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母豚のストールフリーは生産者と小売り業者とのタッグから始まった

母豚のストールフリーは生産者と小売り業者とのタッグから始まった

取り組みの始まりは生協から

母豚のストールフリー飼育に力を入れる㈱七星食品を、アニマルライツセンターが知ったのは、関西四国地方でアニマルウェルフェアをいち早く取り入れた、コープ自然派の取り組みからでした。コープ自然派が目指す農業の課題には、まず農薬の問題がありました。その目に見える指標として、地域の昆虫や野生鳥類の生態系の観察があり、その先に生まれてきたのが、地域の畜産動物の飼育環境はどうなっているかという疑問でした。さらにヨーロッパの新しい畜産の流れに刺激され、アニマルウェルフェアはコープ自然派の取り組みの大きな柱になっていくのです。

それを実践していくうえのパートナーとして、注目したのが七星食品でした。そのころの七星食品もまた、ヨーロッパのアニマルウェルフェアの流れを受け止めて、ストールフリーでの母豚飼育に踏み出そうとしていたからです。七星食品には古くからある繁殖豚舎が2棟あり、その1棟をストールフリーへ切り替える準備をしていました。当時のストールフリー豚舎はストール豚舎よりも建設、運営コストがかかると見込まれており、少し販売価格が高くならざるをえないストールフリー母豚産の肉を、本当に買ってくれる消費者がいるのかという疑問がありました。そこで七星食品はコープ自然派に何度も何度も確認しました。

「間違いないですよね?消費者に買ってもらえますよね?」

コープ自然派は組合員へのたゆまぬ発信で、その不安にこたえようとしました。七星食品に対し

「次の組合員への発信はアニマルウェルフェアをテーマにします。それについてこんな写真はありませんか?」

コープ自然派は何度も七星食品の養豚の様子をわかりやすい写真を添えて発信し、そのアニマルウェルフェア的な価値は組合員に浸透していきました。コープ自然派という意識の高い生協が推進するアニマルウェルフェアというひとつの運動に、組合員が消費という形で参加したいとおもうようになっていくのです。

ストールフリー豚肉の難しい課題を超える生産者マインドとは

しかし、母豚のストールフリー養豚には一つの難しいビジネス課題があります。それはストールフリーとそうでない豚肉の味に変化がないのに、価格が違うということです。七星食品の肥育(肉用豚)施設にはバイオベッドや一頭あたりの飼育面積など、他と差別化できる要素があり、それははっきりと品質の違いにでるから、消費者からも高い評価を得ています。しかし母豚の環境を狭いストールから自由に動けるストールフリーに変えることは、目に見える、食べてわかるような商品価値の変化をもたらすものではありません。生産事業部の海部さんはストールとストールフリーの違いを

「繁殖成績が変わるということはない。つまり、ストールフリーにしたからといって生まれる子豚の数が変わるわけではないということ。しかしそれであれば、ストールフリーのほうがいいと思う。同じ成績ならば、ストールフリーのほうがいいとおもうんです。当社にはストールとストールフリーの豚舎があるので、比較すると、狭いストールにいる母豚はかわいそうだとおもう。前後20センチぐらいしか動けないんですよ。横は動けない。

豚の飼育をする仕事のやりがいは数をこなすことではないんです。豚と遊ぶというのかなあ。豚と戯れられるのがストールフリー豚舎。もともと豚は鼻がよくて、飼育者一人ひとりを認識しわけている。とくに母豚は飼育期間が長いからよく懐く。それが飼育管理の仕事の幸せなんですよ。でも(妊娠)ストール豚舎の母豚のことは機械のように感じてしまう。豚として見たいのに。それでも人間のにおいを感じるから、慣れて戯れるけれど。でもストールフリー豚舎なら、同じ飼育が楽しいんですよ。生産者の幸せ。生産者の喜び。我々の業界には動物が好きで入ってくる若者が多いから、やりがいとしては大きな違いとなる。豚と戯れられる仕事がしたいのだから、ストールフリーだと仕事が続けやすくなる。結局生産者が楽しいと思えるのがストールフリー飼育の価値だとおもいます」

海部さんの言葉を言い換えるなら、養豚事業の持続可能性に集約されるでしょう。現在の畜産の最大の問題は働き手の不足で、それで経営困難となり廃業する事業所があとを絶ちません。これを克服する最大のカギがストールフリー化だと、海部さんはおっしゃっています。養豚は辛い、大変な仕事だとマイナスに陥りがちな生産従事者のマインドを、養豚は大変だけど楽しい、豚の世話ができて幸せだに変えていくのが母豚のストールフリーなのです。

海部さんは

「母豚が自由に動けるストールフリーには足に怪我をしたり、喧嘩するなど一長一短ある」

とも言います。まだストールフリーに取り組んでいない養豚業者の多くが、この点に不安を持ちますし、それはストールフリー飼育の注意点であることを意識して、海部さんは日々、豚を世話しています。だからこそ

「従業員の教育が大事。何に注意すべきか、どこを見るか、しっかり仕事を覚えていく」

進むストールフリー。不安をもらす経営担当者

2021年に日本ハムがストーリフリー宣言をしたときには、「流れが来たな」とおもったという海部さん。

「でも自分たちが先駆者。競争するでもなく、自分たちは自分たちの道を歩もうとおもった」

その七星食品は今年、新たな第一歩を踏み出します。もう1棟のストール豚舎もストールフリーに建て替えを始めるのです。これに対して管理事業部の大井さんには心配もあります。

「弊社には阿波ファームとさぬきファームがあります。阿波ファームがすでにストールフリーで、今年からさぬきファームのストールフリー化への建設を始めます。設備は阿波ファームと同じものを導入する予定です。しかし香川県特産豚も生産している関係で、一気にストールフリーに切り替えることはできません。価格の問題がありますから。だからさぬき市の方は段階を追って建て替えていきます。さらに建設資材の高騰の問題、建設作業者の不足の問題がありますから、完成がいつになるかはいまのところわかりません。見積もりをとって、何か問題がおきて、また見積もりをとって、の繰り返しなんです。しかし最終的にはすべてストールフリーにしますよ」

アニマルライツセンターの取材に答えてくださった、生産担当者と管理担当者の完全ストールフリーへの受け止めには、若干の違いがありました。生産担当者の声はあくまでも強く明るく、希望にあふれている。対して管理経営担当者の声は慎重で、言葉を選び、事業の行方を案じながら、それでも覚悟を決めてアニマルウェルフェアの追求に歩みを進めている。これはとても興味深い違いで、現在の母豚のストールフリーの現状を声の表情で示してくれます。母豚が喜ぶ未来に重ねる生産者の明るい未来。その反面、悪化の一途をたどる今の日本経済に対する漠然として不安。七星の場合はうまくいっていますが、ほかのたいてい養豚業者にとっては、ストールフリー豚肉の売れ行きという不安もあります。

この点に対して管理事業部の大井さんはこう分析しています。

「ヨーロッパはアニマルウェルフェアをやろうとして、最初は肥育しかできなかった。それが繁殖(母豚のストールフリー)にも広げられて、今は輸送にも広がってきている。その流れにウチも乗っていきたい。全棟アニマルウェルフェアになったら、むしろヨーロッパだけでなく、日本の農水省の考えもいれて、日本のアニマルウェルフェアを実現していきたい。それが今、一般の農家にできるかといったらできるところは少ないかもしれない。だからこそ完全ストールフリーになったら、農水省の取り組みをしっかり取り入れていきたい。それでウチが日本のストールフリーの基準になっていけば、経営の不安も払拭されるだろう」

「アニマルウェルフェアをやりたい」生産者の本音

最後にちょっと意地悪な質問をぶつけてみました。

-もしコープ自然派の存在がなかったら、七星食品のアニマルウェルフェアはどうなっていたと思いますか?

この問いに対して答えてくれたのは、やはり生産事業部の海部さんでした。

「うーん……コープ自然派がなくても、アニマルウェルフェアはやっていたとおもう。いずれにしても、新しいことをやろうと思っていたときに、ヨーロッパから日本にアニマルウェルフェアが来た。ストールフリーをやりたいと思った、だから、もしコープ自然派さんがいなければ、ストールフリー豚肉を供給できる小売り店を、自分で一生懸命探していたと思う」

その答えを聞いたとき、アニマライツセンターは胸が熱くなったことは言うまでもありません。アニマルウェルフェアをやりたい。ストールフリーをやりたい。働く人が当然求める「やりがい」の追求に、日本のストールフリー化へのカギはあるようです。

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