2021年度、生きたまま熱湯に入れて茹で殺された鶏の羽数が558,181羽であったことが、厚生労働省の統計データからわかった。この数字は前年に引き続き過去最高となっており、国内の食鳥処理場での失敗率は改善していないことを示している。食鳥処理場は肉用鶏(ブロイラー)の食鳥処理場と、採卵鶏(廃鶏)の食鳥処理場に分けられるが、2021年度は肉用鶏の食鳥処理場で悪化、採卵鶏の食鳥処理場では改善が見られている。肉用鶏は毎年7億羽以上もが殺されているため、悪化すると鶏の数へのインパクトが大きくなる。
生きたまま茹で殺すのは、屠殺の際に首を斬ることに失敗して失血死させきらず、生きたまま次の工程である湯漬けに進んでしまった事により起きており、この場合、熱湯によって皮膚が真っ赤に変色し、その痛々しい死体は廃棄されている。どのような状態になるのかは動画を見て確認してほしい。
肉用鶏の屠殺は年々増え続けている。しかし、その割合を15倍超えて生きたまま茹で殺す割合は増加した。
数としては38,1216羽が茹で殺されている。745,177,638羽が2021年度中に屠殺されているため割合としては0.051%にすぎないかもしれないが、本来このような痛ましい事故は0でなくてはならないことである。それが55万回起きているのだ。55万というのは鳥取県の人口以上である。
失敗の割合が高い都道府県、、、つまり屠殺の精度が低い都道府県を順に見ていこう。
大阪府は2020年度は0.2003%であり、そうとうに精度が悪く、もはや雑で命を軽く考えているとしか言いようがないだろう。それ以前も成績は悪い。その他の都道府県も、これまでの成績もずっと悪く、岐阜県や山口県などはずっと0.1%を超え続けている。
逆に成績が良いのは香川、佐賀、愛媛、新潟、茨城、岩手、群馬であり、0%はないにしても精度は国内では高いほうだと言える。
つぎに、屠殺数としてより多く失敗した、、、つまりもっとも鶏を苦しめた都道府県を順に見ていこう。
生きたまま熱湯に入れられる事故の30%が宮崎県で起きているという結果だ。宮崎県はとくに2021年度は成績が悪く、前年よりも45000羽も増加してしまっている。
本来この茹で殺すという事故は改善されていって減っていくべきものであるにも関わらず、肉用鶏の屠殺について改善は見られず結局数が増加した結果になっている。世界中でアニマルウェルフェアの重要性は高まり、このような明確な虐待的扱いは減らさなくてはならない時代にあって、あまりにも意識が低いと言える。
採卵鶏は産卵開始後400~650日で殺されるが、その廃鶏の屠殺はブロイラーの屠殺よりも乱雑に行われることがこの茹で殺す割合からもよく分かる。平均して0.212%の割合で茹で殺す事故を起こしており、ブロイラーの0.051%の4倍である。
しかし2021年は2020年度よりは2020年度0.260%から2021年度は0.212%とと改善している。しかし、2011年度には0.128%だったのだ。そこから悪化し続けたものが止まったという程度である。
北海道の採卵鶏の屠殺の精度は相当に低い。2020年度には1.2188%、2021年度には1.072%の割合で茹で殺している。つまり100羽に1羽以上失敗していたということなのだ。これは事故というよりも、その食鳥処理場は機能不全に陥っているとすら思える。OIE(世界動物保健機関)の規約では「血管切開後は、少なくとも30秒間、又はいかなる場合であっても全脳幹反射が停止するまで、動物に対し熱湯処理又は加工処理を行わないこと。」「意識がある又は生きた鳥が、熱湯処理タンクに入ることがないよう、あらゆる努力がなされること。」と強く書かれており、また「作業者は放血の間中、動物を観察し、検査し、動物にアクセスことができるものとする。意識を回復する徴候を示す動物は、再びスタニングすること。」とし、放血時間の間にも監視を行うことを明示している。100羽に1羽の割合で起きるような、またはそれが多少良くなったとしても200羽に1羽起きるようなネックカットの失敗を見逃すのは、そうとうに”なにも努力をしていない”状態であることが推測できるのだ。
3番目に入っている徳島県は年間の屠殺数が30万羽以下の認定小規模食鳥処理場のため個別の食鳥処理場名は不明だ。しかし、少ない羽数を殺す小規模食鳥処理場の場合、失敗は少なくなるのが普通であるし、実際他の都道府県で小規模食鳥処理場の場合は失敗率は低い傾向にある。しかし徳島県の小規模処理場は小規模だから丁寧なのではないかという期待はあっさり裏切る結果だ。
次に鶏の数でみてみると、以下の順番になる。
割合を減少させてきている都道府県は、岐阜県と茨城県だった。茨城県の食鳥処理場では従業員への啓発と教育によりその数を減少させているという。改善は可能なのだ。それでも数を見てみると決してゼロに近いわけではなく、世界がガスで眠らせてから懸鳥して首を斬るという方法で改善を図っているように、国内食鳥処理の方法も根本的な改善が必要だ。
屠殺場での精度をあげるためには、経営者の意識が重要である。経営者の意識が低く従業員に対してアニマルウェルフェアや動物の命の大切さを教えず、また考えさせていないような場合には、動物への扱いは改善しない。意識の改革はハード面の改修ではないのだから費用はかからない、今すぐにでも取り組むことができるのだが、いかんせん、トップが意識が低ければ進むのはむずかしいだろう。しかも、食鳥処理場を指導する立場にある厚生労働省も環境省も、畜産物を管理する役割にある農水省も、さらには直接現場に出向く地方自治体行政も、アニマルウェルフェアの改善を意識していなければ、意識向上による改善は期待しにくい。
OIEの動物福祉規約は、そもそもスタニング(意識喪失)をさせることを前提に書かれている。しかし、日本の食鳥処理場はこのスタニングをしていないところがほとんどだ。そのためあらゆることが守られていないようである。
スタニングをしていれば、失敗は減る。意識を失っている鶏の首を斬るのと、意識を保ち抵抗しようとしている鶏の首を斬るのでは難易度は全く異なるのだ。そしてその後の観察も、バタついている鶏の失血状態と、意識のない鶏の失血状態を確認するのでは難易度が異なることは容易に想像がつく。
スタニングをする食鳥処理場であっても、電気が流れる水槽に頭を浸けて意識を失わせる方法を取るところがほとんどである。この場合、電気水槽の上を通るときに鶏が頭をもたげ、スタニングがされないことがある。そうすると、スタニング無しで首を斬ることになり、上記同様に失敗が発生しやすくなる。世界では、この失敗をなくすためにも、ガスで眠らせてから首を切る方法への転換が求められている。