2017年7月、鹿児島県曽於市の山中にある放牧養鶏場「サテライツ」に見学に行ってきました。
「鶏に対して、礼節を忘れないようにしています。」サテライツ代表の川原嵩信さんはそう言います。
「鶏は体の小さな生き物です。
これから迎える夏は、体温が平均42°C前後の鶏にとって 命がけで越えなければならない大変な季節です。そして、秋の初めから、翌年の5月までは間断なく鳥インフルエンザの緊張が続きます。
ストレスの少ない環境で 体力を落とさず 自分自身の寿命まで生きてほしいという私たちの願いに今の自然環境は厳しいものの、そのような季節を乗り越えて産んだ卵を分けてもらっている以上、私たちは鶏の健康維持を支援し、人間の思惑の介入で生きづらくならいよう 彼らに対する礼節は忘れないようにしています。」
鶏への思いは彼らの飼育環境に反映されています。
川原さんの一日は、朝、鶏のご飯を買いに行くことからはじまります。出来立てのオカラです。鶏たちには新鮮で旬な食べ物が与えられ、ストレスが無い生活がおくれるよう配慮されています。
農場は約750平米(約227坪)の庭で65羽 の放し飼い。雄鶏は65羽のうち12羽。
群れはボス鶏を中心として、自由な生活をおくっています。あちこちに藁や草、土などの突ける材料がふんだんにあり、鶏は好きな場所で砂浴びができます。止まり木になる場所もあちこちにあります。
ここでは鶏同士のツツキが発生していません。
夜は野生動物に襲われるのを防ぐために 倉庫(40平米 寝床 止まり木有り)に移動させ、鶏は早朝までそこで休みます。
採卵用に飼育されている鶏は1~2年で「廃鶏」として屠殺されます。
しかしサテライツの鶏は終生飼育です。
「農場には、今年で生まれて約7年目の長老と呼んでしる雌鶏がいます。雄のボス鶏は、約5年目を迎えました。若鶏を教育しグループをまとめ上げるまで成長した彼らの姿をみると、上手く年齢を重ねて来たんだなと思い、つくづく良いパートナーに出会ったと思います。」
そういう目線が、経済動物と言われる鶏の終生飼育につながっています。
農場には廃鶏にされるところを引き取られた鶏もいます。
「できるだけ命を助けたい」と川原さんは言います。
現在の農場のボスも廃鶏寸前の時に 引き取られた鶏です。引き取り後しばらくして鶏たちのボスになり、一度陥落して、再びボスの座に返り咲いたという猛者です。穏やかな落ち着いた性格で、グループ内の鶏からの信頼がとても厚いそうです。
サテライツのボス鶏
オスの鶏も同じです。オスは卵を産まないため、普通の養鶏業ではオスの雛は殺処分されます。しかしこの農場ではオスもメスと一緒に終生飼育されます。
「人間はとても弱い生き物だと思っています。卵を産まないからという理由でオス鶏を殺生すると、何かの理由をつけては、殺生を繰り返すことになります。何より、私共は性格的にできない。それも大きな要因です。」
川原さんはそう言います。
ここで産まれた鶏たちはデビーク(クチバシの切断)もされていません。鶏にとってのクチバシは人間の手足にあたる重要な部分です。
「鶏が、嫌がること 痛がること 本能を無視することはしない」というのがこの農場のスタンスです。そもそもこの農場では、鶏たちはストレスなく自由に歩き回れるので、お互いをつついて傷つけ合うということをしません。鶏たちはクチバシで、草や枝きれなど気になるものを思う存分つつき、餌を探しては地面をつつきます。
(ただし、サテライツには里子として引き取られた鶏もおり、もともとデビークされているものもいます。また一度だけ去年の夏に購入した鶏にデビークされたものがいたそうです)
普通の養鶏では鶏が病気や怪我をしても治療や手当はされません。養鶏の専門書はたくさんありますが、鶏を「終生飼育する養鶏」の専門書はありません。現代の養鶏業において鶏は治療する対象ではなく、病気や怪我になれば処分する対象だからです。しかしサテライツでは病気の鶏は隔離され、看護されます。「どうすれば鶏を長生きさせられるのか」というマニュアルがない中、手探りでこれにとりくんでいます。
農場での産卵数は普通の養鶏業に比べて低いものとなっています。ここでは鶏に産卵を強制せず、夏場冬場は体力を温存させることに注力するためです。
一個100円の卵を高いと感じる人もいるかもしれません。しかしその価格はそのまま鶏への配慮に反映されています。
サテライツでは、自分のところで鶏を飼育するだけではなく、近所の民家で鶏を飼ってもらうという「庭先養鶏」の委託も行っています。庭先養鶏とは川原さんの農場で行っているような、少数の鶏を農家の庭先で自由に運動や食事ができる環境で育てる養鶏のことです。
委託先の卵を買い取りサテライツで販売する。こういった地元住民の収入にもつながる新しいビジネスモデルにもチャレンジしています。新たな産業のない限界集落において、この「庭先養鶏」ビジネスは新聞などでも取り上げられ注目されています。
かつては裏庭で副業として鶏を数羽飼い、卵を売る。そんな庭先養鶏が普通のスタイルでした。ケージという羽ばたきもできない狭い檻に鶏を閉じ込めて卵をとりつづける。鶏をこのようにあつかうことは昔では思いつきもしなかったでしょう。しかし現代の養鶏のほとんどはケージ飼育です。そこにあるのは人間と鶏との良好な共存関係からほど遠く、「卵をいただくならば鶏への礼節を忘れない。」という道徳を見出すことは困難です。
生産効率を追い求めていった結果、私たちは知らず知らずのうちに命あるものへの配慮を忘れてしまったのかもしれません。サテライツの農場では鶏がクチバシで地面をあちこちつつき、時に走り回り、大変忙しい一日を過ごします。オス鶏たちは、群れが日向ぼっこしているときも、食事中をしているときも、警戒を怠らずすっくと立って周りに注意を払います。育ての親鶏の後を雛がついて歩く様子、親鶏が雛を注意深く見守っている様子、そういった光景は、現代社会の中で私たちが鶏から何を奪ってしまったのか、鶏と人との関係はどうあるべきなのか、私たちに問いかけてくれます。
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現在(2017年7月時点)サテライツで購入できる卵は、川原さんの農場のものと委託先一軒のものです。委託先も終生飼育をする農場です。
ただ、今後委託先が増えて行った時、販売されるすべての卵が終生飼育とは限りませんので、気になる方はご確認ください。
鹿児島県曽於市 放牧養鶏 サテライツ
http://satellitesinc.jp/
写真はすべてサテライツの農場のもの(2017年7月撮影)