日本の鶏の屠殺場(食鳥処理場)に運ばれてきた鶏は、まず運搬用のコンテナからつかみだされてをシャックルに逆さにひっかけられる。そして運が良ければ電流の流れる水槽(電気水槽式スタナー)に頭を浸けられて意識を失わされ、悪ければ意識のあるまま、首(頸動脈)を切られ、失血死させられたあと、熱湯につけられる(首の切断に失敗し生きたままで熱湯につけられることもある)。
動物の屠殺において、電気やガスなどで意識を失わせる(スタニング)処置なしで首を切るというのは人道的見地からいうと論外だが、日本ではスタニングなしでいきなり首を切ることが珍しくない。「暴れるのを抑える」などと言う理由で、首を切った後に電流をあてるという処理場もある。日本では屠殺において動物福祉は考慮されていないのだ。
EU指令では気絶処理なしで首を切るという行為は容認されていない。ベトナムでは畜産法により2020年から屠殺の際は、家畜・家禽を気絶させるなどして意識がない状態とし、同種の動物が屠殺の現場を目撃しないようにしなければならなくなる*10。
日本にはこのような法規制は皆無だ。
諸外国ではネックカット前にスタニングが行われるが(EU では義務。義務ではない国でも通常スタニングを行う)、日本の食鳥処理では、スタニングなしでのネックカットがごく一般的だ。
気絶処理なしの鶏のと畜についての専⾨家の意⾒
欧米では少なくともこの電気水槽式スタナーが概ね使用されており、より苦しみの少ないControlled Atmosphere Killing(CAK)またはControlled Atmosphere Stunning(CAS)といったガス殺方法も広まっている。
初めに言っておかねばならないが「苦しみが少ない」のであって安楽殺ではない。なぜなら安楽殺とは麻酔薬の過剰投与しかありませんが、食肉利用される鶏たちには薬剤が残っていてはならないという理由から、使用されない。また一羽一羽大きさも違えば感応性も異なるため、できるだけ安楽に殺そうと思えば個体ごとに殺すしかないが、日本だけで一日に200万羽以上の鶏が殺されているのだ。食鳥処理場(鶏の屠殺場)では「まとめて殺す」という方法しかない。
それでも、安楽殺ではないとはいえ、諸外国ではできるだけ苦しみが少ない方法の研究や議論が活発に行われている。しかし日本は違う。屠殺という作業は肉や卵や牛乳を作る産業と商品には必須であるにも関わらず、偏見や差別が前に出てしまい、タブー視され、そのような研究は皆無だ。
議論すらされない日本では、やはり動物福祉の改善が大幅に遅れている。
ガスにさらして鶏の意識を失わせ(あるいは殺し)たあとで頸動脈を切断して放血する方法のことである。
これまでの研究から、潜在的に適切なガスは、二酸化炭素、アルゴン、窒素に絞り込まれている*2。
1の方法はEU指令においては、家禽を食用目的で通常屠殺する際の使用することは許されていない。それは高濃度の二酸化炭素が多くの動物に呼吸困難を引き起こすためだ。高濃度の二酸化炭素は急速な無意識を引き起こすが、高カルシウム血症や低酸素のために窒息や行動興奮の兆候が見られるなど嫌悪感を有することが示唆されている*4。
そのため、二酸化炭素のみを使用する場合は、2の方法が推奨されている(EU指令においても2の方法は通常屠殺として許されている)。
一部の科学者は、2の徐々に二酸化炭素を増加させる方法のほうが1よりも福祉的だと考えている。しかし高濃度よりもマシだというだけで、二酸化炭素に暴露された鶏が嫌悪感に苦しむことは科学的に明らかになっている。行動実験を行ったところ雌鶏の100%が、90%のアルゴンで満たされた給餌室に自発的に入ったが、ほとんどの鶏はCO2を含む室に足を踏み入れることを拒否したとする研究もあり炭酸ガスではなくできるだけ多くの割合でアルゴンを導入することが必要だ。。
さらに、徐々に二酸化炭素を増加させるというのは無意識に導くまでに時間がかかることを意味し、鶏はこの間呼吸困難の様子を示す。
2の段階式の二酸化炭素ガスチャンバーに入れられた鶏の観察では「息を切らしたり、頭を振ったり、首を伸ばしたりするというCO2嫌悪行動に対する鳥の反応は、ステージ2から始まり、ステージ3までにすべて強いけいれんを示していました。」
The Electrified Stun Bath:Canada’s Outdated Method of Stunning Poultry
以上のことから、人道的なガス屠殺の方法は、不活化ガスを使用した3や4の方法ということになる。
3や4のようなアルゴンまたは窒素といった不活性ガスは、麻酔性を有するが、高圧下でのみ生じる。不活性ガスへの曝露は、鳥類における進行性の低酸素症をもたらす。哺乳動物や鳥類は不活性ガスの化学受容体を持たず、そのようなガスと接触すると嫌悪感を経験しないため、動物福祉の観点から不活性ガスが望ましい。
*ただし、不活性ガスを使用して気絶した鳥は、低酸素の結果として激しい羽ばたきや痙攣がおこる可能性が示されている。一部の研究者は、二酸化炭素の吸入は不快であるが、不活性ガスを使用して低酸素症を引き起こす場合には、羽ばたきの羽ばたきと関連する外傷のリスクが依然として高いと主張している*3。
これは、鳥を密閉されたチャンバー内に置き、真空ポンプにより大気圧が低減させる方法のことである。研究は、LAPSが体腔で調整できる速度で体減圧が起こる場合より人道的で、無痛に無意識の状態にすることができることを示唆している*5。しかしEFSA(欧州食品安全機関)はこの方法を調査し2014年に「LAPSで使用された減圧率が、家禽の痛みや苦痛を引き起こすことなく無意識および死亡を誘発するかどうかは不明である。」とする報告*6 を出しており、ガス殺同様この方法もまだ研究の必要がある。(その後2018年5月16日、EUの規則改正でLAPSによる屠殺が認められた*9)
この方法は現在(2017年時点) 米国の1つの大規模加工工場で商業的に使用されている*1。
上記に挙げた殺し方は懸念の残る方法ではあるが、正しく使えば、日本で一般的に行われているスタニング無しの屠殺や電気水浴スタニングに比べると、鶏全体の苦痛が少なくなるだろうことは間違いない。これらの方法は、意識のある状態で逆さ吊りにする懸鳥作業が行われないことも動物福祉上の大きな利点である。
世界的に一般的な電気水槽式スタナーにも多大な問題点があり、CAKやCASへの切り替えが望まれている。
その問題点とは、
1:意識のあるまま懸鳥され逆さ吊りにされる
2:意識を失わせることができないケースがある
この割合は4%であり、100羽のうち4羽が適正に失神できていないという
※EFSA, 2012. Scientific Opinion on the electrical requirements for waterbath stunning
イギリスmoy park社(処理場、KFC社の取引先)では
「鶏が落ち着くように荷受では青い光を使っており、鶏の鳴き声などほとんどなく静かに対応していた。スタニングにはアルゴンと窒素と二酸化炭素の混合ガスに2分45秒暴露していた。懸鳥時にはすでに鶏は死亡していた1年半前までは電気バスによるスタニングを使用していたが、ガススタニングの方が鶏にも懸鳥するスタッフにも負担が少なく、さらに骨折や傷物率も減り、AWへの配慮が実益にも結び付いたことだった。(鶏肉卵情報 2014.10月号)
ネックカットの前にスタニングを行うと、屠体の残留血液が増えるのではないかと肉質への影響を懸念する人もいますが(血液の成分ヘモグロビンは酸化作用があるため、屠体に残った血液の量は肉の貯蔵期間や肉の味へ影響を及ぼすと言われている)、2007年にポートリーサイエンスに掲載された論文では、CO2を使用した屠殺、電気を使用した屠殺・スタニング無しの屠殺のいずれも肉の赤味度の判定において有意差が無いことが示されています**。
これはつまり残留血液に有意差がないことを示唆しています。
また、2014年に発表された論文*では、低電圧スタニング・中電圧スタニング・高電圧スタニング・スタニング無しのブロイラーの屠殺を比較して、次のような結果が示されています。
すでにイギリスの家禽の71%がガス殺による屠殺に切り替わっているという*7。企業の動きはさらに早く、マクドナルド、サブウェイ、スターバックス、北米有数のレストランチェーンの一つであるRestaurant Brands International(バーガーキングとティム・ホートン)、カナダ最大のレストラン会社CARAなどがCASへの切り替えを発表している。
2017年7月には、米国タイソン・フーズがニワトリと七面鳥の屠殺方法をCASに変えることを発表した。2017年の米国における調査ではブロイラー業界の多くが今後10年間で米国では10-49%がCASに切り替わるだろうという回答している*8。
ガスに変わる方法として、オランダの会社が販売している頭部のみのスタニングという方法もある。回復可能なスタニングであるという点でハラール屠殺にも対応できる。またトータルでガス殺よりもコストを抑えることができる。Wageningen大学の調査では95%の鶏に効果的なスタニングをすることができたという。
Head-only stunning offers alternative to gas (各屠殺方法の比較表も掲載されている)
電気水槽式スタニングすら行われていないことの多い日本、つぎに設備投資をするのであれば、この問題がすでに指摘されている電気水槽式スタナーではなく、CAKまたはCASシステム、あるいは頭部のみのスタニングが導入されるべきだろう。
その前に、まずは失神処理が行われていない割合や方法、と畜場到着時の骨折、脱臼、衰弱、化膿性皮膚炎や死亡の数の把握と報告など、実態が把握され、この議論が日本社会できちんと始まるべきだ。
アニマルウェルフェアに配慮し、動物の苦痛を軽減した畜産を推進するよう農林水産省に意見を。
http://www.maff.go.jp/j/apply/recp/index.html
屠殺を所管する厚生労働省に、屠殺場での動物福祉に取り組むよう意見を。
https://www.mhlw.go.jp/form/pub/mhlw01/getmail
*1 Humane Slaughter: Broiler Chickens-compassion in food business
*2 Gas Killing of Chickens and Turkeys-human slaughter association 2005
*3 A Review of Different Stunning Methods for Poultry—Animal Welfare Aspects (Stunning Methods for Poultry) 2015
*4 EU Regulation Changes View on Stunning at Slaughter-the poultry site 2013
*5 What is Low Atmospheric Pressure Stunning (LAPS)?-SPCA 2017
*6 Scientific Opinion on the use of low atmosphere pressure system (LAPS) for stunning poultry
*7 Animal Welfare at Slaughter Improving in UK the sheep site 2015
*8 Controlled atmosphere stunning: the way of the future?
*9 COMMISSION IMPLEMENTING REGULATION (EU) 2018/723 of 16 May 2018 amending Annexes I and II to Council Regulation (EC) No 1099/2009 on the protection of animals at the time of killing as regards the approval of low atmospheric pressure stunning
*10 畜産法、同族動物に仲間の屠殺現場を見せてはならない 2019/12/24
日本で牛と豚のスタニングは行われてるのに、鶏はスタニング無しなのは理解出来ない。方法もあるのだから導入して欲しい。世論が高まれば変わると思う。
なんで鶏だけ苦しみの少ないのだろう。