コチラの記事で、国内で鳥インフルエンザ発生時に、「ウィルス拡散防止」のために換気を止めるという処置が行われており、その結果、鶏が熱死、窒息死に至っていることを書きました。
「換気を止める」は農林水産省の指示であり、同省は換気を止めることで死に至らしめられる鶏がいることを把握しながらも、「ウィルス拡散防止」のために換気を止めるという指示を、鳥インフルエンザが発生した都道府県に出しています。
窓がない密閉型のウィンドウレス鶏舎は、換気扇を用いて鶏舎の空気を入れ替えており、換気の停止は酸素の低下及び鶏の体温による鶏舎温度の上昇を引き起こします。体温で鶏舎温度が上昇する、ちょっと想像しにくいかもしれませんが、二階建てで、それぞれの階に段々に天井まで積み重ねられたそれぞれのケージの中には鶏がひしめき合うように収容されており、一つの建物で10万もの鶏を収容する鶏舎もザラです。真冬でもウィンドウレス鶏舎の中に入ると暖かいことが分かります。それはぎゅうぎゅうに閉じ込められた鶏たちの体温によるものです。外気温が高い時期に、もし停電が起これば、換気はストップし、ウィンドウレス鶏舎の鶏は1時間もせずに全滅します。それほどウィンドウレス鶏舎は密閉されており、鶏は過密に閉じ込められています。
冬で外気温が著しく低ければ鶏舎の中は高温にならないため、死ぬリスクは低くなりますが、そうでなければ換気を止められた鶏は死にます。今シーズンの鳥インフルエンザでも換気を止めたことにより鶏が死に至らしめられています。換気を止めた結果引き起こされる死までの時間は長く、じわじわと上がっていく温度と欠乏する酸素で、鶏は運が良ければ1時間ほどで死に至ります(換気停止により引き起こされる死についてはコチラをご覧ください)
2021年3月27日、アニマルライツセンターは農林水産省に次の通り質問書を送りました。
私たちは動物の権利向上を目指して市民運動を行う認定NPO法人アニマルライツセンターです。
農場における鳥インフルエンザ発生時に、農林水産省から各都道府県に対して「家きん舎の換気を止める」という指示が出され、換気を止めた結果家禽が死に至るケースがあることについて、下記の二点を質問いたします。
ご多用中恐縮ですが、ご回答いただけますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
1.鶏舎の換気を止めたとしても、どちらにしても家きんの死体を搬出する作業で家きん舎は開放されウィルスは拡散されます。家きん舎の換気を止めた場合、鳥インフルエンザウィルスの拡散防止にどれだけ効果があるのかを教えてください?
2.換気扇をとめて家きんを死に至らしめることが、国内法令及び指針及び通知に抵触してないかどうか教えてください。また抵触していないとお考えの場合はその根拠を教えてください。
「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、「動物愛護管理法」)第 40 条に規定する動物を殺す場合の方法については、「動物の殺処分に関する指針」(平成7年7月4日総理府告示第 40 号)において、動物を殺処分しなければならない場合にあっては、化学的又は物理的方法により、できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能又は肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の方法によることが規定されています。
2019年には「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の農場内における殺処分に関する指針」が農林水産省から通知されています。同指針もまた、直ちに意識喪失状態に至るようにするなど、出来る限り苦痛の少ない方法により殺処分を行うことを求めています。
2021年1月21日には、環境省、農林水産省が「農場における産業動物の適切な方法による殺処分の実施について」を通知しました。通知には次のように記載されています。
『適切な方法による殺処分が行われていない事態や飼養保管が適切でないことに起因して産業動物が衰弱する等の虐待を受けるおそれがある事態が認められたときは、速やかな改善を求め、改善の意志がない場合は、警察への告発を含めて厳正に対処するよう御対応願います。』「農場における産業動物の適切な方法による殺処分の実施について」https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-73.pdf
2021年4月1日
お問合せありがとうございます。
ご質問の件につきまして、以下のとおり回答いたします。1. 鶏舎の換気を止めたとしても、どちらにしても家きんの死体を搬出する作業で家きん舎は開放されウィルスは拡散されます。家きん舎の換気を止めた場合、鳥インフルエンザウィルスの拡散防止にどれだけ効果があるのかを教えてください?
(回答)
ファンの気流に伴って、強制的に排出されることにより、周囲の鶏舎に感染が広がる可能性があるものと考えております。2. 換気扇をとめて家きんを死に至らしめることが、国内法令及び指針及び通知に抵触してないかどうか教えてください。また抵触していないとお考えの場合はその根拠を教えてください。
(回答)
病原ウイルスを感染鶏舎から周囲の農場に拡散するリスクを低減するための措置であり、処分の手法として実施しているものではありません。なお、防疫措置で行っている処分の方法はCO2(二酸化炭素)ガスにより実施しているところです。更にご不明点などございましたら、ご連絡ください。
よろしくお願いいたします。
2021年4月6日
先日は鳥インフルエンザ発生時の殺処分についてご回答ありがとうございました。
重ねて恐縮ですが、以下の二点について教えてください。・何年から、都道府県に、鳥インフルエンザ発生農場の鶏舎の換気を止める、という指示を出していたのか教えてください。
・「病原ウイルスを感染鶏舎から周囲の農場に拡散するリスクを低減するための措置であり、処分の手法として実施しているものではありません。」とのご回答でしたが、換気のシャットダウンが結果として家きんを死に至らしめているケースがあります。長時間かけて熱死や窒息死に至らしめることは国内法令及び指針及び通知に反するものと考えます。
つきましては、今後は、長時間かけて家きんが熱死や窒息死に至らしめられる可能性のある場合、換気の停止を止めていただけないでしょうか?
2021年4月14日
農林水産省総合窓口へ問い合わせいただき、ありがとうございます。
質問について、以下のとおり回答します。1.何年から、都道府県に、鳥インフルエンザ発生農場の鶏舎の換気を止める、という指示を出していたのか教えてください。
(回答)
今回の措置は、農場密集地域等での発生であったことを踏まえ病原ウイルスが感染鶏舎から周囲の農場に拡散するリスクを低減するために実施したものであり、全ての事例で当該措置を行っているものではありません。
2.「病原ウイルスを感染鶏舎から周囲の農場に拡散するリスクを低減するための措置であり、処分の方法として実施しているものではありません。」とのご回答でしたが、換気のシャットダウンが結果として家きんを死に至らしめているケースがあります。長時間かけて熱死や窒息死に至らしめることは国内法令及び指針及び通知に反するものと考えます。
つきましては、今後は、長時間かけて家きんが熱死や窒息死に至らしめられる可能性のある場合、換気の停止を止めていただけないでしょうか?(回答)
周辺農場への感染拡大により、さらに多くの鶏がインフルエンザに感染することがないよう、病原ウイルスが感染鶏舎から周囲の農場に拡散するリスクを十分に踏まえ、防疫措置を迅速に実施することが最優先だと考えています。
発生により奪われてしまう鶏の命が少しでも減らせるよう、御指摘も配慮しながら今後も迅速かつ的確な防疫措置が実施できるよう努めてまいりたいと考えています。
いつから換気停止の指示を出しているのか?
2021年4月22日、これらのやり取りを踏まえ、農林水産省に電話で確認したところ、1の「いつから換気を止めるという指示を出しているのか?」については、文書などによる記録がないため不明であるとのことでした。しかし、アニマルライツセンターは、これまで鳥インフルエンザが発生した各自治体への問い合わせで、今シーズン(2020-2021年)だけでなく、以前の発生時にも換気を止めるという手段がとられていたことを把握しています。
今後も換気停止を行うのか?
また、「ウィルス拡散防止」が目的にせよ実際に換気を止めることで鶏が死に至っているケースを把握しているにもかかわらず、今後も鳥インフルエンザ発生時に換気を止めるという手法を続けるかという問いには、今後も必要に応じてこの手法を続ける、との回答でした。
換気停止はウィルス拡散防止になるのか?
換気停止に、本当にウィルス拡散防止効果があるのか問いには、科学的知見があるかどうかは不明だが、拡散防止の可能性はある。ウィンドウレス鶏舎は外への強い気流が流れているので、換気が開いている時間が長いほどウィルスが出ていく量も多いと考えられる、とのことでした。
しかし、現時点で、アニマルライツセンターは換気の停止がウィルス拡散防止になるという証拠を見つけることができていません。そもそも換気を一時的に止めたとしても鶏舎の中に人が入って死体を出したりなどの作業をするときには鶏舎はオープンになるため、その効果についても疑問です。
アメリカなどでは鳥インフルエンザ発生時に換気を止めるという処置が行われますが、それは換気によりウィルス拡散を防止することが目的ではなく、直截的に「家きんを殺すため」です。換気の停止による殺処分は、家禽を十数羽ケージから出してポリバケツに入れ、二酸化炭素を注入して数分待ち-という作業を繰り返すより、ずっと早いからです。ウィルスを持つ鶏を早く殺すことでウィルス増殖を防ぐことができ、スイッチ一つ押すだけで鶏舎ごと家禽を殺すことができる手っ取く、安価な方法だからです。
しかし農林水産省はあくまで、換気を止めるのは家禽を殺すためではなく、ウィルス拡散防止のためだ、と言います。本当にそうなのでしょうか?コチラに書いた通り、実際に家禽を殺すために換気を止めるという自治体もあるのに?
ウィルス拡散防止のためになら、どんな殺し方をしてもいいのか?
農水省は、周りの農場に鳥インフルエンザが広まって奪われる家禽の命を減らすことも考えなければならない。そのために換気を止めることが必要だ、といいます。奪われる命を減らすことを考えなければならないというのはその通りではあります。しかし、農林水産省へのはじめの質問書で提示した法令遵守も必要です。長時間かけて熱死・窒息死に至らしめる拷問ともいえる換気停止は、法令に反します。農林水産省自身も、高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアルのなかで次のようにも書いています。
動物の愛護、作業の省力化及び安全性の確保の観点に配慮して、殺処分は脊髄断絶又は二酸化炭素ガス等による窒息により行う。
換気停止が、ウィルス拡散防止のためであって、鶏を殺す目的ではないのならば、換気停止を行った場合は、数分ごとに鶏舎の様子を確認し、高温になりすぎていないかなどを確認し、法令に反するような殺処分に至る可能性があるならば換気を再稼働する必要があるでしょう。そのことを農水省に伝えましたが、約束はしていただけませんでした。
ウィンドウレス鶏舎は外への強い気流が流れているので換気を止めなければならないというのならば、補助金で次々とたてているウィンドウレス鶏舎の建設を止めればいいんです。「防疫に強い」としてウィンドウレスが導入されていますが、今シーズン(2020-2021年)、鳥インフルエンザが発生した農場の半分はウィンドウレス鶏舎です。防疫に強いのかも謎、ウィンドウレス鶏舎に閉じ込められる鶏は一生日の光を見ることもできず、動きまわると飼料効率が悪いからと言って活動が活発にならないよう薄暗がりの中の生活を強いられます。そしてひとたび鳥インフルエンザが発生すると熱死・窒息死です。
鳥インフルエンザは一向に終息のめどが立ちません。鳥インフルエンザが発生するのは冬だけとは限りません。今後も換気を止め続ける限り、数えきれない数の鶏が悲惨な最期を迎えることになります。
引き続き農林水産省には「換気を止める」という手順を考え直してもらえるようお願いをしてまいります。
皆様からもぜひ農林水産省に意見を届けてみてください。