牛の肉を輸出しようとする場合は、輸出先国が求める動物福祉要件を満たさなければならない場合がある。いっぽう牛の肉の国内向け消費の場合は、そのような要件はなにもない。
米・カナダ・香港へ牛肉を輸出しようとする場合の認定要綱には、次のように書かれている。
「対米輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定要綱」
「対カナダ輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定要綱」
「対香港輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定要綱」
第4 人道的な獣畜の取扱い及びとさつ1 けい留場、導入路等は、獣畜に危害を与えないように必要に応じ修理補強を行い、その維持管理に努めること。
2 けい留中の獣畜には給水し、24時間以上けい留する場合は給餌を行うこと。
3 とさつペン室へ獣畜を追い込む際、獣畜に与える刺激や苦痛は最小限なものであること。
4 スタンナーによりとさつ処理を行う際には、1回の打撃で獣畜を無意識の状態にし、以後放血作業まで無意識の状態を保持させること。
5 スタンナーの整備を定期的に行い、その性能を保持すること。
6 スタンナーには安全装置を設けるとともに、使用に当たっては検査員、作業員に危害を与えないよう取り扱うこと。
7 非人道的な処理として、検査員に指摘された場合は、その指示に従い処理方法を改善すること。
オーストラリアに牛肉を輸出しようという場合には、「対米輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定要綱」の要件を満たす必要がある。
「対ブラジル輸出牛肉の取扱要綱」
3 対ブラジル輸出牛肉の要件(1)食肉衛生証明書における証明事項
イ 製品は、人道的に取り扱われ、苦痛を与えられることなくとさつされた動物由来であること。別添1 動物福祉に関する条件
1 動物のけい留及び移動
(1)けい留場は、給水及び給餌設備が設けられていること。
(2)けい留場の床は、適切に舗装され、不浸透性であり、排水に容易な勾配が設けら
れていること。
(3)動物の移動の際には、動物に傷害を与えるような鋭利な器具等を用いないこと。
2 動物のとさつ
(1)動物を意識消失させた後は、速やかに放血を行うこと。
(2)剥皮等の作業は、3分間以上放血した後か又は瞳孔の散大が認められる等生体反
応が完全に消失した後に行うこと。
「対台湾輸出牛肉の取扱要綱」
第4 人道的な獣畜の取扱い及びとさつ
1 けい留所、導入路等は、獣畜に危害を与えないように必要に応じて修理補強を行い、その維持管理に努めること。
2 けい留所は、獣畜が休めるよう十分な空間を有し、清潔な水を十分にかつ衛生的に供給できる設備を適切に配置すること。
3 とさつペン室へ獣畜を追い込む際の獣畜に与える刺激、苦痛等は最小限なものであること。
4 スタンナーによりとさつ処理を行う際には、1回の打撃で獣畜を無意識の状態にし、以後放血作業まで無意識の状態を保持させること。
5 スタンナーの整備を定期的に行い、その性能を保持すること。
6 スタンナーには安全装置を設けるとともに、使用に当たっては検査員、作業員に危害を与えないよう取り扱うこと。
7 上記1から6を満たしていないことを、検査員に指摘された場合は、その指示に従い処理方法等を改善すること 。
EUに輸出しようとする場合はさらに厳しい動物福祉の要件を満たす必要がある。
追記:この動物福祉要件は2019年12月11日に改正され、家禽の福祉要件が追加されるとともに牛についてより具体的な福祉要件が追加されました。下に記すのは2019年12月10日以前の「動物福祉に関する基準」です。11日以降のものはこちらをご覧ください。
「対 EU 輸出食肉の取扱要綱」
別添5 動物福祉に関する基準1 一般的事項
(1)と畜場において、EU 向け輸出の牛の搬入からとさつまでの間、動物福祉の観点か
ら適切に取り扱われること。
(2)本基準を確実に実施するため、動物福祉に関する内容のマニュアルを整備するこ
と。また、施設に動物福祉責任者を置き、同マニュアルに基づき適切に実施されて
いることが確認されていること。
2 と畜場の設備等
(1)けい留所及び通路は、牛が動揺しないよう環境を管理し、通常の動作を容易に行
うための十分な広さを有すること。
(2)けい留所及び通路にタラップを設ける場合には、牛の落下を防止するための設備
が設けられていること。
(3)けい留所には、牛が常時支障なく給水できるよう、適切な給水設備を設けること。
(4)けい留所及び通路の床面は、凹凸を設ける等牛の転倒を防止する構造を有してい
ること。
3 と畜場における取り扱い
(1)と畜場に到着後、できる限り速やかに生体を積み下ろし、過度な遅延なくとさつ
すること。12 時間以内にとさつされない場合には給餌し、その後も適切な間隔で適
量の給餌をすること。
(2)積み下ろし後直ちにとさつされない場合には、常時飲水できるようにすること。
(3)次の行為は禁止する。
・手足又は器具による強打
・目、鼻、尾等過敏な部位の刺激
・頭や耳、角、脚、尾等の牽引
・鋭利な器具による突き立て
(4)電気ショックを与える器具の使用は避けること。なお、移動し難い成牛のみ使用
しても差し支えないが、1秒以内とし、繰り返し使用しないこと。
(5)ロープを使用して角、鼻環又は両脚を拘束、牽引等しないこと。ロープの使用に
当たっては、次のとおりとすること。
・牛が障害を受けることがないよう適切に結さつすること。
・牛が必要に応じて、横臥、飲食できること。
・牛の首が圧迫又は障害を受けない方法によること。また、その恐れがある場合には、
直ちに解放が可能となるよう措置すること。
(6)と畜場の開場時には、常に隔離所が使用できること。
(7)動物福祉責任者は、けい留場所における牛の健康状態を定期的に点検すること。
(8)スタンニングから放血までの操作は、1 頭の牛に対して連続して行うこと。
(9)放血後の剥皮等の作業は、牛の生体反応が完全に消失してから行うこと。
ニュージーランドに牛肉を輸出しようという場合には、「対米輸出食肉を取り扱うと畜場等の認定要綱」あるいは「対 EU 輸出食肉の取扱要綱」のいずれかの要件を満たす必要がある。
輸出されない場合には、屠殺場での動物福祉要件はない。
例えば「と畜場における動物への給水」について、2010 年9 ~ 10 月と2011 年1 ~ 2 月に北海道帯広食肉衛生検査所などが行った調査*では、と畜場で常時飲水できる牛は49%(豚は14%)という結果であった。また、2016年5月~7月にアニマルライツセンターが行った調査では、と畜場で常時飲水できる牛は53%(豚は25%)という結果であった*2。
同じ日本で飼育されてきた牛であっても、輸出される場合には動物福祉が求められるが、国内で消費される場合にはそうではないという状況だ。
* と畜場の繋留所における家畜の飲用水設備の設置状況 奥野尚志1)† 鹿島 哲1) 山澤伸二2) 斉藤啓吾3)
1)北海道帯広食肉衛生検査所(〒080h2465 帯広市西25 条北2)
2)北海道浦河保健所(〒057h0007 浦河郡浦河町東町ちのみ3h1h8)
3)北海道北見保健所(〒090h8518 北見市青葉町6h6)
(2013年1月7 日受付・2013年9月9 日受理)