サイトスタッフ募集ページをご参照ください。

飛躍の理由③ 学びの新しい形態 オンラインの成果

コロナ禍で変化したものと言えば、イベントや講習、セミナー、大学の授業などがオンライン開催されるようになったこともその一つです。

2019年の4月の緊急事態宣言以来、わたしたちは交渉のオンライン化を積極的に進めてきました。さらにコロナと東京オリパラがどうなるかのダブルパンチに見舞われていた、すでにケージフリー宣言をしている外資系ホテルのサポートをすることで、サプライチェーン内の各業者との連携を深めました。

ところでこの記事のタイトルは2022年の飛躍ですが、それ以前のコロナ感染拡大期にも、ピンチをチャンスに変える想定外の飛躍があったことが、今年の飛躍の方向性を決定しているとも言えます。

そしてその方向性という点で忘れてはならないのは、移動ままならなかった2020年のコロナ感染拡大期に、家にいながらにしてさまざまなセミナーや講義の受講ができるようになり、企業のCSRやビジネスの全般、交渉の進め方など「企業の論理」を学ぶ機会を得ました。

気軽に外国へ行けた2019年に、台湾で見聞きした当地のケージフリー運動のようには日本は進まない、あのやり方では日本ではうまくいかないだろうという一種の絶望感が、いつも心にひっかかっていました。

それを埋めるのに、コロナ禍は絶好の機会をくれました。動物保護団体のスタッフには遠い存在だった学びに手が届くようになってからは、私たちは自分たちから企業に、企業の言語で話しかけられるよう成長していったのです。その成果は緊急事態宣言から1年後には、交渉数の圧倒的な増加という結果に結びついていきます。

以上の3つの理由から、アニマルライツセンターの企業交渉は今年、飛躍を遂げました。その数は2021年の年間14件に比べると、驚くことに10月末の段階で122件と伸びています。(件数は新規で、かつ予約をした上での正式面談の数。電話通話のみ・メールのやりとりのみ・伝手を辿った案件をふくまない。電話・メールでAW宣言に進む例もある)ただし、この数は単純に多ければよいというものではなく、年間面談が少なくとも、内容の濃い話合いをしている場合があります。コロナ前にはそういった交渉スタイルであったともいえますが、ここしばらくは内容とともに裾野を広げ、アニマルウェルフェアの底上げをする交渉を続けていきます。

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