現在、EUと日本の貿易協定の交渉が進められている(追記:2019年2月の発効しました。詳細はコチラ)。
EUは畜産動物福祉を優先事項と位置付けており、その取り組みは日本よりもはるかに進んでいる。それはEU圏内にとどまらず、世界規模で畜産利用される動物の生活を向上させようとしている。
そのためEUは、WTOに動物福祉を貿易障壁とするよう交渉したり、世界動物保健機関(OIE)や二国間の自由貿易協定(FTA) を通じて動物福祉の基準導入を働きかけている1。つい先日2017年5月22日もEU委員会はアルゼンチンと合意書に調印した2。その内容は、EU委員会が貿易相手国と動物福祉について協力すること、OIE(世界動物保健機関)に沿った動物福祉の実装にともに協力してくことに合意するものだ。
追記:2021年7月15日、欧州委員会は、メルコスール(南米共同市場)との前例のない自由貿易協定(FTA)で合意された条項を発表。EU市場へ殻付き卵を輸出するときに関税撤廃を受けるためには、Council Directive No. 1999/74/EC(採卵鶏のバタリーケージを禁止する指令)もしくはそれと同等の動物福祉基準の証明書を添付することが求められることになった。15 Jul 2021 EU-Mercosur trade agreement: annex on tariff elimination schedule
日本とのEPA交渉も例外ではない。しかしEPA交渉で畜産動物の福祉が議論されていることを日本は公にしていない。外務省のサイトをみても、そのようなことは記されていない。
これについて、2017年1月20日、参議院の舟山 康江議員が政府に質問主意書を提出している。
(質問主意書、答弁詳細 http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/193/syuisyo.htm)
国会での質問主意書と答弁
一 私が第百九十二回国会に提出した質問(第百九十二回国会質問第一一三号)に対する答弁(内閣参質一九二第一一三号。以下「答弁書」という。)の一の6についてでは、日・EU経済連携協定交渉の経緯を開示することは、相手方との信頼関係を損なうおそれがあること等から困難である旨示されたが、日・EU経済連携協定については、すでにEUの執行機関である欧州委員会のホームページで交渉に係る文書が公開されており、直近では第十七回会合の交渉内容が掲載されている(Report of the 17th EU-Japan FTA/EPA negotiating round Brussels, 26-30 September 2016)。交渉内容を文書で公開することに日EU間の合意があることは明らかであり、当該文書に示された範囲であれば、日本が交渉内容について公開してもEUとの信頼関係を損なうおそれはないことから、前記第十七回会合に係る文書で明らかにされているテーマなどについて、日本が重要と考え、交渉に力点をおいている内容、懸案・対立点などを示されたい。
二 前記一のEUが公開している第十七回会合に係る文書の前文および11.2に見られる「Animal Welfare」とは何か明らかにされたい。日・EU経済連携協定の交渉において「Animal Welfare」の議論が行われていることは、日本国内にはまったく伝わっておらず、場合によっては日本農業・畜産に多大な影響を与える問題となる。当該議論の内容を明らかにされたい。
三 EUでは日・EU経済連携協定の交渉内容をすべて議員・国民に開示しており、国民的議論および業界的対応が進んでいる。日・EU経済連携協定は、日本とEUが対等の立場で交渉し、各国の議員・国民も同協定の交渉内容を理解していることが前提の協定であるから、日本もEUと同様に同協定の交渉内容を議員・国民に開示する責務がある。TPP協定は構想段階から完全秘密主義であり、守秘義務があったが、日・EU経済連携協定にはそのような守秘義務はないと聞いており、同協定の交渉内容を開示できない根拠は何もないと考えるが、守秘義務など交渉過程を開示できない協約がEUとの間にあるのであれば、その根拠や内容を示されたい。
答弁
一について
お尋ねについては、先の答弁書(平成二十九年一月六日内閣参質一九二第一一三号)一の2、3及び5について及び一の6についてでお答えしたとおりである。二について
我が国と欧州連合との経済連携協定交渉において、お尋ねの「Animal Welfare」について、我が国と欧州連合との間で議論を行っていることは事実であるが、現在交渉中であることから、交渉に係る個別具体的な内容をお答えすることは差し控えたい。三について
御指摘のような「協約」はない。
第17回会合(2016年9月30日)
第16回会合(2016年4月15日)
交渉第16回会合(2016年4月15日)でも、同様に分野ごとのグループに分かれて協議が行われており、その中に動物福祉のグループも含まれている。EUの報告書によると、動物福祉に関しては次のように記載されている。
11.2動物福祉
専門のワーキング・グループをつくる可能性と範囲については、依然として内部協議が必要である。
第15回会合(2016年3月8日)
交渉第15回会合(2016年3月8日)でも、同様に分野ごとのグループに分かれて協議が行われており、その中に動物福祉のグループも含まれている。EUの報告書によると、動物福祉に関しては次のように記載されている。
第15回交渉では、双方の新しい交渉責任者と動物福祉に関する包括的セッションが開催された。 この問題は2014年12月以来議論されておらず、セッションはそれぞれのポジションを思い出し再開するための良い機会を与えた。アニマルウェルフェアは日本人にとってとても敏感な問題だ。しかしEUはアニマルウェルフェアの協力活動を含めることを見越した方法書の内容を思い出させた。
このように日EU経済連携協定(EPA)交渉において、畜産動物福祉が議論されている。
日本ではこういった議論がされていることが公的に明らかになっていなかったが、2017年7月4日に配信された日本農業新聞で「日欧EPA 豚肉輸出 解禁に壁 動物福祉、衛生面で難航」と題し次のように報じられた。
日本が欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉で求める豚肉などの輸出解禁の決定が、日欧が大枠合意の宣言を目指す6日の首脳会談までに間に合わないことが分かった。日本側は農業分野の攻めの交渉の柱と位置付けるが、「動物福祉」の観点から、解禁が認められるかも不透明だ。
EUは日本産の豚肉や鶏肉、鶏卵、生乳や加工品の輸入を認めておらず、日本はEPA交渉の一環で、5月末にこれらの解禁を申し入れた。だが交渉筋によると、食肉処理場や農場などを調査するため、EU側が日本を訪れるのは7月末以降になることが決まった。
またEUは食肉処理場での衛生面だけでなく、家畜への苦痛を抑える「動物福祉」についても解禁の条件を定めるとみられる。農場での飼養基準にも適用された場合、飼育密度などが日本の実態に合わず、輸出が認められない可能性がある。
同日発表された外務省経済局の日EU経済連携協定(EPA)に関するファクトシートには、日本からEUへの輸出について牛肉,茶,水産物等の輸出重点品目を含め,ほぼ全ての品目で関税撤廃を獲得(ほとんどが即時撤廃)とされていますが、豚肉・鶏肉・鶏卵・乳製品については注意書きがあり、輸出解禁に向け協議中の品目となっています。これらの畜産物が協議中となっている理由が「動物福祉」だと言われています。
また、交渉の結果、この協定のルール規定に動物福祉が入る予定になっています。
(20)規制協力
貿易,投資に関する日EUそれぞれの規制について,規制案の事前公表,意見提出の機会の提供,事前・事後の影響評価,情報交換,日EU間の協力等を推進するための委員会の設置等について規定。
動物福祉に関しては,日EU双方がそれぞれの法令への理解を深めるため,両者の利益にかなう形で協力することとし,作業計画の作成,情報交換のための作業部会の設置について規定。
このルールもこれから議論されていきますが、ここに入る動物は畜産分野だけには限りません。化粧品の動物実験なども入ってくる可能性があります。
2017年7月28日に埼玉県で開催された説明会を傍聴しました。
農水省から三人が登壇してEPAについて説明がありました。「豚肉鶏肉鶏卵乳が輸出解禁に向け協議中」の件については、いまEUにデータを提出して第三か国認証の申請中であること、認証がおりたら日本での現地視察になる、とのみで、アニマルウェルフェアについての説明がなかったため
1.データの中にアニマルウェルフェアに関するものはあるか?あるなら内容を差支えない範囲で教えて
2.現地視察にアニマルウェルフェアの観点は入ってくるか?
の二点を質問しました。
農水省からの回答は
1.詳細は言えないが牛の場合屠殺場福祉が条件になってるので、屠殺は入るだろう。飼育の段階が入るかどうかは言えない。
2.現地視察についても、認証が降りてからの話なので、未定。
とのことで「説明会」なのに明確な回答が得られませんでした。
他にアニマルウェルフェアについて質問した人はなく、アニマルウェルフェアだけではなく活発な議論がおこなわれず予定の30分前に終了しました。
日本からEUに牛の肉を輸出する際にはすでに、動物福祉の条件が定められている。12時間以内にとさつされない場合には給餌すること、常時飲水できること、ロープで係留する場合の長さ、電気ショックの使用を避けることなどだ。国内4つのとさつ場はこれらEUの条件に対応した施設となっている。
しかしこれが、豚や鳥のとさつ、農場での飼養にまで及んだ時、動物福祉についてEUがどこまで求めているのかは不明だが、現在の日本では即座にEUの基準に対応することは難しいだろう。なんといってもEUで違法とされている飼育方法が日本では一般的であり、鶏のとさつ方法についても、日本で行われているスタニング無しでの首の切断はEUでは許されない(追記:鶏のと殺については福祉要件が設定されることが決定。詳細はコチラ)。
この今回のEPA交渉は良いきっかけではないだろうか。今すぐは無理でも時間をかけてEUに輸出できる動物福祉に対応した施設にしていけばいいのだ。日本で一般的な妊娠ストールやバタリーケージ、とさつ場が水も飲めないといったような状況はすでに国際的に容認されない方法になりつつある。輸出をするならこの先動物福祉への配慮は必須になるだろう。日本にとってもこの機会に動物福祉に取り組むのは悪い話ではない。畜産振興につながる話だ。EPA交渉が、日本の畜産の改革につながることを願う。
https://www.hopeforanimals.org/animal-welfare/541/
リンク先に意見先を掲載しています。
動物福祉に関して高いレベルのEUに追随するだけではなく、日本も率先して動物の環境を改善するべく交渉に取り組んでいただけるよう、 ぜひ国民の皆様からも意見を届けてください。
日EU経済連携協定(EPA)交渉に関するEUのWebサイト
http://ec.europa.eu/trade/policy/in-focus/eu-japan-free-trade-agreement/
1 The European Commission and Argentina signed landmark agreement today
http://ec.europa.eu/newsroom/sante/newsletter-specific-archive-issue.cfm?newsletter_service_id=327&newsletter_issue_id=3682
2 第 III 部 EU における動物福祉(アニマルウェルフェア)政策の概要 2014 年 3 月 株式会社 農林中金総合研究所 平澤明彦 http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/pdf/h25eu-animal.pdf