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埼玉県にある丸一養鶏場には、エイビアリーの鶏舎が導入されています。エイビアリーとは、多段式のケージフリーシステムのことです。

国が推進する「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針」は、エイビアリーを次のように説明しています。

エイビアリー
エイビアリーは、止まり木を設置した休息エリア、巣箱を設置した産卵エリア、砂浴びのできる運動エリア等を備えた平飼い鶏舎のことで、鶏の行動がより多様になるようアニマルウェルフェアに配慮して開発された飼養システムである。
止まり木、巣箱、砂浴び場を設置するためのコストや、集卵、砂浴び場の敷料の交換、消毒の際の作業時間の増加等の維持コストが従来のケージシステムと比較して高くなるが、多段式にすることにより、坪当たりの飼養羽数を増やすことが可能である。

日本の養鶏は92%以上*がケージ飼育。
国内でもケージフリーの卵を求める声は少しずつ増えているように感じますが、ケージフリーの取り扱いのあるスーパーは22%**とまだ少ない状況です。
なかなかケージフリー卵が普及しない理由の一つとして「日本には土地がない」ということがよく言われます。たしかに、いままで積み上げていたケージの中の鶏を平飼いや放牧にしようとすると、その分土地が必要になってきます。
この「土地が無い」という問題をクリアし、卵の消費量にこたえる供給量を確保でき、かつアニマルウェルフェアに配慮した飼養システムがエイビアリーです。

今後日本でケージフリーへの移行が本格的にはじまったとき、このエイビアリーは鍵となってくるかもしれません。
しかしエイビアリーとは実際どんなものなのでしょうか?
日本で唯一エイビアリーを導入している埼玉県 丸一養鶏場のオーナー、一柳さんに見学を願い出たところ、快く了承をいただきました。

2017年7月丸一養鶏場 エイビアリーを見学

放し飼いエリア

ここはエイビアリー鶏舎に隣接する半屋外の放し飼いエリアです。鶏はこのエリアとエイビアリー鶏舎を、矢印の出入り口から自由に行き来します。
エイビアリーシステムには必ずしもこの放し飼いエリアが付属しているわけではありませんが、丸一養鶏場のようにこのエリアを設置すると、より鶏の選択肢が増えると言えます。

オーナーの一柳さんに寄ってくる鶏たち

多段式システム

そしてこちらがエイビアリー鶏舎の中です。

鶏舎はこのように多段式になっており、左の黒い矢印の出入り口が半屋外に続いています。
この多段設備の下を通って、鶏たちは白い矢印の向こうまでずっと歩いて行けるようになっています。
一番下の床面には敷料がひかれており、ここで砂浴びをする姿もみられます。


矢印の二段目と三段目に餌場と水飲み場があります。

餌が食べたいとき、水が飲みたいとき、鶏たちは一番下の床面からヒョイと軽く飛び上がって
二段目に移動します。二段目の奥には巣箱があり、そこからさらに三段目に移動することができるようになっています。

こちらが巣箱の側から見た様子です。
白い矢印の部分が餌場と水飲み場

オレンジ色の垂れ幕の奥が巣箱になっています。

鶏たちは卵を産みたいときはこの中に隠れて産みます。
三段目に移動したいときは、この巣箱からこれもヒョイと軽く飛んで鶏たちは移動します。
エイビアリーシステムの鶏たちは、鶏舎の中を羽を広げて飛んだり跳ねたり自由に動き回ります。

三段目のエリアです。ここがエイビアリーの一番上の部分になります。

鶏たちはやはり高いところを好むそうです。

鶏舎の中の明かりは夜になるとバチンと一気に消灯されるのではなく、自然界と同じように徐々に暗くなっていきます(朝は逆に徐々に明るくなっていきます)。そうしないといきなり電気が消されてしまった鶏はどこに戻ればよいのか分からなくなってしまうそうです。だんだん暗くなってくると外にいた鶏も鶏舎の中に入り、みな止まり木へ上っていくそうです。被食種である鶏の本能でしょうか、高いところにいると安心して眠れるようです。

このように、砂浴びをしたいときは一番下の床で、餌を食べたり水を飲んだりしたいときは二段目へ、卵を産みたいときは巣箱に移動し、寝るときは一番上の止まり木に移動する。
こういったジグザグで多様な行動がとれるのがエイビアリーの大きな特徴の一つと言えます。

サラサラの敷料/臭いがしない

エイビアリー鶏舎にいて感じたことの一つに「臭いがしない」ということがあります。鶏があちこちに移動して糞を好きなところにできるのだからこれは不思議なことです。
この鶏舎の鶏たちは今460日齢。かなり飼育期間が経過しています。しかし敷料はサラサラで湿っていません。この鶏たちが入ってきてから一度も替えていないのになぜでしょうか。
一柳さんに話を聞いて、この謎が解けました。
鶏はほとんどの場合餌場・水飲み場があるところで糞をするのだそうです。

水飲み場(オレンジ色の部分)と餌場。

このエリアの床は網状になっており下に糞が落ちます。その下はベルトコンベアになっており、定期的に糞が排出される仕組みです。
一般的なケージ飼育と手間はかわらず、衛生を保てることもエイビアリーの大きな特徴です。

サラサラの敷料

鶏たちの足の爪にも注目してください。動き回ることができないケージ飼育の場合、この日齢だと爪が金網にからまるほど長く伸びてしまいます。
しかしあちこち動き回ることのできるエイビアリーでは、鶏たちの爪はほどよく摩耗し、ちょうどよい長さです。

怖がらない

アニマルウェルフェアを測るものさしの一つに、「鶏が人を怖がるかどうか」というものがあります。見回りの時などに鶏舎に人が入った際、急いで人から逃げる鶏が多いと鶏舎内は騒然となります。しかしここではそんなことはなく、鶏たちは好奇心を持って寄ってきます。
多様性があり本来の行動を発揮できる飼育環境であることが、少しの刺激で鶏が過剰に驚かない理由の一つと言えます。

一柳さんと鶏

「一日中鶏舎にいても飽きない」と一柳さんは言います。
鶏の習性や行動欲求を、緻密に計算されて出来上がったエイビアリーシステムでは鶏たちは様々な顔を見せてくれます。

一柳さんがエイビアリーシステムを導入しようと思ったのは、1999年にEUの放牧農場を見て、鶏が怖がらないことに驚いたことがきっかっけだったそうです。そして今後の世界のバタリーケージ縮小もみすえて、2002年に自社の農場にこのエイビアリーシステムの導入を開始。そのころまだまだ日本では今ほどアニマルウェルフェアの議論が盛んでなかったことを考えると先見の明があったと言えます。現在はケージとエイビアリーの両方の鶏舎を使用していますが、将来的には丸一養鶏場の鶏舎をすべてエイビアリーにしたいとも考えているそうです。

EUに先んじて1981年にバタリーケージを禁止したスイスではこのエイビアリーが広く普及していますが、日本でエイビアリーを採用しているのは、まだ丸一養鶏場だけです。

エイビアリーは、費用面もそうですが、成鶏舎だけではなく育成鶏舎もエイビアリー仕様にしなければならないという課題***もあります。
しかし限られた面積でより多くの羽数を飼育でき、高度なアニマルウェルフェアを実現できるということ、世界的にケージフリーが拡がっていることを考えると、今後エイビアリーは日本で求められるシステムになってくるかもしれません。

 

*2014年飼養実態アンケート調査報告書
このパーセンテージは戸数です。一般的にケージフリーの養鶏では一戸あたりの羽数が少ないことを考えると、市場に出ている卵の100%ちかくはケージのものだといってもよいかもしれません。

**グリーンコンシューマー全国一斉店舗調査2015(環境市民)

***育成期から同様の飼育システムで”教育”することによって、鶏はエイビアリーの中での生活方法を学びます。例えば育成期にケージの中で育てられた鶏は、エイビアリーの成鶏舎に移動しても多段式システムの中でどうやって生活したらよいのかが分かりません。そのため育成期からエイビアリーで飼育する必要があります。
いっぽう日本の採卵養鶏場の半分以上は、ある程度育成された鶏を育雛業者から購入して採卵養鶏を営んでいます。しかし日本ではエイビアリーで育成している育雛業者はありません。必然的に、日本でエイビアリーを導入しようとするなら今の段階では自社で育成舎と成鶏舎を建てる必要があります。丸一養鶏場でもエイビアリーの育成舎と成鶏舎の両方を自社に導入しています。
つまり、育成された鶏を育雛業者から購入している採卵養鶏業者にとっては、エイビアリーの導入はハードルが高くなる、という課題があります。

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