採卵用に飼育される鶏や、肉用に飼育される鶏(ブロイラー)が殺されるのは、屠殺の時だけではありません。
農場内で「淘汰」される時もあります。
奇形、歩行困難、病弱。そして採卵鶏であれば卵詰まりや成長不良などで「卵を産まない」なども淘汰の理由となります。
一般的に商業用に飼育される鶏が外傷や病気で治療されることはありません。
ブロイラー養鶏業者が、ブロイラーの雛を購入するときの価格が75円程度*1。ヒナを肥育して肉用に販売する時の価格が500-700円。
採卵鶏の場合は933円程度*1で購入され、卵を産ませたあと「廃鶏(または成鶏)」として出荷される時の取引価格はタダ同然です。
一羽当たりの単価が安い鶏を、病気の都度治療していては割に合いません。そのまま飼育を続ければ餌代ばかりがかかります。そのため「生産性」のない鶏は殺処分されます。
この鶏たちを養鶏場で「淘汰」するために、さまざまな方法がおこなわれています。
淘汰方法 | ||
1 | 非人道的で 間違ったやり方 | ・いつの間にか死んでいた |
2 | 1よりは苦しみが少ないと思われる方法(決して安楽な方法ではありません) | ・頚椎脱臼 |
3 | 現在一番苦しみが少ないと考えられている方法(決して安楽な方法ではありません) | ・脳震盪式スタンガン(キャプティブボルト) ・電気的スタニング |
養鶏場は、防疫の観点から基本的に外部の者を入れません。国内にある5000戸ほどもある養鶏場を監視するためには第三者機関が介入できる何らかの法的枠組み・ガイドラインが必要ですが、国内にそのような仕組みはありません。そのためそれぞれの淘汰方法のパーセンテージなどは不明ですが、アニマルライツセンターが把握している限りでは、1の「非人道的で間違ったやり方」が一般的です。
3については、そもそもこのようなスタニング機器が国内に流通していません。
2の二酸化炭素についてもこの方法をとっている養鶏場を私たちは知りません。後述する通り、この方法を適切に実施するには専用の機器が必要だとも言われていますがそのような機器も国内にはありません。
2の頚椎脱臼についても農場内で行っている事例をわずかしか知りません。またこの方法は鶏を苦しめる可能性が高いという大きな問題があります。
どのような「淘汰」が行われているのか統計が無いため推測に過ぎませんが、「いつの間にか死んでいた」というのがもっとも多いと思われます。
2018年には作業効率を高めるために『採卵鶏農場のケージ内の死亡鶏を検知する死亡鶏巡回監視システム』が開発されているほどです*8。いつの間にか死んでいた、は養鶏場ではあたり前のことになっています。鶏の飼育羽数は一戸当たり5-6万羽。それを数名で管理しているのですから気が付かなくても不思議はありません。
しかし何らかの病気にかかり死に至るまでの長い期間、鶏は苦痛に耐えることを強いられます。
2018年 日本の採卵養鶏場
。
2016年日本のブロイラー養鶏場
2015-2017年日本の採卵養鶏場
弱っている鶏を隔離し、あとは水も餌も与えず死ぬに任せるというケースもあります。
アニマルライツセンターには生きたまま鶏を焼却炉に投入しているという告発が数件入っています。
レンダリングというのは、動物の死体を加熱処理して肥料や飼料にする業者のことです。養鶏場ではしばしば淘汰鶏を殺さず、そのままレンダリング行のコンテナの中に入れます。鶏はコンテナの中で上から上へにかぶさってくるほかの鶏の中で圧死、窒息死するか、生き残ってもレンダリング工場で「加熱処理」されて殺されます。
ある養鶏場では、淘汰する鶏をケージに入れてまとめて水死させていました(この業者とは、意見交換をして、人道的な方法への切り替えをすることを約束していただくことができました)。
複数の養鶏場でこのやり方が行われているという情報提供がありました。
次に、1よりは苦しみの少ない方法を記述します。
「苦しみが少ない」のであって安楽殺ではないことに注意してください。本来の安楽殺は吸入式の過麻酔ですが、薬剤が残ること、コスト面から経済利用される鶏への適用は不可能です。
また、下記に記す方法が1より苦しみが少ないという理由は、無感覚である無意識状態に速やかに陥らせることが可能だと考えられているからですが、この「無意識」の判断が困難であることも忘れないでおいてください。
畜産動物の無意識の評価については様々な研究が行われています。一般に、無意識を評価する最も信頼できる指標であると考えられているのがEEG(脳波)です。しかしEEG評価が可能なのは実験室であり、農場でそれを行うことは不可能です。そのため行動指標(姿勢、瞬き反応、律動的な呼吸、発声、眼球運動など)が使用されることになりますが、行動指標は殺し方によって異なり絶対的なものではありません。EEGと行動指標を関連付ける研究もほとんど行われていません。そもそも信頼できると考えられているEEG自体にも課題があります。EEGは頭蓋骨の厚さなど動物の個体差や設備環境で変動します。またEEGには無意識と意識を区別する明確な基準がありません。
以上のことから、下記の方法を農場内で実施したとしても、それが適切な方法で正しい位置で行われたかどうか、動物を速やかに無意識にさせることができたかどうかを明確に判断することはできません。実施者が適切な方法で速やかに死に至らしめることができたと思っても、実際には大きな苦痛を伴う死であったということもあり得ることを忘れないでください。
頚椎脱臼についてはこちらの記事をご覧ください
頭部への打撃方法としては後述する機械式の脳震盪式のスタニングがありますが、この機器が現時点で日本で使用できないということから、手動による頭部への打撃という方法もあります。機器を利用した方法に比べて脳や頭蓋骨の損傷度が低いですが、機械式と同様に有効な方法であるとされています*14。ただ手動でやると狙いが外れたり力が足りなかったりして鶏を半殺し状態にして非常な苦痛を与えるリスクが高まります。
七面鳥を対象とした研究によると、手動による頭部への打撃(金属パイプやも木製バットを使用)は、頚椎脱臼よりも痙攣時間が長かったそうです。
手動による頭部への打撃をおこなった32羽のオス七面鳥のうち、瞬膜反射またはあえぎを示したものはなかったが、1羽が瞳孔反射を示し、11羽のブロイラー七面鳥では、打撃後、瞳孔および瞬膜反射とあえぎが2羽の鳥に存在したそうです。 さらに1羽のオス七面鳥と1羽のブロイラー七面鳥は、1分以内に呼吸が戻ったということです*14。このように頭部への手動打撃は確実なものではありません。正確かつ十分な力で適用しない場合、極端な苦痛と苦痛を引き起こします*15。
OIE(世界動物保健機関)は動物福祉基準「疾病管理を目的とする動物の殺処分」*9のなかで、『二酸化炭素への曝露が意識の即時の喪失をもたらすことはなく、高濃度のCO 2を含むガス混合物が嫌悪を誘発する過程は、動物の福祉にとって重要な注意事項である。』としています。濃度45%のCO 2で、20〜30秒以内に鶏は無意識になり、2分以内に死を誘発するとも言われています*7。
鶏については、高濃度で意識の喪失が早く訪れるという研究がありますが、いくつかの研究は、高濃度の二酸化炭素を吸入すると鶏が苦しむ可能性を示唆しています*7。OIEの動物福祉基準*9は徐々に濃度を上げることで嫌悪が軽減されるとしていますが、短時間で高濃度にしたほうが苦しみが少ないと考える研究者もおり、どちらがよりマシなのかは結論が出ない状況です。ただどちらも苦しみを伴うことには違いありません。
二酸化炭素単体よりもマシなのはアルゴンまたは窒素といった不活性ガスを用いる方法だと言われているが、どのような方法を選択するにしても、二酸化炭素、アルゴン、窒素などのガスを用いてできるだけ苦しみの少ない殺し方をしようとする場合は、濃度(二酸化炭素で鶏を殺すには40%以上の濃度が必要*7)、比率などを適切に管理できるガスメーター付の鶏の様子が観察できる窓のついたチャンバーが必要ですが、そのようなポータブルの鶏殺処分機は日本では流通していない状況です。
Human Slaughter Association は、ガスの正確な監視ができる「特殊な小規模のガス殺害装置」が利用できるようになるまでは、ガス殺方法は推奨しないとしています*10。(追記:2019年、農場に設置できるタイプの小型ガススタニング装置がイギリスの七面鳥農場に導入されました。この装置により一時間に300羽を屠殺できます。これよりさらに小規模な装置はさらに開発中だということです*16)
農場内で実現可能な、苦しみが少ないと考えられている殺処分方法です。
この機械式の脳震盪装置(キャプティブボルト)は、鳥に即時の無意識と死を引き起こすことが可能です。
鳥の死を確実にするために、ボルトガン使用後さらに頸椎脱臼やネックカットを行う必要があります*。
(写真)家きんや子豚、子羊などの小動物用のキャプティブボルト*5
ただしこの脳震盪式のスタニング器具は日本国内で生産されておらず、輸入実績がありません。また輸入したとしても「銃器」にあたるため銃刀法による許可が必要だというネックがあります。頚椎脱臼よりはスタニングの効果にばらつきは少ないものの*13、定期的なメンテナンスを怠るとスタニングの有効性を大幅に低下させる可能性があります*12。
農場で使用するための電気スタナーは、一般的に手持ち式で、一対の電極で鳥の頭を挟み、接触させ、スイッチを入れると電極間にある脳を電気が流れ、瞬時に無意識にさせることが可能です。ニワトリ程度の小さな鳥に関しては脳震盪式スタナー同様に苦しみが少ないと考えられています。
OIE(世界動物保健機関)の動物福祉基準*9では、効果的な電気スタニングの実施には「安定した300mA以上の電力供給」「ゴム手袋ゴム長靴の着用」「電極の定期的な清掃・点検」などが求められています。日本では野生動物を殺す際に電殺器、または電気差し止め器が使われます。野生動物の場合は大きさの違いや保定の困難さが大きいですが、ニワトリの場合はよりたやすいと言えます。
ただし、人間に対して行われる電気けいれん療法(ECT)は鎮静状態および全身麻酔の制御された状態で処置を行うことのみが許容されています。そうしないと、過度の苦しみを引き起こすためです。そのような電気ショックを何ら処置なしで動物に使用することを懸念する意見もあります*11。
脳震盪式スタナー同様に、意識を失わせた後に頚椎脱臼等で死に至らしめる必要があります。
養鶏場で鶏を焼き殺したり、病気の鶏を放置死させる今の日本には、鶏を人道的に扱うという考えは無さそうです。しかし、畜産用の鶏であっても痛みを感じ苦しむことができるのは、ほかの動物や私たち人間と同じです。
この先動物が経済利用されること自体を無くしていく必要がありますが、それにはまだまだ時間がかかりそうです。である以上、今現在養鶏場で残酷な扱いに苦しんでいる鶏たちの状況を改善する必要があります。
アニマルライツセンターは鶏への非人道的な行為を中止するよう農林水産省や関係機関に要望をしています。皆さまからも、養鶏場内での福祉的な淘汰方法の普及、畜産従事者へ福祉的な淘汰方法の教育などを、農林水産省へ求めてみてください。
農林水産省意見先
https://www.contactus.maff.go.jp/voice/sogo.html
*1 http://www12.plala.or.jp/taacohya/Houki/KADENHO/pdf_files/HPAI/Bessi_Yosiki/bessi_2_all.pdf
*2 Concussion Stunning Equipment(humane slaughter assosiation) https://www.hsa.org.uk/concussion-stunning/equipment-4
*3
*4 Neck Dislocation Techniques https://www.hsa.org.uk/neck-dislocation/techniques
*5 http://www.acclesandshelvoke.co.uk/media/downloads/2017/August/user-manuals/CASH-Small-Animal-Tool-JUN-2017-V3.2.pdf
*6
*7 Development and Extension of Industry Best Practice for On-Farm Euthanasia of Spent Layer Hens/2015 Poultry CRC Ltd
*8 2018年6月15日 / 死亡鶏巡回監視システム 大豊産業が開発
*9 CHAPTER 7.6. KILLING OF ANIMALS FOR DISEASE CONTROL PURPOSES Article 7.6.1.
*10 Practical Slaughter of Poultry Gas Killing
*11 A perspective on the electrical stunning of animals: Are there lessons to be learned from human electro-convulsive therapy (ECT)?
*12 Maintenance Of Concussion Stunning Equipment – human slaughter assosiation
*13 Published online 2018 Mar 15. Welfare Risks of Repeated Application of On-Farm Killing Methods for Poultry
*14 Current and novel methods for killing poultry individually on-farm Article (PDF Available) in World’s Poultry Science Journal 70(04):737-758 · December 2014
*15 Concussion Stunning – human slaughter assosiation
*16 Apr 21, 2019 update:Jul 3, 2019 Gas stunning for small poultry operations
「無意識の評価」についての参照文献
Measures of insensibility used to determine effective stunning and killing of poultry M. A. Erasmus P. V. Turner T. M. Widowski
Published online 2014 Oct 30. doi: [10.1017/S1751731114002596] Indicators used in livestock to assess unconsciousness after stunning: a review