2022年3月、鶏卵最大手のイセ食品が多額の債務を抱え会社更生法を申し立てたというニュースが流れ、注目を集め続けている。
イセといえば、バタリーケージによって日本一多くの鶏を拘束している企業で、その数は1300万羽にものぼっているという。アメリカではケージフリー鶏舎を取り入れ始めているものの、その動きは非常に遅かった。時期的に考えると、各州が条例でケージ飼育の卵の売買ができなくなるという強い規制を打ち出すことで否応なく取り掛かったと思われる。イセ食品は、”国内鶏卵最大手”、”卵の薄利多売のビジネスモデルの立役者”、”卵の価格破壊をした会社”、”安い食べ物を求める人の味方”、いろんな見方があると思うが、動物保護団体としての見方は日本でいちにを争う”アニマルウェルフェアの向上に後ろ向きな企業”だった。
海外団体がイセの養鶏場内での残酷な飼育と殺処分について明らかにしたことも記憶に新しい。弱った鶏を長時間かけて衰弱死させる方法をとっていたというものだ。
だが、社会的責任を一切果たすつもりがないわけではないだろう。動物虐待の防止を求める問い合わせに対し、別の大手鶏卵企業やここのスポンサーになるかもしれないとの報道もある豊田通商が無視を決め込む中、私達市民団体の問い合わせに回答をくれていた企業だ。今後どのような状況になるのかはわからないが、アニマルウェルフェアをないがしろにせず、ケージフリーの方向に変わってくれることを願う。
そして同時に、世界が求めるアニマルウェルフェアに対応できない企業のままで居続けるのであれば、やはり先は暗いのではないかと懸念する。
ケージにできる限り多くの鶏を詰め込み、2kgの体重の鶏に60gの卵を年間300個も産ませ、その卵を1個10円〜25円の安価な価格で売り続けるというビジネスは限界がある。
企業との対話の中でも、市民の反応の中でも、卵1個が20円から25円に上がることを嫌がる企業もある。卵にそんなに費用をかけたくないというわけなのだ。
しかし、価格の優等生とおだてられながら、卵が低価格を維持しているのは国の施策や市民からの要望が理由ではない。鶏卵業界自らが、常に過剰に生産し続けるためだ。過剰に生産して損害が出ても、税金を使って補填される仕組みも、この過剰生産に拍車をかける。この限界が透けて見えるビジネスモデルを作ってきたのは他でもない、イセ食品のような超大規模工場畜産を拡大し続けた生産者たちだ。
結果的に、鶏が一層苦しむわけだが、前述したとおり、アニマルウェルフェアを上げることに関心がない生産者はまだまだ多いのだ(※全部ではない)から、大規模化と、過密化は進み続けている。イセの一羽あたりの飼育面積は285平方cmで、ここまで狭いのは世界一ではないかと思われる。ちなみにお隣韓国の規制では1羽あたり750平方cmを与えなくてはならない。実に韓国の鶏の38%のスペースで卵を生みながら一生を過ごすことを強要しているのだ。人道に反する狭さである。しかしこれが日本の鶏卵業界の一般的飼育方法であり、最大手のイセが牽引してきたことは、まさにアニマルウェルフェアの真逆を行く道だったのだ。
だがこの流れは日本の道であって、世界の道は全く違うところに向かっている。
ケージに鶏を高密度で閉じ込めてとにかくたくさんの卵を得ようという考えは、世界ではすでに終焉を迎えつつあり、養鶏は次のサイクルに入っている。もちろんこの流れに鶏卵業界が喜んでついてきているわけではなく、抵抗を示しながら、世界のニーズの変化に渋々ついてこざるを得ない状況になっている。
アメリカでは7州がケージで飼育された鶏の卵を州内で売買できないという強い規制を作ったが、このときケージの生産者を多く抱える州や鶏卵関係の団体はこの条例は違憲だと異議申し立てをして裁判になった。しかし度々、米国最高裁判所はこの訴えを棄却している。
このような抵抗を受けつつも、EU全域で52%の採卵鶏はすでにケージから解放されており、アメリカでも2025年末には66%の鶏がケージから解放される。
また、タイ、台湾、フィリピン、中国がケージから解放した飼育方法の基準を策定した。これが何を意味するのかというと、日本のように何の基準もない国からの鶏卵は信頼を得られないが、これら国々の卵は一定の飼育基準をクリアすることを担保されるため、信頼を得られるということだ。これは競争力の差を意味している。グローバル企業の多くはただケージフリーでいいということではなく、更に細かい飼育基準を持っているためだ。
タイの大手企業はケージフリーへの取り組みを”売り”にしながら輸出拡大を狙っている。日本政府は香港などへの卵の販売の拡大を狙っているが、ケージ飼育でしかも何の飼育基準もない日本の卵の需要はなくなり、他国のより良い卵に切り替わるだろう。
国内の流れはどうだろうか。国内でも私達が対話する企業はなんらかケージフリーへの取り組みを模索し始めており、ケージフリーの流れ、またはケージフリーの必要性を否定できる企業はほとんどないといえる。
機関投資家はアニマルウェルフェアに対応しないことのリスクを嫌うようになっている。そのなかでこのようにアキタフーズに続いてイセ食品も世間を騒がせるようなことになったのだから、この鶏卵の安かろう悪かろうのビジネスモデルに不安を感じるのではないだろうか。
そのケージの卵に固執し続ければ、その卵を調達する側の企業も一緒に信頼と価値を下げることになるだろう。
遅かれ早かれ、日本はケージフリーの流れ、アニマルウェルフェアを高めるための流れを受け入れなくてはならない。そのスピードは、できれば早いほうが企業の価値を維持できるのではないかなと、私達は思うのだ。
多くのお金を稼ぎ、社会的影響力を持つ企業や人はより大きな責任があることを忘れてはならない。アキタフーズの元代表は裁判の中で鶏卵業界の地位の低さや、その苦労を訴えたようだ。しかしそれは自分たちが鶏にしてきたことだ。業界は自ら卵の価値を下げるという道を選んできている。自分たちが鶏を見下し、業界全体を時代遅れな技術にとどめようとし、動物に一切の譲歩をしてこなかった。動物たちのために価格をあげようという声を上げたりはしなかった。
自分たちの商売のために身を削らせ命すら奪っている鶏たちを振り返りもしないのだから、その業態が改善できないのも当然というものだ。
これまで、動物たちによってビジネスを成り立たせているのに、その事を忘れて動物たちを苦しめる技術にばかり偏ってきた。
卵を調達する企業は、業界が作り出した犠牲をはらんだ安さに甘えてこの虐待を許し続けてきた。
そろそろその考えを根本から改める時期だ。すべての日本企業に、最低ラインとしてのケージフリーを望む。