2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックの調達委員会がひらかれている。
第9回持続可能な調達ワーキンググループでは、アニマルウェルフェアについて、アニマルライツセンターも提案づくりの一部を担い、持続可能性ディスカッショングループの委員である枝廣淳子氏(環境ジャーナリストであり、有限会社イーズ代表取締役である)が、これまでの議論の中に欠けていたNGO、消費者、世界的な動向という視点から、アニマルウェルフェアについて紹介、提案を行った。
これまでの調達ワーキンググループの中でも、アニマルウェルフェアは数度話題にのぼっている。
※注意※要点のみしか議事録が公開されていない
農林水産省生産局畜産部畜産振興課長 藁田氏はOIE指針やCODEXに沿った法令やガイドライン等が整備されており、食品安全や家畜の健康、環境保全等が確保されているとの旨を発言している。
さらに公益社団法人 中央畜産会はアニマルウェルフェアには言及しておらずエコフィードに言及。
農林水産省管轄の公益社団法人 畜産技術協会は、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」(畜産技術協会作成)をOIE指針に沿って整備しているという国の動向を発表している。
しかし、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」は、OIE指針が規制すべきとするものを「こんな方法がある」と言い換えをしたあくまで飼養方法の説明にとどまるものであり、かつ現状は畜産技術協会に所属する指針であり国のガイドラインではない。さらには、「かなり実践されている」との発言もあるが、畜産技術協会の行ったアンケートを見る限りもアニマルウェルフェアはほとんど実践されておらず、この発言には根拠がない。
※議事要旨及び配布資料より
帝京科学大学の動物行動学者である佐藤衆介教授の資料では、アニマルウェルフェアが動物の健康、食の安全に通じるものだという認識の確認と、前回の議論からは一歩進み、OIE指針の担保として現在策定中のISO(ISO/TS 34700)を利用することが可能なのではないかという提案が行われているが、佐藤教授が欠席であったため発表は行われていない。
また、ロンドン大会、リオ大会における食料調達コードの一部が紹介されているが、簡易化されておりアニマルウェルフェアまでは読み取ることができない。実際には両国共に、バタリーケージではない卵(ロンドン)、ケージ飼育ではない卵(リオ)など、OIE指針を遥かに上回り、現在の国際的なアニマルウェルフェアの流れに準じた畜産物が調達されている。
その後の発表では、農林水産省が進めたいJ-GAPのシステムについて情報共有がなされています。さらに、J-GAPよりも歴史が古く、またレベルも高いGLOBAL GAPの説明が行われていrます。その説明の中には世界のアニマルウェルフェアの対応状況が含まれています。有機農業についてのプレゼンも行われていますが、主に農産物についての内容のみとなっているが、議論の中で有機畜産にアニマルウェルフェアの観点から言及されている。
その後の水産資源についての資料には、FAOの要求する養殖におけるガイドラインが紹介されており、この1項目目にアニマルウェルフェアについてが記載されている。
持続可能性に配慮した調達コードの基本原則的な箇所の素案が出されているが、この中にアニマルウェルフェア、または人の管理下の動物への配慮は一切含まれていない。
リオ大会では基本原則からアニマルウェルフェアが含まれてきたところから考えると、大きな後退である。
個別の畜産物の調達に置けるポイントとしては、「快適性に配慮した家畜の飼養管理」という日本的な表現でアニマルウェルフェアが出ているものの、基本的な考え方の中に動物への配慮が含まれていないことは大きな懸念点だろう。
さらに議論の中では、ロンドンオリンピックでは平飼いが推奨されているが、日本はOIE指針を基準にしているため「は違う観点で議論」がされてきたとする畜産技術協会による発言がある。
しかし、たんに日本はアニマルウェルフェアへの取り組みが世界から取り残されているに過ぎず、決しては違う観点で議論されてきたから、OIE指針程度で良いと落ち着くべきではなく、OIE指針や日本の平均に沿ってバタリーケージやケージ飼育の卵を使うようであれば、それは明らかな畜産物のレベルの低下となる。
さらに畜産技術協会は、「アニマルウェルフェアの考え方は、家畜が快適な環境で飼われていて、健康である ことが一番大切である。施設がどうであるかというよりも、家畜がどういう状況にあ るかが問題であり、仮に放牧していても過酷な環境で、えさなども満足に与えられて いなければ、アニマルウェルフェア的ではないことになる。トータルで家畜が健康で あるということが重要で、EU の考え方が全てではない。ウェルフェア的にはウインド ウレス鶏舎で飼うこと自体が問題にならない。」と発言。
これはあからさまなミスリードであるといえる。国際的に議論されているアニマルウェルフェアには、すべて科学的な根拠があり、その根拠に基づき、ケージ飼育はアニマルウェルフェアに配慮されたものではないと結論付けられているのだ。この点において議論の余地はない。
それでも、現在の日本の92%の養鶏場がバタリーケージ飼育であり、しかも農林水産省が巨大なバタリーケージのウィンドレス鶏舎に対し助成金を出して増加させている最中であるために、日本政府は世界的なスタンダードを受け入れることができずにいる。
これまでの議事を受け、日本の状況や、海外の流れ、そのなかで日本の法規制やOIE指針がどのような立ち位置にあるのかが委員に伝わっていないのではないか、と考え、資料を作成した。
World Animal Protectionの格付けによると、日本の畜産動物の保護に関してはランクが大変低いものになっている。
北京大会のあった中国はC
ロンドン大会のあった英国はA
リオ大会のあったブラジルはB
そして東京大会が行われる予定の日本はD
と、4大会の国を比較すると最も低いレイティングである。
枝廣委員の発表に対し、畜産技術協会は8回議事の内容を説明し、また、佐藤教授はISO認証を推奨している。その他、公益社団法人 中央畜産会は日本の畜産物は「特定の国の特定の基準で日本産畜産物が排除されることのないように、国際的基準で ある OIE コードを採択してもらい・・」と発言しているが、当然のことながらアニマルウェルフェアは特定の国の特定の基準ではなく、科学的根拠があり、さらには中国やアフリカ地域などでも採用されつつあるものである。日本の畜産業界は、まずは日本の現状が特異なものになりつつあることを冷静に認識しなくてはならないのではないだろうか。
今後は11月末から12月にかけてパブリックコメントの募集がある様子である。私たちアニマルライツセンターも、引き続き、多方面への働きかけを行う予定である。
しかし、委員会は公開での傍聴も行うことができず閉鎖的であり、また、現在の議論の流れや委員の校正を考えると、東京大会でアニマルウェルフェアのレベルが大きく後退する可能性が高いといえる。
欧米は市民の声によってアニマルウェルフェアに配慮されたものに市場が切り替わってきているが、それは動物を苦しめるものを食べたくない、アニマルウェルフェアに配慮されていないものは不健康であり安全性が低いという認識によるものだ。
日本にオリンピック・パラリンピックのために来日しても、私たちは日本の畜産物をそのような意識を持つ人に心から進めることができるのだろうか。はたしてそれは、良心的なオモテナシといえるのだろうか。