ブロイラーは、生産性を追求した結果、合理化された大規模な密閉型の鶏舎の中に収容され、通常他の生産システムより高い飼養密度で飼養されています。
日本では一般的に1㎡当たり16羽前後の過密飼いとなっています。
鶏が識別できる他個体は数十羽ですが、鶏舎の中には数万羽単位で閉じ込められています。鶏は社会生活を営む動物であり、群れにははっきりとした順位がありますが、そのような環境では、社会秩序を維持することができず、鶏には大きなストレスとなります。
日本のブロイラー養鶏場 2018年
徹底した育種改変の研究により、自然界の鶏は成鶏に達するのに4~5か月かかるところをブロイラーは50日程度で成鶏に達します。育種改変はとどまることを知らずここ十年でもブロイラー種は増体しています。
その急激な成長はブロイラーに身体的負担を与えます。
イギリスの研究では、ブロイラーの30%近くは体を支えることが難しく歩行困難となり、3%はほとんど歩行不能、また心臓にも負担がかかり、100羽に1羽は心臓疾患で死亡すると報告されています。
『ブロイラーの1/4は、一生の1/3を慢性的な疼痛の中で生きているだろう*』とも言われています。
育種改変の問題の詳細はコチラ
*2009「動物への配慮の科学」参照
農林水産省がブロイラー生産量を初めて公表したのが1960年。1965年以降ブロイラー生産が本格化・大量化・集約化するとともに、それまで発生の見られなかった新しい疾病が多発するなど伝染病の危険が増大し、飼料添加薬、ワクチン、抗生物質、抗菌剤の飼料への配合などが常用されるようになりました。
それはつまり、薬を常時与えなければならないほど鶏が不健康な状態にあることを意味します。
なぜそのような不健康な状態になってしまったのかは明白です。
鶏の福祉を顧みない生産性を追求した飼育が行われているからです。2018年8月、WAP(World Animal Protection)は、マクドナルドやケンタッキー、スターバックスなどを含む大手ファーストフード9社の「肉用鶏の福祉評価」を行いました*が、結果は非常に悪いものでした。6段階評価で9社とも4~6の間の「貧しい福祉」だと評価されています。これらの大手企業は鶏から数十億ドルの利益を得ていながら、鶏の環境改善のためにほとんど何もしていないというのが現状です。
*The Pecking Order World Animal Protection https://www.worldanimalprotection.org/pecking-order
立てなくなっているブロイラー 写真提供 Compassion in World Farming
鶏は野生の時からの習性が残っていて、木の上に止まって寝る習性があります。そこでなら外敵から身を守り安心して眠ることができるからです。実際には鶏舎の中に外敵は居ないということは問題ではなく、鶏舎の中だろうとどこだろうと、高いところで休みたいという強い本能的欲求を彼らはもっています。また、飛び上がる羽・足の力を鍛えるためにも止まり木は欠かせません。
しかし、鶏舎の中に止まり木を設置しているブロイラー養鶏場は皆無といってもいいでしょう。またもし止まり木があったとしても、そこに止まることができるのはせいぜい30日齢ごろまでかもしれません。異様に太るように品種改変されたブロイラーは日齢がたつにつれて自らの体重を支えることに精いっぱいで止まり木に飛び上がることができなくなるからです。しかしだからといって止まり木に止まって休みたいという欲求が無くなっているわけではありません。
満足に砂浴びができるのはせいぜい2週齢ころまででしょうか。そのころまでは入雛時に鶏舎に搬入されたノコクズなどの敷料がまだ乾いた状態で残っているからです。しかしその汚れていない敷料は日齢と共に踏んで汚れ湿って硬くなってきて、砂浴びできる材料がなくなってきます。2週齢以降、鶏たちは砂浴びして体を清潔に保ちたいという強い欲求を抱えながらそれを満たすことができず、尻周りは糞交じりの汚れが黒くこびりつき、羽根は黒く薄汚れていきます。
また、欧米で動物福祉の指標のひとつとして議論されている、ブロイラーにおける趾蹠皮膚炎(FPD)ですが、日本におけるブロイラーのFPDの発生状況の調査(「わが国のブロイラー鶏における祉蹴皮膚炎の発生実態に関する研究」橋本信一郎2011 )では、「FPDは調査した全ての鶏群で観察され、一部の鶏群では全ての個体にFPDを認めた」など広範囲にわたり、高率にFPDが発生していると報告されています。
FPDの発生要因として、床状態の悪さ、飼育密度の高さなどが考えられています。FPDが重度になると、鶏は疼痛による歩行困難、発熱ストレスに苦しみます。
ブロイラーの趾蹠皮膚炎(FPD)の詳細はコチラ
茹でられたあとのブロイラーの足の裏。重度の炎症を起こしている。
2014年度国産畜産物安心確保等支援事業における「飼養実態アンケート調査報告書」によると、ブロイラー農家の68.1%が、暗期の設定をしていないことが分かっています。つまり鶏は一日中照明の下で暮らしています。そのほうが餌を食べて良く太るからというのが理由ですが、鶏にとっては一時も気が休まるときがありません。
日本も加盟するOIE(世界動物保健機関の)動物福祉基準「アニマルウェルフェアと肉用鶏生産方式」には、『各24時間の間に、当該肉用鶏の休息を可能にする適切な継続した暗期が設けられるものとする。』と記載されていますが、日本国内では守られていない状況です。
暗期を設けないことは鶏に悪影響を及ぼします。1日20時間以上の照明にさらされた鶏は腸の機能不全につながります。逆に暗期を設けることは鶏の免疫システムを助け、死亡率の低下にもつながります*。
ブロイラーの照明管理の問題についてはコチラもご覧ください。
2016年08月09日付の山形新聞に「ニワトリ4270羽死ぬ 熱射病か、庄内4養鶏場」というタイトルの記事が掲載されました。同支庁家畜保健衛生課によると「ニワトリは体温が高く、出荷までに一定数は被害に遭う」とのことで、県内では毎年熱中症で、3千~5千羽のブロイラーが死んでいるそうです。
鶏舎の中は窓の開け閉めや換気扇で温度管理を行っているだけで人間の家のようにエアコンがついているわけではありません。その上異様なほど過密飼育を強いられています。熱暑に耐えられずに死んでいくブロイラーがいるのは当然のことかもしれません。
熱中死は珍しいことではなく、ブロイラー経営農家で熱中死を経験していない人はほとんどいないでしょう。
そのほか著しい増体に対して心肺機能が追いつかないためにおこる腹水症や突然死症候群、糞まみれの環境で発症する大腸菌症がもたらす敗血症による死、糞を経口摂取することでおこるコクシジウム症による貧血・血便で死亡、品種改変に起因する脚弱によりエサ皿や給水機に届かなくなり衰弱死など、数えきれないほどの死亡原因があります。
鳥インフルエンザなどの感染も過密な環境では蔓延しやすく、家畜伝染病に規定された伝染病に感染した鶏は感染拡大防止のため治療可能であっても殺されます。(肥育されるブロイラーが病気になっても治療は行われません。治療するよりも淘汰したほうが安上がりだからです)
生後50日ほど、体重2.5~3㎏で屠殺場に連れて行かれ、足をつるされ首を切られます。日本では首を切る前に意識を失わせる(スタニング)という工程が省かれることも珍しくありません。さらにベルトコンベア式の機械による切断に失敗し、意識のあるまま熱湯の中に入れられることもあります。
一羽あたり、500~700円程度で取引されます*。
*鶏肉の価格動向 ブロイラーの農家販売価格 http://lin.alic.go.jp/alic/statis/dome/data2/i_pdf/4031a-4045a.pdf