「家畜改良増殖目標(骨子案)」及び「鶏の改良増殖目標(骨子案)」に対する国民の皆様からの御意見募集 http://www.maff.go.jp/j/press/seisan/c_sinko/150227.html募集期間 平成27年2月27日(金曜日)~平成27年3月6日(金曜日)17時00分必着
●「引き続き1頭当たり乳量の増加を重視した 改良を推進」「平成37年度の目 標 8,500 ~ 9000k」などの乳量増加を目指すという文言は、個体への負担を増加させ、個体へのストレスや負担は食品の安全性も脅かすものになりえます。そのためこのような部分は削除し、放牧に適した乳用牛の選抜、放牧技術の普及など、放牧酪農の推進を中心にした家畜改良増殖目標に変えるべきだと考えます。
放牧酪農は、骨子案にあるとおり生産コストの低減や国産飼料の自給率向上につながるだけではなく、アニマルウェルフェアの向上にもつながります。
スウェーデン、ノルウェー、フィンランドなど、牛は放牧される権利があるとして、夏期の2~4ヶ月間の放牧が義務付けている国もあり、国際的にアニマルウェルフェアへの取り組みが進んでいる中、繋ぎ飼育が主流の日本は方向転換を図る時期に来ていると思います。わが国の国土の7割が森林で占められていますが、その森林での酪農を成功させている例もあり、放牧酪農へシフトしていくことは不可能ではないと考えます。
●「③ 乳成分 消費者ニーズに即した良質な生乳が牛乳・乳製品の多様な用途に安定的に 仕向けられるよう、現在の乳成分率を維持するための改良を推進。」 とありますが、乳成分率についての目標は削除するべきであると考えます。
乳成分率の目標を設定することは「乳成分率の高さ=質の高さ」という誤った基準につながってしまいます。牛本来の姿である放牧酪農では夏期と冬期の乳成分率が違うのは自然なことです。「乳成分率が高くなるほど取引価格が高くなる」という構造は、放牧酪農の普及を妨げてしまい、骨子案にある「放牧の活用を進める」との文言に反します。
●改良にあたり、卵子の採取、クローンなどの侵襲的な研究が行われる可能性があるため、動物愛護管理法41条の「(動物を科学上の利用に供する場合の方法、事後措置等)」を遵守しなければならないという文言を盛り込むべきだと考えます。
肉用牛
●11ページ「適度な脂肪交雑」を「赤身」という言葉に置き換えたほうが、消費者ニーズが脂肪交雑から離れているということが分かりやすいと思います。
「消費者の志向がいわゆるサシから赤身へと移っていることが挙げられる。長らく低迷した景気動向に伴う消費者の経済性志向や、健康志向の高まり、さらには、今や65歳以上の人口が4人に1人の割合に達するほど進行している高齢化などにより、脂肪分の少ない赤身肉への需要が増加しているものとみられる。」「さらに高齢化が進行していく中で、赤身肉への需要はますます増えていくことが予想される」(2015年3月の月報「畜産の情報」より)
●アニマルウェルフェアの観点から、増殖目標に「無角和種の増頭」を加えるべきだと考えます。麻酔なしで行われている牛の角の切断は、牛に苦痛やストレスを与えています。
2012年に採択されたOIEコード「アニマルウエルフェアと肉用牛生産方式」には「痛みを伴う処置の手順」の項に「動物福祉を向上させるための将来的な選択肢としては、管理戦略によってこうした処置を不要とする、処置を必要としない牛を育種する(中略)といったことが考えられる。」「(肉牛は)生産方式に応じて実用的かつ適切な場合、除角より、角のない牛を選抜する方が望ましい。」と書かれています。国際基準に沿った目標を作成すべきではないかと考えます。
●改良目標に、産肉能力や繁殖性などの生産性だけでなく、「動物の健康と福祉に配慮した改良を行う」ことも盛り込むべきだと考えます。
2012年に採択されたOIEコード「アニマルウエルフェアと肉用牛生産方式」には、「遺伝的選抜」の項に「特定の場所や生産方式に適した品種や亜種を選ぶ場合には、生産性に加えて、快適性と健康状態を考慮する必要がある。」「品種内の個々の動物は、動物の健康と福祉にとって遺伝的によりすぐれた子孫を残すよう選抜できる。」と書かれています。国際基準に沿った目標にすべきだと考えます。
●クローンなどの侵襲的な改良研究の際は動物愛護管理法41条の「(動物を科学上の利用に供する場合の方法、事後措置等)」を遵守することを盛り込むべきだと考えます。
豚
●改良目標に繁殖能力や産肉能力などの生産性だけでなく、「動物の健康と福祉に配慮した改良を行う」ことも盛り込むべきだと考えます。
豚のアニマルウェルフェアの状態を判断する指標として「跛行」がありますが、豚の跛行は「増体の速さへの選抜に伴う骨形成不全、すなわち肢や関節の変形を起こす骨端軟骨や、肋軟骨組織の病気が主因と考えられて」(2009年2月号雑誌「畜産技術」より引用)います。跛行する母豚は耐用年数が短く、繁殖成績が劣ることを考えると、ウェルフェアに配慮することは生産性にもつながります。
●乳用牛・肉用牛と同様に、豚も「飼養管理」の項目(23ページ)に「放牧の活用を進める」ことを盛り込むべきではないかと思います。乳用牛・肉用牛の放牧と同様に、放牧養豚は国産飼料の自給率向上につながります。
以下に北海道の放牧養豚場の例を紹介します。
北海道の放牧養豚場、ホープランドではブロッコリー・スイートコーンなどの収穫後の跡地に牧草の種をまき、豚が放牧されている。牧草を食べつくすと、豚はほかの畑へ転牧される。豚は収穫残さを綺麗に食べてくれると言う。このホープランドの飼料自給率は70%を超える。放牧養豚のメリットは自給率だけではない。雑草の根っこも豚は食べるため雑草の繁殖も抑えられる。排泄物処理の問題も解決する。豚の糞尿の肥料効果で、放牧跡地に作付けされた野菜は上質なものができたという。
ホープランドの放牧養豚に関する報告 http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2010/feb/spe-01.htm
●改良にあたり、卵子の採取、クローンなどの侵襲的な研究が行われる可能性があるため、動物愛護管理法41条の「(動物を科学上の利用に供する場合の方法、事後措置等)」を遵守しなければならないという文言を盛り込むべきだと考えます。
●25ページの文章に【】内を挿入したほうがよいと思います。「今後、WTO、FTA 交渉等、国際化の一層の進展が予想される中で、より一層 の生産コストの低減とともに、【アニマルウェルフェアへの配慮や、】消費者の多様なニーズに応えた高品質化等への取組が求められているところ。」
OIE、FAOなどの国際機関、各国がアニマルウェルフェアに取り組んでいる中、日本はアニマルウェルフェアへの対応が残念ながら遅れています。国際化が進む中、他国と足並みをそろえることは喫緊の課題だと思います。
現在、日本政府と欧州連合(EU)間で経済連携協定(EPA)交渉が進められていますが、EUはこれまで各国との貿易協定に動物福祉の基準導入を働きかけており(※)、日本との貿易協定にも動物福祉が求められる可能性もあります。
※自由貿易協定としては2002年にチリとの間で初めて動物福祉が盛り込んだのを皮切りに、その後2004 年にカナダ、2010年には韓国、中米(コスタリカ、エルサルバドル、ガテマラ、ホンジュラス、パナマ、ニカラグア)コロンビアおよびペルーへと拡大した。その他にタイおよびベトナムとの協力連携協定にも動物福祉が含まれており、ニュージーランド(2007 年)およびオーストラリア(2008 年)とは動物福祉に関する協力フォーラムを設置している。
山羊
●改良にあたり、卵子の採取、クローンなどの侵襲的な研究が行われる可能性があるため、動物愛護管理法41条の「(動物を科学上の利用に供する場合の方法、事後措置等)」を遵守しなければならないという文言を盛り込むべきだと考えます。
●7ページの文章に【】内の挿入したほうがよいと思います。「あわせて、地鶏等の安定的な雛の生産・供給を図りながら、和食の食材 や地域の特色ある産品【、アニマルウェルフェア食品】としての需要の裾野を拡大することにより、流通業者や消費者の認知度が高まるような取組を推進していくことが重要。」
地鶏肉は「飼育期間が 80 日以上であり、28 日齢以降平飼いで1㎡当たり 10 羽以下 の環境で飼育したもの」という日本が他国に誇れるアニマルウェルフェア商品です。
アニマルウェルフェア商品の需要もあります。私どもが2014年に行った消費者アンケートでは「スーパーやコンビニで、動物福祉に配慮された畜産物(放牧飼育された肉、卵、牛乳等)を選択できるようになったほうが良い」という問いに13.8%の人が「そう思う」54.3%の人が「ややそう思う」と答えています。「アニマルウェルフェア商品」の需要の拡大の可能性は大きいと思います。他国に比べ遅れがちな日本のアニマルウェルフェアの底上げのためにもアニマルウェルフェアの推進は必要であると考えます。
●肉用鶏の改良目標に飼料要求率や育成率などの生産性だけでなく、「動物の健康と福祉に配慮した改良を行う」ことも盛り込むべきだと考えます。
健康と福祉を無視した改良は肉用鶏にさまざまな病気をもたらしています。
「現代のブロイラー鶏の系統は、あまりにも大量の飼料を消費するよう育種されてきているため「高速成長病」ともいうべき骨格の問題や腹水症を導く」(2009年「動物への配慮の科学」より引用)
また、肉用鶏の跛行あるいは歩行異常といった筋骨格の問題の原因は栄養、 衛生、照明、敷料の質だけではなく遺伝の問題でもあるといわれています。跛行を示す肉用鶏は苦痛を感じ、食べ物や飲み水に近づくことが困難になります。
また、2013年に採択されたアニマルウェルフェアと肉用鶏生産方式には
「特定の場所又は生産システムに適った系統を選択する場合には、生産性及び成長率のほかにウェルフェア及び健康への配慮が払われるものとする」と記載されています。国際基準に沿った目標にすべきだと考えます。
●肉用鶏の能力に関する体重の目標数値が、現在の2870gから平成37年度は2900gへ増加されていますが、現在の数値を据え置く、あるいは体重の数値目標そのものを作らず、鶏の身体的な負担の軽減を目標に盛り込むべきであると考えます。
骨子案に、(現状及び目標の数値は)「品質や特色を重視する国産鶏種に適用するには困難」と書かれていますが、商業用鶏(ブロイラー)にたいしては、これまで鶏本来の特質を軽視した数値目標に向かって改良が行われてきており、そのことがブロオイラーの体への負担として出てしまっています。
自然界の鶏は成鶏に達するのに4~5か月かかるところをブロイラーは50日程度で成鶏に達するよう、徹底した育種改良が行われています。これ以上生理機能の限界を超えた改良はすべきでないと考えます。
「およそ1/4の肥満系ブロイラーと七面鳥は、生涯の1/3の期間、慢性的疼痛にさらされている」「ブロイラーでは突然死症候群は、成長率が平均よりも高い個体においてみられている」(2009年「動物への配慮の科学」より引用)
●卵用鶏の改良目標に飼料要求率や生産能力だけでなく、「動物の健康と福祉に配慮した改良を行う」ことも盛り込むべきだと考えます。
本来一日20個しか卵を産まない鶏は、300個以上産むように品種改良されています。これ以上生理機能の限界を超えた改良はすべきでないと考えます。
「生産効率のための遺伝的選抜は、健康に障害を与える。ニワトリではこの選抜が筋骨格や循環器機能に影響を与えた。高産卵数と低維持要求量(つまりそれは体重が軽い)のために選抜された雌鶏は採卵周期の終わりには骨粗しょう症になりやすい。なぜなら、骨格の多くの成分が卵殻形成に代謝されるからだ。このような鶏の骨は脆く、捕まえたり、輸送の際骨折がおきやすい」(2009年「動物への配慮の科学」より引用」
●卵用鶏の雄の廃棄問題に取り組むことを盛り込んでほしいです。
ユニリーバやHellmann’sといった大企業は孵化前に雌雄を判別する方法などで、この雄の廃棄を終了させることを発表しています。また最近ドイツではこの鶏の雄の雛の処分について裁判を起こした州があり、雄の雛がたった一日で殺されるのは不当であるとして、代替法を考えるよう判決が下されています。雛も苦痛を感じるのであり、ウェルフェア上取り組むべき問題だと考えます。